36 骨騎士、絶体絶命
鉄格子に手を伸ばそうとした瞬間──
奥の巨大な扉が、ギギ……と嫌な音を立てて開いた。
松明の光が揺れ、通路に長い影が伸びる。
〈リリ〉
「……誰か来ます!」
レイセルは即座に影へと沈む。
リリもレイセルに掴まり、二人は闇に溶けた。
扉の向こうから現れたのは──
黒いローブをまとった男。
その後ろには、鎖で繋がれた巨大な魔物が二体。
一体は、全身が刃のような骨で覆われたボーンリザード。
もう一体は、四つ目の巨体を持つオーガ・ベア。
〈魔物使い〉
「……さて。次の見世物はどいつにするかねぇ……」
鉄格子の前に立ち、獣人たちを見下ろす。
〈魔物使い〉
「おい、まだ息してるやつは手を挙げろ。
……まあ、どうせすぐ死ぬんだがな」
獣人たちは誰も動かない。
動けない。
魔物使いは鼻で笑い、ボーンリザードの鎖を引いた。
〈魔物使い〉
「じゃあ適当に選ぶか。おい、そこの狼──」
その瞬間。
影が揺れた。
レイセルが魔物使いの背後に現れ、
首を狙って聖剣を振り下ろす──
だが。
ガキィンッ!!
聖剣が、ボーンリザードの骨に弾かれた。
〈レイセル〉
「……っ!」
魔物使いが振り返り、口角を吊り上げる。
〈魔物使い〉
「影潜か。珍しいスキルだな。
だが不意打ち対策してるに決まってるだろ」
レイセルは即座に影へ戻ろうとするが──
ボーンリザードがレイセルに向かって突進する。
レイセルは避けるが、
影に潜れないため動きが鈍る。
刃の尾が骨の腕を切り裂き、
白い破片が飛び散った。
〈リリ〉
「レイセル様!!」
〈レイセル〉
「……スキルを発動する暇がない!」
〈魔物使い〉
「影潜なんて発動の遅いスキル使わせる
訳ないだろ?」
オーガ・ベアが拳を振り下ろす。
レイセルは受け止めるが、
地面が陥没するほどの衝撃に膝が沈む。
〈レイセル〉
「……っ……!」
影潜が封じられた状態では、
この二体を同時に相手にするのは厳しい。
魔物使いは楽しそうに笑う。
〈魔物使い〉
「どうした? さっきみたいに背後取ってみろよ」
レイセルは歯を食いしばる。
骨が軋む音が響く。
オーガ・ベアの拳を、わずかにいなす。
何とか力の流れを逸らす。
拳が地面にめり込み、
衝撃が横へと逃げた。
〈レイセル〉
「……っ、直接喰らうとまずいな……!」
その隙を突き、
レイセルは踏み込む。
狙いは──脚。
ボーンリザードではなく、
巨体の支えであるオーガ・ベアを崩す。
聖剣が閃き、
膝裏へと斬り込む──
だが。
ガギィンッ!!
硬い手応え。
肉ではない。
鉄のような“何か”が、刃を弾いた。
〈レイセル〉
「……強化されている……!?」
〈魔物使い〉
「当たり前だろうが」
嘲る声。
〈魔物使い〉
「ただの魔物を見世物にすると思うか?」
次の瞬間──
ボーンリザードの尾が、横薙ぎに迫る。
空気が裂ける音。
レイセルは咄嗟に身を屈めるが、
──遅い。
刃の尾が肩をかすめ、
鎧が弾け飛ぶ。
〈レイセル〉
「ぐっ……!」
体勢が崩れる。
そこへ間髪入れず、
オーガ・ベアの拳が振り下ろされる。
回避は──間に合わない。
レイセルは歯を食いしばり、
聖剣を盾に構える。
衝突。
轟音。
視界が白く弾けた。
地面に叩きつけられ、
石が砕ける。
〈リリ〉
「レイセル様!!」
砂煙の中で、
レイセルは片膝をついたまま、
なんとか意識を繋ぎ止める。
〈レイセル〉
「……連携している……」
低く、吐き出す。
〈レイセル〉
「片方が避け道を潰し、
もう片方が確実に仕留めに来る……」
視線を上げる。
二体の魔物は、まるで訓練された兵のように、
無駄なく位置を取っていた。
〈魔物使い〉
「ようやく気づいたか?」
愉快そうに笑う。
〈魔物使い〉
「そいつらはな、“群れ”で戦うように仕込んである」
わざとらしく肩をすくめる。
〈魔物使い〉
「お前みたいな単騎の雑魚を狩るには、
ちょうどいいだろ?」
レイセルは歯を食いしばり、聖剣を支えに立とうとする。
だが──膝が、震える。
視界の先で、二体の影が重なる。
逃げ道は、もうどこにもなかった。




