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第4.5話:月光の筆談と、家族の記憶1/3

「声を発するセリフ」

『手話を使用した会話』

【筆談を使用した会話】

《モールス信号を使用した会話》

(心の中、ひとり言)

アジトの夜は、ひっそりとしていて、けれど不思議なほど温かい。スラムの冷たい夜風がガタガタと窓を叩く深夜、シィルはベッドの中でふと目を覚ました。

喉の渇きを覚え、同じ部屋で眠る他の仲間たちを起こさないようにそっと部屋を抜け出し、薄暗い食堂へと静かに足を運んだ。

ランプの灯りが淡く照らす食堂に入り、シィルは小さく息を呑む。そこには、使い古された長椅子にだらしなく背もたれに体重を預けている統護とうごの姿があった。彼の膝の上には、まるで本物の小犬のように丸まって無邪気な寝息を立てているフェンがいる。

統護はいつものぶっきらぼうな顔のまま、自分の膝の上で寝息を立てるフェンの頭を、大きな手で優しく、ガシガシと愛おしそうに撫で回していた。その向かいの席には、赤茶色のハネ髪を揺らしたクロウが座り、静かに夜を過ごしている。

足音のないシィルの接近にいち早く気づいたクロウは、ふっと八重歯を覗かせて笑うと、彼女にハーブティーを淹れてあげるために音もなく席を立ち、厨房へと向かった。シィルは勧められるように椅子に腰掛けると、懐から、昼間に文房具店で統護が買ってあげた小さなノートとペンをそっと取り出した。

窓から差し込む優しい月光の明かりを頼りに、サラサラと、驚くほど流麗で綺麗な文字を紡いでいく。

アジトに来てまだ数日の彼女は、手話の初心者だ。まだ教えてもらった『ありがとう』の動きを胸の前で不器用に結ぶのが精一杯で、深い会話を伝えるには、この筆談しかなかった。

書き終えたノートを、シィルは統護の前にそっと差し出す。そこには、丁寧な筆致でこう書かれていた。


【クロウさんとフェンちゃんについて…お二人は、いつからここに居るのですか?】


それを見た統護は、フェンの頭を撫でる手を一瞬だけ止め、視線を厨房へと向けた。統護は空いている片手で、コンコン、とテーブルの木肌を指先で叩く。

テーブルから床へと伝わる微細な振動。ハーブティーの湯気が立つカップを持って戻ってきたクロウが、その振動に気づいて統護を見た。統護はクロウに向けて、片手で手話を紡ぐ。


『お前たちの過去を、この子に話してもいいか?』


クロウは湯気の向こうで、いつもの飄々とした笑みを浮かべ、何でもないことのように深く頷いてみせた。


「……大した話じゃねぇよ」


統護はハーブティーを一口含んだシィルを見つめ、膝の上のフェンを起こさないよう、低く静かな声でぽつりぽつりと語り始めた。「クロウを拾ったのは、4年前だ。アイツは当時19歳だった……」




(其ノ壱・完 次回、クロウの過去)

※モールス信号は日本の五十音、イロハ・モールス(和文信号)で会話してる設定です。

※手話魔法の手話は実在する動きをベースに格好良く映えるように「魔法の結印アクション」としてスタイリッシュにアレンジした造語手話になっています。


次回もお楽しみに!

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