26 骨騎士、魔王軍の救済を目の当たりにする
地下牢の扉が開いた瞬間、
レイセルは言葉を失った。
牢の中には、弱り切った獣人たちが横たわっている。
呼吸は浅く、目の焦点も合っていない。
動かない者も多い。
〈リリ〉
「……っ……もう……」
リリは震えながらレイセルの肩にしがみつく。
レイセルはゆっくりと歩き、
一人ひとりの状態を確かめた。
だが──
どの獣人も、もう助かる見込みはなかった。
〈レイセル〉
「……俺は……何も……」
拳が震える。
骨の指が軋むほど強く握りしめられる。
その時──
地下牢の空気がふっと揺れた。
冷たい風が吹き、
淡い紫の魔法陣が床に浮かび上がる。
〈リリ〉
「えっ……魔法陣……?」
魔法陣の中心から、
黒いローブを纏った女性が静かに現れた。
長い銀髪。
死人のように白い肌。
瞳は深い紫。
〈???〉
「……間に合いましたね、レイセル様」
リリが目を丸くする。
〈リリ〉
「あなたは……!」
女性は優雅に一礼した。
〈セリシア〉
「魔王軍ネクロマンサー、セリシアと申します。
セレナ様より“救助の補佐”を命じられて参りました」
レイセルは息を呑む。
〈レイセル〉
「……助けられるのか?」
セリシアは静かに首を振った。
〈セリシア〉
「残念ですが……
息のある者も、もう助かる見込みはありません。
肉体が限界を超えています」
レイセルの胸に、重い痛みが走る。
〈レイセル〉
「……俺は……何も……できなかった……」
セリシアは優しく微笑んだ。
〈セリシア〉
「いいえ。
あなたが来なければ、この者たちは“苦しんだまま”死んでいました。
あなたが来たから、救いが間に合ったのです」
レイセルは顔を上げる。
〈レイセル〉
「救い……?」
セリシアはゆっくりと獣人たちの前に歩み寄る。
〈セリシア〉
「息のある者たちへ告げます。
姿が変わっても、生きたいと願う者は──
私の口付けを受け入れなさい。」
リリが息を呑む。
〈リリ〉
「く、口付け……!?」
セリシアは一人の獣人の前に膝をつき、
そっと額に唇を触れさせた。
淡い光が生まれ、
獣人の身体から“魂”がふわりと抜け出す。
魂は苦しみから解放されたように、穏やかな表情をしていた。
セリシアはその魂を優しく抱き寄せる。
〈セリシア〉
「大丈夫。もう痛くありません」
次々と、息のある獣人たちに口付けが施され、
魂が静かに身体から離れていく。
その光景は、
死ではなく“救済”そのものだった。
セリシアは立ち上がり、
今度は動かない獣人たちへ手をかざす。
〈セリシア〉
「死して止まる者たちも──
連れて行きます」
紫の魔法陣が広がり、
亡骸からも魂が現れる。
苦しみの表情はなく、
どの魂も穏やかだった。
セリシアは両手を広げ、
優しく語りかける。
〈セリシア〉
「さあ……
私と共に行きましょう。
魔王軍は、あなたたちを決して見捨てません」
魂たちは光となり、
セリシアの周囲に集まっていく。
その光景は、
まるで夜空に昇る星のように美しかった。
セリシアはレイセルの前に立ち、静かに微笑む。
〈セリシア〉
「レイセル様。
またこのようなことがあれば、いつでも呼んでください。
魔王軍は“死者の救い”も担っていますので」
レイセルは深く頷いた。
〈レイセル〉
「……ありがとう。
俺には……まだ、力が足りない」
セリシアは首を振る。
〈セリシア〉
「いいえ。
あなたが怒り、戦い、ここまで来たから──
この者たちは救われたのです」
そして、セリシアは魔法陣に包まれ、
光と共に消えていった。
静寂が戻る。
レイセルは拳を握りしめた。
〈レイセル〉
「……こういう救い方が……あるのか」
リリがそっと肩に手を置く。
〈リリ〉
「レイセル様……」
レイセルは目を閉じた。
〈レイセル〉
「俺は……まだ弱い。
もっと強くならなければ……
誰も救えない」
その言葉は、
静かな誓いのように地下牢に響いた。




