32.
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
病院が完成したのは、冬の入り口だった。
治療院の隣に建った新しい建物は、これまでの廃屋を改造した治療院とは比べものにならない規模だった。入院室が八部屋。処置室が三つ。血液検査のための検査室。薬の調合室。そして、手術専用の部屋。
八宝斎が、手術室の設備に特に力を入れた。
「照明はここに集中させて、換気はこの向きで。処置台の高さは先生の身長に合わせて、器具の棚は使いやすい位置に」
完成した手術室に立ち、トーコはしばらく何も言わなかった。
「……どうかな」
八宝斎が、横でそわそわしながら聞いた。
「完璧です」
「よかった。器具もぜんぶ作り直した。顕微鏡の改良版も置いといたから」
「ありがとうございます」
「えへへ」
八宝斎が、満足そうに笑った。
◇
開院の前日、トーコはガルドとミリアを呼んだ。
三人で、新しい建物の中を歩いた。
検査室に入り、調合室を見て、手術室を通り、入院室を確認した。
ガルドが、調合室の棚を見ながら言った。
「広いな」
「ガルドさんが欲しいと言っていた棚の数、全部入れました」
「……そうか」
「薬草の保管室も別に作りました。温度と湿度が管理できます」
「管理、できるのか」
「八宝斎が魔道具を仕込んでくれました」
ガルドが、棚を一本ずつ確認しながら、ぽつりと言った。
「先生が廃屋に来たとき、棚を一緒に作ったな」
「覚えています」
「あの頃と比べると、えらい違いだ」
「ガルドさんがいてくれたから、ここまでこられました。本当に、ありがとうございます」
ガルドが、しばらく棚を見ていた。
それから、ふんと鼻を鳴らした。
「礼はいい。仕事をするだけだ」
それがガルドなりの返事だと、トーコはわかっていた。
ミリアが入院室の窓から外を見ていた。
「先生」
「なんですか」
「ここから、デッドエンドの街が見えます」
「そうですね」
「先生が来る前は、この街がどんな街だったか、私は知らないけど……今は、こんな病院ができて。先生が来てから、変わったんだなって」
「みなさんが変えてくれました」
「先生が種を蒔いたんですよ」
ミリアが振り返って、笑った。
「ずっと、先生の隣にいます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
シルフィが「きゅ」と鳴いた。
◇
開院の朝、人が集まっていた。
街の人間が、新しい建物を見上げながら話していた。セルシウスが建物の前に座り、スノウが隣にいた。ライナルトが少し離れたところから全体を見ていた。
トーコが扉を開けようとしたとき、後ろから声がした。
「先生」
振り返ると、セラが立っていた。
その後ろに、見覚えのある顔と、見覚えのない顔が混じって、十人ほどが並んでいた。ミラもいた。みんな白い法衣を着ているが、協会の紋章が外れていた。
「セラさん、どうしたんですか」
セラが、真っ直ぐトーコを見た。
「協会を、やめてきました」
トーコが、少し間を置いた。
「……みなさんも」
「はい。今回の嫌がらせで、ほとほと嫌気がさしました。元々、やり方には気に食わないところがあって」
ミラが続けた。
「先生を攻撃することしか考えていない人たちと、一緒にいたくなくて」
「私たちを先生のところに置いていただけませんか。一緒に働かせていただけたら」
セラの声は、落ち着いていた。迷いのない声だった。
トーコは、しばらく全員を見た。
それから、言った。
「少し、話をしてもいいですか」
「はい」
「中に入ってください」
◇
新しい建物の待合室に、十数人が座った。
トーコは、全員の前に立った。
「嬉しいと思っています。みなさんが来てくれたことは、正直に言って、嬉しい」
セラが頷いた。
「でも、一度よく考えてほしいのです」
トーコが続けた。
「この世界において、異端はどちらだと思いますか」
「……先生のことですか」
「そうです。魔力ゼロ、無紋、協会の免許なし。糸で縫い、血を調べ、腹を開く。この世界にもともとなかった方法で治療をしている。どう考えても、異端はこちらです」
部屋が静かになった。
「協会は長い歴史を持っています。治癒魔法は、この世界で確かに機能している。あなたたちは金紋や銀紋を持つ、正規の治癒師です。王道を歩める立場にある」
「先生、でも」
「聞いてください」
トーコが続けた。
「私のそばにいることは、安定した立場を捨てることになります。協会との関係が切れれば、仕事の幅が狭まる場合もある。この先、また協会が何かをしてくれば、あなたたちも巻き込まれます。それでもいいのか、もう一度考えてほしい」
部屋が、静かだった。
セラが、しばらく床を見ていた。
それから、顔を上げた。
「先生は、私たちを心配してくれているんですね」
「そうです」
「その上で、来るなと言っているわけではない」
「来るなとは言っていません。よく考えてほしいと言っています」
セラが、隣のミラを見た。
ミラが頷いた。
後ろの聖女たちが、互いに顔を見合わせた。
セラが立ち上がった。
「先生、私たちは考えた上で来ました」
「……はい」
「先生の治療を見てきました。先生が患者に向き合う姿を見てきました。理由を教えてもらって、自分たちの魔法の使い方も変わりました。私はパニック障害だと教えてもらって、初めて自分のことがわかった」
セラの声が、少し震えた。
「先生のそばで働きたいという気持ちに、異端かどうかは関係ありません。先生を支えたくて来ました。それだけです」
ミラが続けた。
「王道を歩めば安定する。その通りだと思います。でも私が学びたいのは、先生から学んだことです。それを使える場所で働きたい」
後ろの聖女たちが、次々と立ち上がった。
「私もです」
「同じです」
「先生のそばにいたい」
トーコは、全員を見た。
胸の中で、何かが静かに動いた。
「……わかりました」
トーコが言った。
「よろしくお願いします」
セラが、深く頭を下げた。
ミラが、泣きそうな顔で笑った。
ミリアが戸口で「また増えた……!」と言った。
ガルドが「賑やかになったな」とぼそりと言った。
シルフィが「きゅ」と鳴いた。
スノウが外で「ぐ」と鳴いた。
魔力視に映るのは、満ち足りた翠の光だ。
——ここは、そういう場所になった。
新しい病院の扉が、朝の光の中で開いた。
【おしらせ】
※5/6(水)
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