第5話 人間を襲う
お前が来るんかい!!
ネズミの死体を餌にして魔物を誘い出そうとしていたのだが、来たのは赤いイノシシの魔物だった。
流石にまだ挑めない。
ゲームだと確信できていたらダメもとで挑戦するのも吝かではないけど、今は無理だ。
勿体ないが死体はくれてやることにし、俺はこそっと木から降りてその場から急いで離れた。
仮拠点にしている川辺へと無事に戻る。他の魔物が水飲みに来た形跡はない。
次はどうしようか?
暫く森の中はうろつけないし……進んでみるか。川沿い。
そういうわけで俺は川に沿って移動する。
……黄色いキウイが川に沿って群生してる。
なるほど。
水気と日当たりのいい場所に生える植物っぽいな。
おっ、魚が跳ねた。
観光気分で自然を満喫していると、すぐに森を出てしまった。
少し先、簡素な木の壁に囲まれた村が見える。周りには麦と野菜とぶどうの畑があって、農作業している人間たちがいた。
雰囲気的に、文明レベルはファンタジー小説でよくある中世ぐらいか?
近づくのは――やめておこう。見つかって騒ぎになると強い人間が森の中を探索しかねないし。
こっちに気付かれる前に森の中へ引き返し、そのまま川辺に戻ってくる。
さてどうしよう?
思った以上に人間の領域が近い。もしかしたらこの森も人間が定期的に入って採集しているかもしれない。
そうなると、他のNPCの魔物より活発に動くプレイヤーの影響でなにがどうなるか見当がつかない。巻き込まれないようにするには森の深くに移動するか、そもそも森を離れるかだ。
けど、どちらも危険だ。今の俺はキャットというネコそのものな魔物。種族的には雑魚と考えていい。そんな奴が普段いないような場所を積極的に移動していたら目立つし、上位の魔物にとって格好の獲物だ。
……まぁ、なるようにしかならんか。
黄色いキウイ食べて酔って、昼寝でもしよ。
気分転換にパクパク黄色いキウイを食べる。まだまだ沢山あって幸せな気分。
そして木の上で寝た。
――んん、なんか騒がしいな。
それにこの臭い……火事か!?
ばっと起きて火元がどこかと探るが見当たらない。
何が起こっている?
――まさか!
森の中で火事が起きるなんてことは、乾燥している時期か落雷でもなければ早々発生しない。だとするならば人為的なことが原因であり、臭いのもとを辿って行けば自然と森を出てしまった。
うっ、眩しい……。
傾いた太陽が横から強い光を浴びせてくる。目を細めて騒がしい村をじっと見つめれば、光に適応し始めた視界が壁の裏で燃え盛る火と黒煙を映した。
正面の木の壁の一部が破壊されており、中では人間の悲鳴が聞こえる。
いったい、何が起こっている?
確かめなければ。
状況を把握する為、俺は小走りで破壊された場所から村の中へと入った。
村の中は多くの家が燃え、崩れ、人々が倒れていた。特に若い男や屈強な男が多く、傍に槍や剣や弓矢などが落ちている。
魔物の襲撃にでも遭ったのか?
それとも、そう見せかけるように襲った頭のいい賊の仕業?
わからないままに物陰を移動しながら探索していると、一番立派で頑丈そうな家を襲う巨人を見つけた。
全長四メートルほどの人型で灰色の肌をした魔物だ。顔は醜く、体はだらしなく腹が出ていて、腰に布を巻いている。
そいつはたった今、家の屋根を引っぺがしたところだった。
女性や子供の悲鳴が聞こえだす。
人型の魔物――恐らくはトロールだろうそいつは腕を伸ばすと村人の若い女性を掴み取り、躊躇うことなく頭から食べた。
引きちぎられた部分から血が噴出し、周囲を赤く染める。
トロールだろうそいつはもしゃもしゃ食べつつ、家から飛び出して逃げた村人の中で、逃げ遅れた女性をさらに捕まえて食べ始めた。
これは、千載一遇のチャンスだ!
混乱に乗じてこっそり一人いただくとしよう。
……あいつがいいな。
俺は逃げ惑う村人の中から、一番仕留めやすい年端も行かない小さな少女に向かって走り出した。都合がいいことに彼女は他の人たちからはぐれて一人で家の裏に隠れた。
少し遅れて到着し、少女がうずくまっているのを発見。俺と目が合うと小さく悲鳴をあげて後退り始めた。
恨みはないが、俺の為に死んでくれ。
魔物が人間を食べれば、弱い魔物を倒すより経験値を多く獲得し、人語を話せるようになるアビリティが手に入る。これは運営が、プレイヤーが序盤にやるべき行動として推奨していた。
あまり時間を掛けると他の人間が来るかもしれないからな。
一気に決める!
【ネコパンチ】! 【ネコパンチ】! 【ネコパンチ】!
少女の顔を執拗に攻撃。すると両腕でかばおうとするので下から潜り込んで首にガブリと噛みついた。首の皮膚抉り血管を引き裂き、大量の血が流れ出る。
少女は痛みに叫び、俺を掴んで引き剥がそうとしたり叩いたりしてくるが、必死に食らいついて離さない。
暫くすると少女の力が徐々に抜けていき、動かなくなった。
ちょっと罪悪感があるけど、これも魔物として生きる為に必要なことだ。いただきます!
ガブリと一口。
これは――普通の味だ。豚肉に近い。
貴重なたんぱく源だから今は食べるけど、心情的に積極的に食べたいとは思わないな。ブタの方が美味しいし。
ピコン。
〈レベルが上がりました〉
〈アビリティ【人語理解】を習得しました〉
おっ、やっぱり弱い魔物を倒すより経験値が多い。
それに目当てのアビリティもちゃんと習得した。
ステータス! あと詳細!
名前:
種族名:キャット
レベル:4
スキル:【ネコパンチ】
アビリティ:【人語理解】
アビリティ【人語理解】
・人間の言葉と文字を理解し、話せるようになる。
よし。そこそこ食べたし長居は無用。さっさとずらかろう。
早々に村を脱出し、俺はいつもの川辺へと戻った。




