第42話 到着する
アビリティ【野生の勘】が発動し、正面から飛んできた光る超高速の矢を首を捻って回避。
イタタ……首グキッってなった。
振り返って矢を確認すれば、砂上船の壁を貫通して穴が開いていた。異変に気付いたヴァン将軍や兵士たちが俺を見ている。
何か言った方がいいかな?
「あー……敵襲だよ」
「敵襲ッ!! 総員配置に付け。急げ!」
ヴァンが瞬時に反応して兵士たちが慌てて動き出す。警報を知らせる金属の鐘が何度も揺らされて音を立てた。
コンゴウがひと跳びで船尾から俺たちの下へとやってくる。
「チエ、なにがあった!」
「ごめんコンゴウ。勇者にちょっかい掛けたら、こっちきた」
「なにやってんだお前……」
てっきり怒ると思ってたら呆れられた。
「ちょっと気になる相手にイタズラしたら、そいつが勇者だっただけだよ」
「ほんとなにやってんだお前」
「お二人さんお二人さん、おしゃべりはそこまで。前を見て」
……わぁ。
ミスターに言われて前を見れば、砂嵐の中から大量の光る矢が横殴りの雨のように降り注いでいた。
「物陰に隠れろおお!!」
ヴァンが大声で指示して兵士たちが素早く隠れる。一部は甲板上に備えていた大盾を構えた。
コンゴウは魔王スキル【魔王の覇気】を出し、さらに体をピカピカの金属みたいにして防御姿勢を取った。
ミスターはなにもしない。
俺は一時的に体を消した。
大量の光の矢が砂上船を襲う。凄まじい貫通力を持っているのか船が穴だらけになっていき、物陰に隠れた兵士たちと大盾を構えた兵士たちが次々と射貫かれて倒れていく。
ヴァンが脇腹を浅く抉られながらも、光の矢を剣で弾いて生き残っている。
コンゴウは光の矢をカンカン弾き、ヴァンの前に立って守り始めた。
ミスターは真っ赤なダメージエフェクト塗れになって気色悪い。
空を仰げば、砂嵐の中からまだまだ光の矢が降り注いでいるのが見えた。
「いい天気だねー」
「だねだねー」
ミスターと一緒に呑気に矢の雨がやむのを待つ。
「お前ら、少しは仕事しろ!」
「ええー、コンゴウだって無傷じゃん。動く必要ないよね?」
「そうだそうだー」
「これ結構痛いんだぞ! ここは俺に任せてさっさと元凶潰して来い!」
おっ、そのセリフ……死亡フラグだ。
いいねぇ。やる気出てきた。
「ん、行ってくる。ミスター、手を」
「はいはい」
消えている手を出して繋いだところで、エルフを座標に瞬間移動。
城壁の上らしき場所に到着。
――わおっ!
目の前で既に弓矢を構えていたエルフが矢を放ち、隣のミスターの頭を吹っ飛ばした。
頭が真っ赤なダメージエフェクトで埋まったミスターは、俺から手を放してアイテムボックスから自分の背丈よりも高い大斧を取り出した。
「……いきなりだねミズナラ」
「それはこっちのセリフ。ミスター、魔王を引き連れて現れるなんて、裏切るつもり?」
「フフフ……その通り。【断頭台】」
「くっ」
空間から大量の縄が飛び出し、ミズナラを絡め捕ろうとする。
対するミズナラは飛んで高速で逃げ出し、弓を構えて光の矢を放つ。矢は拡散して複数に分かれてミスターの体を幾つも貫通するが、ダメージエフェクトが増えただけで効いていない。
そんなミスターの、再生が始まった頭がこっちを向いた。
「チエ、行くといい。彼女は私が抑える。他の勇者の心配はいらない。招集には応じなかったみたいだ」
「人望ないの? 彼女」
「ある方だよ。でも、誕生して間もない魔王なんて戦ってもつまらないから、他の勇者はまだ動かないだけさ」
「そっか。じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
でも行く前にちょっと見学。
おおっ、縄で捕らえたと思ったら処刑台が出現して完全に拘束しちゃった。あとはミスターが斧を振り下ろすだけか。まさに断頭台!
あっ、時間稼ぎだから首は落とさないんだ。
これなら安心して予定通りに事を進められるので、俺はクルス王国の姫――ノルンを座標にして瞬間移動した。
転移して楽園に帰還。
ノルンは丁度おやつタイムだったのか、メイド服姿の従者を引き連れて
果樹園にいた。
姿と気配を戻して挨拶。
「やぁノルン、ただいま」
「あっ、ネコ神様。おかえりなさい」
彼女の言葉に合わせ、従者たちも「おかえりなさいませ」と頭を下げてくれる。
「もしかして出番ですか?」
「うん、そう。今こそ国民に私のことを知らしめる時がきた」
「いよいよですね。ボタン様はどうします?」
「んー……置いてく」
魔王が集まり過ぎると勇者も集まりそうな気がするからな。
「わかりました。それではネコ神様、よろしくお願いします」
「あいよー」
彼女の手を掴み、ミスターの下へ瞬間移動してとんぼ帰り。
「ミスター、ただいま」
「おかえりおかえりー。そして――」
すっかり顔と体の再生が終わったミスターは、真面目な顔になって続けた。
「終わらせてくるといい。また会おう」
「? うん、また」
矛盾した言葉に首を傾げつつ、挨拶が終わった俺はノルンをお姫様抱っこして飛んで行く。
街中では人々が普段通りに歩いていて賑やかだ。
「……ねぇノルン、帝国軍の姿が見えないんだけど?」
「私にもわかりません」
もしかして、ミスターが俺に会う前に皆殺しにしてから来たとか?
まぁいいや。好都合なことには変わりない。
「で、どこでやればいい?」
「あそこにある、神様の住処のてっぺんに向かってください。遥か昔、ネコ神様が国全体に声と姿を届ける為に使用した装置があります」
「りょーかい」
ノルンが指さした先には巨大なピラミッドみたいな宮殿があった。どことなく楽園で建築された建物に似ている。それに水晶みたいな物が金属の枠にはめ込まれているのが見える。
足場がしっかりと確保されているので着地してノルンを降ろす。
「えっと、確かお父様から聞いた起動方法は……ここをこうして、だっけ?」
自信なさげにノルンが操作すると、明らかにゲームのウィンドウらしき物が浮かび上がった。
「ここから先はわかりません。ネコ神様、わかりますか?」
「うん、大丈夫」
書いてるのも日本語だし、メニューと同じように動かせる。
えっと、ポンポンポン――と。
マイクの音量とカメラの位置を調整して……起動!
すると、水晶が光って空中に一条の光が伸び、砂嵐を吹き飛ばし雲を割って周辺一帯を綺麗な青空に変えた。
そして、空中の至るところに俺とノルンのホログラムが浮かび上がった。




