42 骨騎士、何か視える
フォレストリア王国へ向かう道は、
昼でも薄暗い森の影が重なり、
風の音さえ吸い込むように静かだった。
レイセルはその道を歩きながら、
ふと立ち止まることが増えた。
何もない空間を、じっと見つめる。
リリはそのたびに足を止め、
尻尾を不安げに揺らす。
ガオランも気づいていたが、
声をかけると壊れてしまいそうな静けさがあり、
結局何も言えなかった。
影の中の七体のスケルトンたちは、
主の視線の揺れを感じ取っているのか、
いつもより沈黙が深かった。
数日が過ぎた夜。
ガオランが日中に仕留めた魔物の肉を抱え、
森の奥で朽ちた廃村を見つけた。
家々は半分崩れている。
誰もいないのに、
生活の匂いだけが薄く漂っていた。
〈ガオラン〉
「ここで休もう。雨風をしのげる」
レイセルは頷き、
まだ形を保っている家に入った。
焚き火を起こすと、
火の光が壁の影を揺らし、
その揺れがどこか“生き物”のように見えた。
ガオランが串に刺した肉を火にかざし、
じゅう、と油が落ちる音が響く。
リリはその匂いに、
尻尾をぴんと立てた。
〈リリ〉
「あぁ……いい匂い!」
〈ガオラン〉
「お前、ほんと肉好きだよな」
〈リリ〉
「野草しか食べれない生活を想像してみてください!」
ガオランが苦笑する。
〈ガオラン〉
「そりゃ……つらかったな」
〈リリ〉
「つらかったです……!
今日の肉は……絶対に美味しいです……!」
リリは目を輝かせながら肉を受け取り、
熱いのも気にせずかぶりついた。
〈リリ〉
「んん~~~っ!
しあわせ……!」
ガオランはその様子を見て、
少しだけ肩の力を抜いた。
〈ガオラン〉
「お前、ほんと元気だな。
助かるよ。こういう時」
リリは口いっぱいに肉を詰めたまま、
もごもごと笑った。
〈リリ〉
「ガオランさんも……食べてください……
元気出ますよ……!」
〈ガオラン〉
「おう。そうだな」
二人のやり取りは、
廃村の静けさの中で小さな灯りのように温かかった。
レイセルはその光景を見つめながら、
ふと視線を横に逸らす。
家の隅──
誰もいない暗がりに、
淡い光が揺れた。
リリには見えない。
ガオランにも、スケルトンたちにも見えない。
レイセルだけが、
その“揺れ”を追っていた。
ガオランは肉を食べ終えると、
疲れ切ったように横になり、
すぐに眠りに落ちた。
家の中には、
レイセルとリリだけが残る。
火の音だけが、
静かに空気を満たしていた。
リリはしばらく迷ってから、
小さく口を開いた。
〈リリ〉
「……レイセル様。
最近……何を見ているんですか?」
レイセルは焚き火を見つめたまま、
しばらく動かなかった。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
〈レイセル〉
「……リリ。
お前には……見えないか?」
リリは首をかしげる。
〈リリ〉
「何を……ですか?」
レイセルは答えない。
ただ、家の隅──
誰もいない暗がりをじっと見つめる。
そこに、淡い光が揺れた。
焚き火が小さく弾ける。
その音が、
夜の静けさに深く沈んでいった。
──レイセルの視界の端で、
淡い光がまた揺れた。




