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魔物RPG  作者: 覇気草
32話~

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37/44

第37話 勇者遭遇



 あああぁぁぁ暑いいいぃ…………。


 砂上船が砂の上を滑るように航行して数時間。

 風は気持ちいいけど日差しが強く、俺は船首に伸びる柱の上で仰向けになって四肢をだらんとぶら下げてだらけていた。ブレザーの上着のジャケットなんてとっくに脱いで、アイテムボックスの中だ。


 あづいいいいぃ……。


 でも船内には避難しない。

 そもそも魔王だから、この程度の暑さは不快なだけで死にはしない。それより万が一があるといけないので、俺はコンゴウと一緒に周辺の警戒に当たっている。

 頭の上にあるネコ耳が、こちらに近づく足音を拾う。


 この足音……ヴァンか。


「ネコ神様、お水をお持ちしましたが、いりますか?」


「ん、いる」


 返事をしてぴょんっと跳ね起き、軽快な足取りでヴァンの前に立つ。彼の手には木のジョッキがあり、差し出されたそれを受け取ってぐびっと飲む。


 ――おっ! キンキンに冷えてる!


「ふぅ。これ冷たいね。どうやったの?」


「私の魔法です」


「へぇー。水の魔法で生成したの?」


「はい。そのうえで氷の魔法で冷やしました」


「いいね。わざわざありがとう」


「恐縮です」


 冷たい水を飲み切って返却。

 体の中が冷えてやる気が出たので、船首の柱の上に立って見張りを再開。


「ネコ神様、あまり無理をなさらないでください。あなたは今回の作戦の主戦力。見張りは我々が担いますので、時が来るまでゆっくりしていてください」


「気持ちは有り難いけど、前みたいな大量のワームに奇襲されたら、対処できる?」


 そう問いかけると、ヴァンの顔は途端に険しくなった。


「……いえ」


「じゃあそういうことで」


 俺が決めると、ヴァンは一礼して離れて行った。


 真面目だなぁ。

 楽する為に俺やコンゴウを利用すればいいのに。

 もしかして、自分の力が不足してると思って不満だったりする?

 だったら、強くなるかもしれない眷属化、誘ってみるか?

 ここ数日みんな忙しそうにしてたから、実験できてないし。

 ……いや、やめておこう。

 どういう変化が起こるかわからないし、場合によっては楽園に送り返さないといけなくなる。

 それに、ヴァンにはやっぱりやりたくない。

 仮に眷属化がネコ耳と尻尾を生やすだけだったら、ネコ耳と尻尾を生やしたおっさんっていう、誰得だれとくだよって絵面になってしまう。だからこのまま人間として強くなってほしい。強いおっさんってカッコイイし。


 ――――ん?


 十一時の方向、陽炎で揺らめく砂漠の中をこっちに向かって来るものが見えた。

 手でひさしを作って目を細め、じーっと観察。


 あれは…………屋台? こんにゃく屋か?

 ということは――っ!


 何かがキラリと光を反射し、凄まじい速度で横へ飛んで視界から消える。


 ピキーン!


 と【野生の勘】が発動して体が勝手に動き、その場で体を大きく後ろに反らせてブリッジするかしないかの姿勢になる。

 直後、俺の首があった場所を横から大きな斧が回転しながら通り過ぎ、ブーメランのように屋台まで戻ったのが見えた。


 何今のっ!?

 不意打ち――にしては攻撃が変だ。

 俺を狙うにしても、真っすぐ投げて船のマストをついでに切断すれば、動きを止められるのに……。

 俺だけ狙ってる?

 わからない。

 けど、船や他の人を狙われて被害が出るのは今は抑えたい。

 ――行くか。


 船首から飛び立ち、俺は屋台に向かった。

 何事もなく屋台に到着し、立っている人間の目の前に降り立つ。


「やぁ。えっと……誰?」


「久しぶりだねネコさん。声でわからないかい?」


「その声……ミイラ男?」


「そうそう。正解正解」


 パチパチパチパチ――と、拍手してくれる。


 よし、当たった。

 それにしても随分……姿が変わってる。


 以前は全身包帯の細身の男だったが、今は赤いハットを被り、真っ赤なビジネススーツに身を包んでいる。

 包帯も無くなって肌を露出し、白髪に真っ赤な瞳、白い肌をしている。おまけに凄いイケメンだ。


「それで、どうして攻撃してきたの?」


「これでも私は勇者だから。魔王は殺さないと」


 笑顔で言うか。

 それに勇者……魔王にとっては宿敵だ。


「じゃあ殺しても文句ないよね!」


 【ネコパンチ】!


 防がれることなく首の一部をえぐる。


 ――なにっ!?

 なんで、平然と立っていられる!?

 なんで、血が出ない!?

 なんで、傷口がゲームみたいな赤色のダメージエフェクトになっている!?


「ハハハ、気になる? 気になる? なら教えてあげるよ。私に勝てたらね!」


 ピキーン!


 また【野生の勘】が発動したが、ミイラ男――勇者に両肩を掴まれて微動だにできない。


 力強っ――ん?


 視界がふわっと上昇し、落ちていく。


 あぁ、首をねられた。


 痛みを感じず、思ったより冷静な自分を自覚しつつ落ちてきた頭を片手でキャッチ。そのままガッチャンコと首にくっつける。


「あーびっくりした。さっきの大きな斧、どこから出して、どう操ってるの?」


「それは秘密さ。タネが割れては面白くないだろう?」


 確かに。


 納得しつつ視線が勇者の傷口に向く。


 傷が……。


 致命傷の筈の抉った傷のダメージエフェクトがかなりの速度で小さくなって消え、元の白い肌に戻った。


「ねぇ、もしかしなくても不老不死?」


「だったらどうする? 別の空間に封印でもしてみるかい?」


 それは……勝ちにはならないんじゃ?


「……やめとく。そもそも、私と君とで戦いによる勝ち負けは成立しない」


「ほうほう、それは何故?」


「不思議の国のチェシャ猫は、切り落とす首が無い」


 そう言って俺は固有アビリティ【ワンダーキャット】の効果の一つを発動。頭以外の体を消し、頭をフヨフヨ浮かせて少し離れる。


「あぁ……そうだったそうだった。忘れてたよ」


 忘れてたんだ。


「で、どうするの? 一応勝負しとく?」


 俺としては勇者の実力を測っておきたい。

 が、当の勇者はやる気のない顔になった。


「別に勝負はいいや」


「そう。なら、傷がゲームっぽいのは何か教えてくれる?」


「いいよいいよ。教えちゃう。けど、こんなところで立ち話もなんだし、船に乗せてくれないかな?」


「ん。いいよ。屋台はどうする?」


 聞いてすぐ、勇者は俺が使っているのと同じ『アイテムボックス』を使い、屋台を別空間へと片付けた。


 なるほど。

 あの大きな斧はアイテムボックスに隠してるのか。


「これでいい?」


「おっけー」


 と言いながらサムズアップ。


 テレレレーン♪

 勇者が、仲間になったぞ?

 どうしてこうなった……。




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