44 骨騎士、骨霊将になる
レイセルの周囲の空気が震えた。
焚き火の炎が細く伸び、
家の中の影が一斉に揺れる。
リリが息を呑む。
〈リリ〉
「レ、レイセル様……?」
レイセルは答えられなかった。
胸の奥で、何かが燃え上がるように熱い。
セリシアが静かに手をかざす。
〈セリシア〉
「……進化の条件は、すでに満たされています。
闘技場で得た魔力。
元勇者としての素質。
そして──救いたいという意志」
床に淡い紫の魔法陣が広がる。
レイセルの骨の足元から、
光がゆっくりと立ち上がった。
〈レイセル〉
「始まるのか」
セリシアは静かに頷く。
〈セリシア〉
「レイセル様。
あなたは“リッチジェネラル”へと進化するでしょう」
リリが目を見開く。
〈リリ〉
「リ、リッチ……ジェネラル?」
〈セリシア〉
「魂を導き、死者を率いる将。
ネクロマンサーの素質を持つ者だけが辿り着く、
極めて希少な進化です」
魔法陣が強く輝き、
レイセルの身体が浮かび上がる。
骨が震え、
光に包まれ、
ゆっくりと回転を始めた。
静かで、重く、
魂そのものが組み替わるような感覚。
骨の隙間から、
淡い青白い光が漏れ始める。
リリが震える声で呟く。
〈リリ〉
「レイセル様……光ってる!」
セリシアはその光景を見つめ、
祈るように手を胸に当てた。
〈セリシア〉
「……魂が、形を変えています。
どうか……導ける者になりますように」
鎧が変質し始めた。
黒鉄のような質感に変わり、
表面に淡い紋様が浮かび上がる。
それは魔法陣のようであり、
魂の波紋のようでもあった。
兜も変わる。
角のような装飾が伸び、
目の部分に淡い青い光が灯る。
そのとき──
レイセルの腰に下げられていた剣が、
ふっと光を帯びた。
勇者時代、死ぬ瞬間まで手放さなかった聖剣、
ブレイブソード。
それはまるで、
レイセルの進化に呼応するように震え、
鞘の中で淡い光を脈打たせた。
セリシアが小さく息を呑む。
〈セリシア〉
「……聖剣が……魂に共鳴している……?」
ブレイブソードは鞘から浮かび上がり、
レイセルの胸元へと吸い込まれるように近づく。
光が剣を包み、
その輪郭が揺らぎ──
次の瞬間、レイセルの右手に収まった。
魔物になってから今まで以上に聖剣が手に馴染む。
そして刃の奥に淡い魂の光が宿っていた。
〈レイセル〉
「……これは……」
声が少し低く、
響くようになっていた。
セリシアが静かに告げる。
〈セリシア〉
「それが……リッチジェネラル。
魂を導き、死者を率いる将。
あなたの“救いたい”という意志が、
この形を選んだのです」
光が収まり、
レイセルはゆっくりと地面に降り立った。
鎧は黒鉄。
兜は魂の光を宿し、
骨の身体はそのまま。
だが──
その存在感は、
スケルトンナイトとは比べ物にならなかった。
リリが震える声で言う。
〈リリ〉
「レイセル様……すごい力を感じますよ……」
レイセルは自分の手を見つめる。
骨の指先から、
淡い魂の光が揺れていた。
〈レイセル〉
「これが俺の進化か」
セリシアが静かに頷く。
〈セリシア〉
「ええ。
レイセル様は、魂を導く“将”となったのです」
レイセルの胸の奥で、
静かに、しかし確かに、
新しい力が脈打っていた。




