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閑話1 セレナ激務につき

魔王城・執務室。


机の上には、

書類の山。

山。

山。


そしてその山の上に、

さらに山。


〈セレナ〉

「…………」


サキュバスである彼女の美しい顔が、

完全に死んでいた。


〈セレナ〉

「……レイセル様……

 獣人を救って魔王軍に入れるのは素晴らしいことですが……

 書類が……終わりません……」


机の端には、

“新規入隊者”の書類が積み上がっている。


• 名前

• 種族

• 年齢

• 特記事項

• トラウマの有無

• 食事制限

• 住居の割り当て

• 装備の支給

• 医療チェック

• 心理ケアの申請

• 生活補助金の申請

• 魔王軍規則説明のサイン

• 研修スケジュール

• 追加の保護申請

• 追加の追加の保護申請

• 追加の追加の追加の保護申請



〈セレナ〉

「……多い……」


そこへ──


バァンッ!


勢いよく扉が開く。


〈ヴァルシア〉

「セレナ〜! おやつの時間じゃ〜!!」


セレナは書類から顔を上げずに答える。


〈セレナ〉

「魔王様。

 おやつは三分前に食べました」


〈ヴァルシア〉

「三分はもう昔じゃ!」


〈セレナ〉

「胃袋は昔を覚えております」


〈ヴァルシア〉

「むぅ……セレナは最近冷たいのじゃ……

 レイセルのやつが獣人を救うから忙しいのじゃろ?」


セレナは書類をめくりながら淡々と答える。


〈セレナ〉

「はい。

 レイセル様が救った獣人の皆様は、

 全員魔王軍に入隊しますので」


〈ヴァルシア〉

「良いことじゃ!」


〈セレナ〉

「ええ。

 ただし……

 “書類の処理”という概念を理解していただければ、もっと嬉しいのですが」


ヴァルシアは胸を張る。


〈ヴァルシア〉

「任せるのじゃ!」


〈セレナ〉

「……はい。

 最初からそのつもりです」


ヴァルシアは机の上の書類を見て、

目を丸くした。


〈ヴァルシア〉

「……セレナ。

 これは……山か?」


〈セレナ〉

「いいえ。

 地獄です」


〈ヴァルシア〉

「地獄……?」


〈セレナ〉

「レイセル様が“救った命の数”だけ、

 私の仕事が増えるのです」


ヴァルシアは少し考え──

にっこり笑った。


〈ヴァルシア〉

「セレナ、がんばれ!」


〈セレナ〉

「魔王様。

 励ましでは書類は減りません」


〈ヴァルシア〉

「では……魔王作戦じゃ!

 “セレナはもっとがんばれ!”」


〈セレナ〉

「魔王様。

 作戦でも書類は減りません」


ヴァルシアは机の上の書類を一枚手に取る。


〈ヴァルシア〉

「ふむ……これは……?」


セレナが淡々と説明する。


〈セレナ〉

「獣人の皆様の“食事量が人間の三倍”であることを

 魔王軍の食糧管理部に伝える書類です」


〈ヴァルシア〉

「三倍!?

 そんなに食べるのか!?」


〈セレナ〉

「はい。

 レイセル様が“いっぱい食べろ”と言ったそうです」


〈ヴァルシア〉

「レイセル……あやつ……」


セレナは淡々と続ける。


〈セレナ〉

「さらに、獣人の皆様は“寝床が柔らかいと眠れない”ため、

 藁のベッドを大量に用意する必要があります」


〈ヴァルシア〉

「藁……?」


〈セレナ〉

「はい。

 藁の調達書類がこちらです」


ドサッ。


新しい山が積まれる。


〈ヴァルシア〉

「セレナ……

 これは……終わるのか……?」


〈セレナ〉

「終わりません」


〈ヴァルシア〉

「終わらんのか……」


セレナは深くため息をつく。


〈セレナ〉

「ですが──

 レイセル様が救った命です。

 私が処理します」


ヴァルシアは少し黙り、

セレナの背中を見つめた。


そして──

ぽつりと言う。


〈ヴァルシア〉

「……セレナ。

 お主は偉いのじゃ」


セレナは手を止めずに答える。


〈セレナ〉

「魔王様がそう言うなら、

 少しは報われます」


ヴァルシアはにっこり笑った。


〈ヴァルシア〉

「よし!

 ではセレナ、がんばれ!」


〈セレナ〉

「魔王様。

 だから励ましでは書類は減りません」


魔王城の執務室には、

今日もセレナのため息が響いていた。

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