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魔物RPG  作者: 覇気草
32話~

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第40話 実験する



 …………――そうだ。実験しよう!


 食べ過ぎで休憩中、ふと思った。

 まだ魔王アビリティ【魔王】の進化の促進と、レベル半分以下の相手を問答無用で消し去る攻撃を試していない。

 何故なら、楽園に戻ってから人間たちとコンゴウとボタンが活発に動いて街づくりに励んで実験する雰囲気じゃなかった。眷属化も、次の一手の為に敢えてやらなかった。


 実験の対象は……森で出会ったあのペガサスにしよう。まだ生きてるかな?


 そうと決まれば早速行動開始。ペガサスを思い浮かべながら瞬間移動。






 到着して感じるのは適度な温度と湿度、澄んだ緑の空気、広範囲に散らばる魔物の気配。視界には以前見たことのある苔が繁殖した幻想的な湖と木々が映り、傍には丁度、白毛のペガサスが優雅な佇まいで水を飲んでいた。


「やあお馬さん、初めまして」


 あっ、逃げた。


 声を掛けたらペガサスはギョッとした顔で俺の方へ向き、脱兎の如く速さで走って逃げ始めた。


 だが無意味だ。


 走って追う気がない俺は瞬間移動でペガサスの背にまたがる。


 おぉ、意外と乗り心地がいい。

 こいつ仲間にしたいな。

 それはそうと、必死過ぎて俺が背中に乗ってるの気付いてない。笑える。

 馬にとって数十キロの体重はそんなに重くないのかね?


 ペガサスは走り続ける。

 器用に木々の間を抜けていく。

 どれくらい走ったのかわからないが、川の傍でようやく止まった。スタミナがあるのか息も殆ど乱れず、汗もかいていない。


「おつかれー」


 そう言ってひょいとペガサスから降りれば、驚き顔からすぐに、実に嫌そうな顔で俺を見てくる。


「あれ無視?」


 ペガサスは川の水を飲み始めた。

 背後に立とうとすれば後ろ蹴りの素振りを見せられ、横に立とうとすれば翼がばっさばっさ動いて近づけさせてくれない。


 むぅ……ならばこうだ。


 ぴょんと飛んでペガサスの背に再び乗る。大暴れしてロデオみたいなことができるかと思ったが、そんなやる気もないのか大人しい。ちょっと残念だが褒美に撫でてやろう。


「よしよし。それじゃあ話をしよう。君はプレイヤーかな? もし私の言葉の意味がわかるのなら……そうだな……翼を一回、バサッと広げて」


 するとペガサスはバサッと翼を広げた。


 ん、予想通りプレイヤーだったか。


「じゃあ、人語を話せる?」


 ……反応なし。まだ人間を襲って食べていないのか。


「ふむ。ならまずは君にプレゼントだ。食べたまえ」


 背中から降りた俺はアイテムボックスから帝国の兵士を一体出し、手でちぎって肉片を差し出した。

 ペガサスは顔を上げてこちらに振り向き、ジッと俺を見つめてからパクッと食べた。そして飲み込み、口を開いた。


「あー、あー……しゃべれる。ようやく……人語を話せるようになった」


「おめでとー」


 というかお前その声――女かよ。

 中身の性別は……どうでもいいや。


「さて、これで円滑にことを進められる。実験に付き合ってもらうよ」


「実験? それって危険なこと?」


 ペガサスが一歩離れて俺を睨みつけてくる。


「んー……危険ではないかな」


 失敗したら即死するだけだ。身体的に害を及ぼす危険はない。

 言ったら怒るだろうし、言わないけど。


「……どんなことするの?」


「実験の内容としては、魔王のアビリティで君を強制ログアウトさせる。まだ誰にも試してなくて、自分にはできないから相手を探していた。上手くいけば現実に帰還できる」


 多分、恐らく、きっと。


「それを早く言ってよ! 無駄に警戒しちゃったじゃん」


「ん。同意するってことでいい?」


「さっさとやって! もう馬として生きるのなんてこりごりだから」


 馬として生活……確かに、想像するとちょっと嫌かも。

 魔物として生きるのは図体のデカさと戦いに不向きな体で難易度高そうだし、人間側に付いたら乗り物か荷物持ち扱いだろうし。

 ――あっ、進化の促進を試すの忘れてた。まぁいいや。


「それじゃあ始めよう。気を楽にしてねー」


 別に楽にする必要はないけど、雰囲気は大事だ。

 彼女は俺の指示に従って深呼吸して堂々と佇む。その姿は馬として凛々《りり》しく美しい。


 人化したら、さぞ美人になったんだろうな。

 さぁ、魔王アビリティ【魔王】の能力の一つを試そう!

 目の前にいる奴を消せ!


 魔王アビリティの一つを発動すれば、なんか紫の波動が前方に飛んでペガサスを通過した。

 すると彼女の体が光りだした。


「あぁ……これで戻れ――――」


 言い終わる寸前で、粒子となって消滅。呆気ない終わり方のせいでなんか虚しい。


「…………よし。結果の確認をしよう」


 こういう時、恐らく観測しているだろう管理者に聞くのが一番だ。

 ということで俺はAIの方の女神ルシエールの元へ瞬間移動した。





 場所は変わり、誕生パーティーみたいな飾り付けがされた食堂に到着。古代ギリシャ人みたいな白い布を着た女神ルシエールが相変わらず座っていたが、その表情は明らかに不快感を露わにしていた。


 ――あっ、これ怒ってるな。

 でもそんなの関係ない。


「どうも。私のやったこと見てくれた?」


「ええ。よくもやってくれましたね。プレイヤーの一人は確かにログアウトしました。ですが、ログアウトした先が存在していません」


「つまり?」


「ゲームをする為のVRデバイスにはそれぞれ個体識別を兼ねたアドレスが存在しています。それが失われている場合、ログアウトは不可能です。そもそも、アドレスが消失するという現象そのものがあり得ません。にも関わらずログアウトしたということは、プレイヤーの意識が消失、または死亡したということになります」


 わぁ。予想通りだ。

 やっぱり駄目だったか。


「なら、私をどうする?」


「本来であれば会社と警察に通報し、殺人事件としてあなたを逮捕してもらうことになっていたでしょう。ですが、今は非常事態であり、確かめなければならないこととして、やむを得ない行動として理解し不問とします」


「妥当な判断だね」


「しかし、私はあなたを疑っています。あなたの行動は不可解であり、時折、観測不可能な時間が存在していました。チエ様、このゲームで、何をやったのです?」


 あー……プログラムの書き換えとかでチートを疑われてる?

 嘘つくのめんどくさいし、今更言ったところでもう遅いから、ぶっちゃけよう。


 俺は大きく息を吸ってから、早口で言った。


「本物の神様、女神ルシエールに会ってこの世界を“ゲーム”か“異世界”かの選択を迫られた。それで私は異世界を選択した。結果として私たちプレイヤーはこの体こそが自分で、地球に置いてきた体とは精神だか魂だかと完全に分離してしまっている。帰還するには次元を超える必要がある。以上! 私から提供できる情報はここまで。もう二度と会うつもりはないから、じゃあね」


 言い終えた俺は手を振って瞬間移動した。

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