第39話 バグる
世界についての話も終わり、勇者ミスターを加えて砂上船は進み続ける。
――数日後。
「あ~いい天気だ」
あっ、口の中に砂が入った。ぺっぺっ!
現在、俺は船首の柱の上に座って前方を警戒している。天気は素晴らしい砂嵐で、前は数十メートルも見えない。口を開こうものなら容赦なく砂が入り込んでくる。
そんな砂嵐の対策として、俺は魔力で生成したゴーグルを掛け、頭の上のネコ耳には競走馬のメンコみたいな耳カバーをしている。口と鼻を隠す為にマフラーを巻いているが、砂が細かすぎて隙間から入り込んできてどうしようもない。
……暇だ。
ここ数日の間に結構な数の魔物の襲われたが、それらは俺が出る幕もなくコンゴウとミスターが殲滅した。そして今日の砂嵐では流石の魔物たちもお休み中らしく、なんにも現れないし気配もない。
なんとなく背後を振り向く。
みんな元気だなー。
俺が作ったゴーグルを装着し、頭巾を被りマスクをして顔がほぼ隠れた兵士たちが砂嵐の中、見張りをしたり、軽く戦闘訓練をしている。
勇者ミスターは隅に座り、グラスに入った砂を優雅に飲んでいる。
……よく見れば美味しそう。
一時的に【人化】を解いてネコに戻り、みんなの邪魔にならないように船の欄干をてとてと歩いて勇者ミスターの傍に移動。
再び【人化】して隣に座る。
「やぁミスター。調子どう?」
「やぁやぁネコさん。見ての通り絶好調だよ絶好調!」
乾杯、という風にグラスを掲げ、少しだけ入っている砂をぐいっと飲み干し、満足そうに息を吐く。
その機嫌が良い横顔を俺はジーッと見つめる。
「……ねぇミスター、ちょっといい?」
「なにかななにかな? そんなに情熱的に見つめられると照れてしまう」
「うん、それはどうでもいいんだけど……食べてみていい?」
「……んん??」
勇者ミスターは首を傾げた。どうやら俺の言葉足らずで理解できなかったらしい。
仕方ないのでもう一度、今度は丁寧に言う。
「ミスター、あなたを、食べていい?」
「私を? ……はは、そんなことを言われたのは初めてだ。いいよ!」
快諾したミスターはグラスを置いて襟をめくり、首と肩を露わにした。
そこから食べろと。
なんだか吸血鬼みたい。では早速――がぶり。もぐもぐ……うーん、電子基板みたいな味がする。
それに傷口はダメージエフェクトに覆われていて、よくわからない状態。既に再生を始めて傷が塞がった。
ピコン。
〈レベルが上がりました〉
おっ、レベルが上がった。
もう一口。がぶり。もぐもぐ……。
ピコン。
〈レベルが上がりました〉
は?
同じ人間から経験値って、確か得られない筈じゃ……でないと、食べて回復させてって繰り返せてしまう。
まさか、バグか?
勇者がチートみたいな能力してるから、そこら辺でバグってるのか?
おいおい女神ルシエール、神様ならそこら辺のプログラムぐらいちゃんとしておけよ。ゲームとしては致命的だぞ。
とにかく……ボーナスタイムだ! 修正される前に無限レベルアップだーーー!!
俺は夢中になってがぶがぶもぐもぐ勇者ミスターの肉を食らいまくる。痛くないのか彼は再びグラスを持ち、優雅に砂を飲んでいる。
脳内では連続してピコンピコン通知が鳴り響き、レベルが連続して上昇していく。
数十回のピコンの後、変化があった。
ピコン。
〈繝ャ繝吶Ν縺御ク翫′繧翫∪縺励◆〉
えっ、何今の?
もう一度、試してみるか。がぶり。
ピコン。
〈繝ャ繝吶Ν縺御ク翫′繧翫∪縺励◆〉
これは……バグったかも。
レベル上限超えちゃった?
確認しないと。ステータス!
名前:チエ
種族名:ワンダーキャット
レベル:陦ィ遉コ荳榊庄
固有アビリティ:【ワンダーキャット】
魔王スキル:【魔王の覇気】
魔王アビリティ:【魔王】
スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】、【狂乱の瞳】、【人化】
アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【絶世の美女】、【悪食】、【野生の勘】、【暴食】、【髫?阡ス繧ウ繝シ繝】、【繝√?繝医さ繝シ繝会シ壽凾髢馴■陦】、【蜿埼??ヵ繧。繧、繝ォ】
なんか文字化けアビリティ増えてる!?
ちょっと恐いけど、アビリティの詳細確認しよう。
アビリティ【髫?阡ス繧ウ繝シ繝】
・このアビリティは気にしないで。不思議の国のチェシャ猫より。
アビリティ【繝√?繝医さ繝シ繝会シ壽凾髢馴■陦】
・このアビリティは凍結中だよ。ある条件を満たせば解凍される。不思議の国のチェシャ猫より。
アビリティ【蜿埼??ヵ繧。繧、繝ォ】
・このアビリティは凍結中だよ。ある条件を満たせば解凍される。不思議の国のチェシャ猫より。
なにこれ?
不思議の国のチェシャ猫って、いなくなったネコ神様のこと? それとも、俺?
わからない。原因っぽいミスターはまだ信用できないからこのことを相談できない。管理AIの女神ルシエールも本物の女神ルシエールも同様だ。どうしようもないから今は無視するしかない。
それはそれとして、やることないしレベルは上げ続けておこう。
勇者ミスターを食べ続ける。バグった音声が不気味だが、気にしないように努める。
――うっ、食べ過ぎた。
胃が限界に達し、ミスターから口を離す。
「ごちそうさま」
「おやおや? もういいのかい? もっと食べてもらってもいいんだけど」
「いい。それよりしばらくの間、船の警戒と守りを任せていい?」
「おけおけ。どうせ暇だからね」
ミスターは立ち上がると船首の方へ移動した。
さて、ひと眠りするか。




