第4話:『紫電の牙』との再会
「声を発するセリフ」
『手話を使用した会話』
【筆談を使用した会話】
《モールス信号を使用した会話》
(心の中、ひとり言)
シィルをアジトへ迎え入れてから数日。
彼女の足の怪我もクロウの特製スープと休息のおかげで随分と良くなり、少しずつアジトの生活にも馴染み始めていた。
だが、家族が増えればそれだけ必要な金も増える。統護は路地裏にシィルを残し、クロウと共に数日ぶりの日銭を稼ぐため、冒険者ギルドへと足を運んでいた。ギルドの重い扉を開けた瞬間。
「おい、万年Eランクどもが来やがったぜ」
隣を歩くクロウの目つきが、一瞬で鋭い野良犬のものへと変わった。
耳の聞こえないクロウは、他人の放つ『悪意の視線』が針のように肌に刺さって痛む特殊な触覚を持っている。
そのクロウの身体が、今、不快な拒絶反応を示すようにピクリと強張っていた。クロウの視線の先──ギルドの中心。
そこに、ひときわ上質な装備を身に纏い、周囲の冒険者たちから羨望の眼差しを向けられている一団がいた。Aランクゴールド級、──クラン『紫電の牙』のリーダー。
その中心にいるのは、人当たりのいい爽やかな笑みを浮かべた山吹色の髪の魔剣士、ライナス。かつて統護を「無能の金髪」と罵り、パーティーから道具のように使い捨てて追放した張本人だった。
「おや、あれは……懐かしい顔がいるじゃないか。トーゴかい?」
統護の姿を捉えたライナスが、親しげな声を上げて近づいてくる。外面だけは一流の青年を演じる彼の瞳の奥には、変わらない侮蔑の光が濁っていた。ライナスの後ろから、クランの主力メンバーたちがゾロゾロと姿を現す。
「ケッ、まだ生きてやがったのかよ、あの肉盾」
そう吐き捨てたのは、サブリーダー的存在の大盾持ち、バロックだ。坊主頭に灰茶色の眉を歪ませた土属性の使い手。かつて統護に無理難題な肉盾を押し付け、前線で嘲笑っていた男だ。
「お久しぶりですね、トーゴさん。まだその無能な金髪のまま、スラムのドブネズミを続けていらっしゃるのですか?早く才能のなさを自覚して引退なさればよろしいのに」
天色の髪を揺らし、上品な仕草で最悪な毒舌を放ったのは、水属性のヒーラーであるセリア。
「おいおい、皆そこまで言ってやるなよ。彼だって必死に生きているんだから」
ライナスがわざとらしく宥めるが、その言葉には一切の助け舟など含まれていない。
ライナスの傍らには、若草色の髪をした索敵役のキースと、銀朱色の髪をなびかせ、腰の魔剣に手をかけた火属性の魔剣士・ルカが、統護たちを値踏みするように冷たく見下ろしていた。
クロウは、彼らから一斉に放たれる凄まじい「悪意の視線」の痛みに耐えながら、いつでも大将を庇えるようにナイフの柄に手をかける。
だが、統護は表情一つ変えなかった。10年という歳月、そして二度の追放は、彼の心を彼らが想像もできないほど冷徹に、そして強固に鍛え上げている。
「……何の用だ、ライナス。俺たちは依頼を受けに来ただけだ。お前たち大物クランの邪魔をする気はない」
統護が低く、冷めた声で告げる。
「冷たいじゃないか。昔の仲間のよしみだ、もし良ければ僕たちの依頼を手伝わせてあげようか?もちろん、荷物持ちとしてだけどね」
ライナスがクスクスと笑う。バロックやセリアも、それに合わせて小馬鹿にしたような笑い声を上げた。
「断る。俺には、もう守るべき『家族』がいるんでね。あんたたちの安い挑発に付き合っている暇はないんだ」
統護はライナスたちの横を無言で通り過ぎ、掲示板から一枚の依頼書を剥ぎ取った。背後からバロックの「チッ、すかしやがって」という忌々しげな声が聞こえたが、統護は振り返りもしない。
(ライナス……。いずれ、その綺麗なお面の裏の顔、世界中に暴いてやるよ)
かつて自分を裏切った者たちへの静かな反逆の炎を胸に宿し、統護とクロウはギルドを後にした。
「……キース、トーゴの動向を探ってくれるかい?」
「承知した(ニヤリ)」
これから始まる大きな激動の予感を、その背中に感じながら──。
(第4話・了)
ギルドのランク順
SSSランク:不壊石アダマンタイト
※神話級に該当するのでギルドランクからは除外される。
Sランク:金剛ダイヤモンド
Aランク:白金プラチナ> 黄金ゴールド
Bランク:紫水晶アメジスト> 白銀シルバー
Cランク:翠玉エメラルド> 蒼玉サファイア
Dランク:青銅石ブロンズ> 碧玉ターコイズ
Eランク:鉄アイアン
Fランク:石ストーン
Gランク:木ウッド
※モールス信号は日本の五十音、イロハ・モールス(和文信号)で会話してる設定です。
※手話魔法の手話は実在する動きをベースに格好良く映えるように「魔法の結印アクション」としてスタイリッシュにアレンジした造語手話になっています。
次回もお楽しみに!




