第43話 神化
「あーマイクテス、マイクテス……ヨシッ」
さて、なにから話そう?
……自己紹介して、あとは流れでいくか。
「クルス王国の民のみんなこんにちはー。私はチエ。君たちのいうネコ神様だよ」
「民の皆様、お久しぶりです。クルス王国の姫、ノルンです。この方のおっしゃっていることを、私の名に賭けて保証します。彼女こそが……我々の望んでいたネコ神様です」
魔王の凄い視力で遥か下にいる人間たちを見ると、呆然としていたり、拝み始めたり、涙を流したり、歓声を上げたりと様々な反応があった。
いや、みんな信じるの早過ぎない!?
これから信じさせる段階なんだけど。
「それじゃあ早速、力の一端と証拠をお見せしよう。ノルン、準備はいい?」
「はい、いつでもどうぞ!」
フンス、と彼女はやる気満々だ。
「じゃあ……私の眷属になれ」
魔王アビリティ【魔王】の効果の一つを発動!
すると俺の魔王のオーラの一部が彼女に移り、体が光って人間の耳が消え、頭にネコ耳、お尻からはドレスの生地を突き破ってネコ尻尾がにょきっと生えた。
ピコン。
<ノルンがチエの眷属になり、種族『人間』から種族『ワーキャット』になりました>
ほう、ワーキャット。
もっと魔物っぽい姿になると思ったら、可愛いじゃないか。
「似合ってるよ、ノルン」
「ありがとうございます。これでやっと……私はネコ神様の眷属になれたのですね」
ノルンは嬉しそうに耳をピコピコ、尻尾をピンと立てて揺らす。
「民の皆様、見てください! 私はネコ神様の力を分け与えられ、その証としてネコ神様の耳と尻尾を授かりました!」
彼女の見せつけるような宣言によって、街中で歓声が上がり始めた。歓迎され、信仰され、恐怖とは別の想いが力として沸き上がってくるのが感じられる。
「ネコ神様、今です! 民の皆様を眷属に!」
「うん! みんないくよー!」
眷属化の効果――この街全体に発動!!
魔王のオーラが俺から大量に発し、街を一気に覆う。俺を信仰している民たちが次々とネコの耳と尻尾を生やしてワーキャットに変わっていく。
脳内ではピコンピコンピコンピコンと連続して音が鳴り、眷属化の通知が止まらない。
うるさっ!
そんな中、一際大きなピコン! と音がして連続するピコンピコンが止まった。
<規定以上の信仰心を確認しました。神化を開始します>
来たか……!
体が光に包まれ、すぐに収まる。
ピコン。
〈身体のダメージ及び状態異常を全てリセットし、神化が完了しました〉
〈あなたは『ネコ神』になりました〉
〈あなたは条件を満たした為、『神』の称号が付与されます〉
〈それに伴い、管理者権限、神スキルと神アビリティ、神化による新たなスキルとアビリティを習得しました〉
〈魔王スキル【魔王の覇気】は、神スキル【神気】に変化しました〉
〈魔王アビリティ【魔王】は、神アビリティ【神】に変化しました〉
〈アビリティ【人語理解】がアビリティ【全言語理解】に変化しました〉
〈アビリティ【絶世の美女】がアビリティ【魅惑の女神】に変化しました〉
〈スキル【完全錬金術】を習得しました〉
〈スキル【時空干渉】を習得しました〉
〈スキル【精神干渉】を習得しました〉
〈スキル【念話】を習得しました〉
〈アビリティ【限界突破】を習得しました〉
〈アビリティ【繝阪さ逾樊僑蠑オ繝代ャ繧ッ】を習得しました〉
わーお。一気に増えた。
でも最後の文字化けアビリティが不穏。
……なんか、変化を感じないな。
「ノルン。なにか変わっ――」
って、なんか拝まれてる!?
ノルンが膝を着いて手を組み、見事な祈りの姿勢をしていた。民たちの方に視線を向ければ、眷属化した全員が同じ姿勢。
うわーこれが宗教ってやつか。自分が対象だから大丈夫だけど、外から見たら引くぐらいに凄い光景だな。
「ネコ神様、あなた様の帰還を我らクルスの民は心待ちにしていました。おかえりなさいませ」
「……うん。ありがとう」
どうしようこの状況……――むっ!
気配を感じて振り向けば、不思議の国が現れてミスターが中から出てきた。やたら上機嫌だ。
「やぁやぁネコさんネコさん、無事に神へと到ったみたいだね! ひとまず、おめでとう! と言っておこう」
「ありがとう。ミズナラは?」
「あぁ……逃げられてしまった。そろそろ攻撃がくるんじゃないかな?」
いや呑気!
任せろって見栄張ったのなら責任持ってくれよ!
あーあ、なんか遠方で強い気配を感じたと思ったらめっちゃ光ってるし!!
これ、逃げるか守らないかしないと街がヤバイでしょ。
……丁度いいし、神の力とやらを試してみるか。
えーっとまずは……【神気】で結界的な防御!
思いつきで【神気】とやらを発動してみれば、思った通りにオーラが薄い膜として広範囲に素早く展開され、街一つを覆った。
遠方の上空にいるミズナラが矢を放ち、アニメのような超極太ビームがこっちに向かって飛んでくる。
ノルンは覚悟が決まってるのか、落ち着いた表情で祈りを捧げている。
結界に直撃し、強烈な光に視界が真っ白になった。
……うわぁ……。
十数秒ほど経って視力が戻ると、街は無事だが結界の外側が大変なことになっていた。高温によって砂が溶け、広範囲が綺麗なガラスの結晶世界になっていた。
「ねぇミスター、彼女、流石にやり過ぎじゃない?」
「そうかい? 勇者と魔王の戦いなんてこんなものだけど」
「そっか」
じゃあ仕方ない。
俺は俺なりにスマートに戦おう。
というわけで、神になった今ならやれそうな気がするから、世界をゲームと定義づけて不老不死の勇者を倒すチート攻撃……いってみよう!
「さて、【時空干渉】が次元を超えて作用するのなら……」
俺は目の前の空間に向かって何かを掴むように勢いよく右手を前に伸ばした。同時にスキル【時空干渉】を発動させて目的の座標へと繋げる。
空間を小さく裂いて向こう側に渡った手に感触アリ。生温くぬるっとしていて、はっきりと鼓動を感じる。
ノルンがいるので引き抜くのは遠慮し、俺は《《それ》》を握り潰した。
神アビリティ【神】の力で遠方の彼女を目視すれば、真っ逆さまに落ちながら光の粒子となって消えるのが見えた。
よし、上手くいった!
ゲームとして元の肉体と繋がったままなら、その肉体を直接攻撃すれば倒せるというもの。
……今なら行けるか?
試してみよう。
「ミスター、ちょっと出掛けてくるから、ここ任せていい?」
「いいよいいよ。また会うのは千年後でいいかな? いいよね? 美味しいこんにゃく作って待ってるよ」
「ん? うん」
「ネコ神様、またすぐに戻ってこられるのですよね?」
「ノルン……大丈夫。すぐ戻るよ」
不安げな彼女の頭を撫でた俺は、空を仰いでイメージする。
思えば…………魔物になって、意外と日数経ってないな。
感傷に耽るほどでもないし、さっさと試そう。
いざ、俺の元の体へ――転移!!




