43 骨騎士、進化の時
焚き火の火は小さくなり、
家の中に落ちる影はゆっくりと伸びていく。
ガオランは深い寝息を立て、
リリはレイセルの隣で膝を抱えていた。
外では風が吹き、
廃村のどこかで軋む音がした。
家の隅──暗がりの一点を見つめた。
そこには何もない。
リリには、何も。
だがレイセルの視界には、
淡い光が揺れていた。
人の形をしていたり、
形を変えて丸くなったり。
風に溶けるように消えていく。
リリは不安げに尻尾を縮める。
〈リリ〉
「……レイセル様……?」
レイセルはゆっくりと目を細めた。
〈レイセル〉
「……おそらく……魂だ」
リリの呼吸が止まる。
〈リリ〉
「……魂……?」
レイセルは頷く。
〈レイセル〉
「“死者の軍団”を得てから……
視界の端に、光が揺れるようになった。
最初は気のせいだと思ったが……」
言葉が途切れる。
その瞬間──
家の空気がふっと揺れた。
焚き火の炎が細く伸び、
床に淡い紫の光が広がる。
リリが息を呑む。
〈リリ〉
「ま、魔法陣……!?」
光が静かに収束し、
黒いローブの女が姿を現した。
ネクロマンサー──セリシア。
彼女はレイセルを見つめ、
まるで確かめるように微笑む。
〈セリシア〉
「……見えているのですね、レイセル様。
魂が」
リリは驚愕してレイセルを見る。
〈リリ〉
「レイセル様……本当に……?」
レイセルは小さく頷いた。
〈レイセル〉
「……ああ。
ずっと……見えていた」
セリシアが静かに言葉を継ぐ。
〈セリシア〉
「それは魂の残滓。
あなたはもう、死者の声を拾える段階にあります」
リリは息を呑む。
〈リリ〉
「レイセル様が……ネクロマンサーに……?」
セリシアはゆっくりと首を振る。
〈セリシア〉
「いいえ。
“素質”があるということです」
焚き火の光が、セリシアの瞳に揺れる。
〈セリシア〉
「ネクロマンサーに必要なのは、
魔力でも、死霊術の知識でもありません。
魂を導く力──
それは、生前の私が持っていた“大僧侶”としての資質の様に」
リリが驚いたように目を見開く。
〈リリ〉
「セリシア様……大僧侶だったんですか……?」
〈セリシア〉
「ええ。
レイセル様が生まれるより、ずっと昔の話です」
レイセルは静かに問いかける。
〈レイセル〉
「……なぜ俺に、その話を?」
セリシアは一歩近づき、レイセルを見つめた。
〈セリシア〉
「あなたは元勇者。
人を導き、背負い、救う力を持っている。
ネクロマンサーに最も必要な資質です」
焚き火の音だけが、静かに響く。
〈セリシア〉
「レイセル様。
ネクロマンサーになりませんか?」
リリが息を呑む。
セリシアは続ける。
〈セリシア〉
「あなたなら、私より多くの魂を救える。
そして──」
一瞬、セリシアの瞳が揺れた。
〈セリシア〉
「私には救えない、
“まだ戦いの火が消えていない魂”を導ける」
レイセルの胸の奥で、何かが強く燃え始める。
レイセルは静かに目を閉じた。
〈レイセル〉
「……俺は……もっと救えるようになりたい」
その言葉が落ちた瞬間──
レイセルの周囲の空気が震えた。




