第28話 都市を襲う
不思議の国から元の世界に帰還して早数日――楽園作りに勤しむ二人の活躍によってオアシスの一部に文明ができた。
ボタンが作る農園は日を追うごとに規模が大きくなり、様々な果実や野菜が実って数十人の人口を養っても食うに困らない収穫量になった。
コンゴウが作った砂岩の家は頑丈で住み心地はそこそこ。まだ三人とワイバーン一体だけなのに十数世帯分の建物が作られ、ちょっとした小さな村になっている。
そんなある日のお昼頃、公民館的なちょっと大きな家に集まった俺たちは、砂岩のプレートに盛りつけられた野菜と果実で昼食中。
「お肉が食べたいですぅぅぅぅぅ!」
と、ボタンが唐突に叫んだ。
ここ数日は野菜と果物しか食べてないから我慢の限界だったらしい。
けど、たんぱく質がないわけではない。
「あるじゃん。畑のお肉」
俺は枝豆を摘まんで持ち上げる。
これはワイバーンの火で起こした焚火と、コンゴウが作った砂岩の鍋で湯がかれたものだ。
「違いますぅぅぅ! 私は本物のお肉が食べたいんですぅぅぅ!」
豆じゃダメか。
「コンゴウ、どうする?」
「仕方ない。ワイバーンで飛んで肉を調達しよう」
「今すぐ行きますよぉ!」
やる気に満ち溢れたボタンが砂岩のプレートを持って出て行った。
まだ食べてるんだけど……。
仕方ないので俺たちも砂岩のプレートを持って家を出て、ワイバーンに乗って食べながら移動した。
それからしばらく空の旅をし、ボタンがある方向を指さした。
「見つけましたぁ。あそこを襲いましょうぅ!」
どれどれ?
「――都市じゃん。肉の調達にしても多すぎない?」
見えたのは山脈と巨大なオアシスがある、リゾート地みたいな都市。建物がしっかりと区画分けされて建ち並び、偉い人が住んでいそうな宮殿らしきものが見える。また、オアシスには港があって船が行き来し、壁の外側には砂上船と呼ぶべき大きな船がなん十隻も並んで停泊していて、発展具合が凄まじい。
「……やろう。レベルを一気に上げるチャンスは逃したくない」
おおぅ、コンゴウも乗り気か。
「ならせめて作戦を――」
「突撃ですぅぅぅぅ!」
えぇー……。
俺の言葉を遮ってボタンがワイバーンを急降下させた。
どうなってもしーらね。
諦めた俺は流れに身を任せることにした。
ワイバーンが降り立った場所は、人が多く集まっている市場のど真ん中。
突然の魔物の登場に人々は悲鳴を上げて逃げ出し、巡回していたのだろう兵士たちが槍や剣を構えてやって来た。
「お肉ですぅぅぅ!」
「さぁ、暴れようか!」
ワイバーンが火球を吐き、ボタンが種を飛ばし、コンゴウが近づく兵士たちに真っ向から襲い始めた。
「じゃあ、私は単独行動させてもらうよ」
「おう」
「はいぃ」
二人に言ってから俺はワイバーンを降りて動き出す。
近くの建物にぴょんと跳んで屋上に登り、屋根を伝って素早く移動する。
どうせ派手にやるんなら、まずは指揮系統を乱さないとな。
屋根を移動する間、上を警戒していない兵士や住人は俺に気付かない。誰にも邪魔されずに気になっていた宮殿に接近し、高い鉄柵を越えて気になっていた侵入。
「あっ」
「むっ」
着地した瞬間、たまたま目の前を通り掛かった兵士と目が合った。
「し、侵入者――」
させねぇよ。【ネコパンチ】!
殴った兵士は吹っ飛んで壁に激突して倒れた。
よしっ!
「侵入者だ! 応援を呼べ!」
えっ?
すぐ近くに他の兵士いたのかよ!
俺は一目散に逃げて宮殿内を走り回った。
「いたぞ! こっち――」
【ネコパンチ】!
「侵入者発見! 応援を――」
【ネコパンチ】!
「誰かっ! 誰かいないか!? 侵入者がいるぞ!」
「どうも、侵入者です」
【狂気の瞳】!
「うわぁああああああああ!」
兵士たちと遭遇する度に【ネコパンチ】で吹っ飛ばし、役人や使用人らしき人たちには【狂気の瞳】をプレゼント。
そうして宮殿内を大混乱に陥れながら到着したのは、謁見の間っぽい広くて長くて天井が高い部屋。壁がなくて柱が並んでいて、光る石がシャンデリアのように吊るされている。奥の数段高くなった場所には座り心地の良さそうな豪華なソファーがある。
そのソファーには明らかに王様っぽい、日焼けしたイケメンが寝転び、踊り子っぽい露出の激しいエッチな衣装を着た美女が数人侍っていて、文官たちが控え、外側を近衛っぽい意匠の凝った装備をした兵士が固めていた。
兵士たちは既に全員が剣を抜いている。
とりあえず、雑魚か強者か見極めるか。
【狂気の瞳】!
「ば、化け物……化け物があああああっ!」
「うわあああああああ!」
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!」
「あぁ、そんな……そんなあああああ!」
「あああああああああああああっ!」
「お前たちが悪いんだっ! なにもかも!」
「ワレワレハ、カミヲオコラセテシマッタ……」
「俺たちのせいで、国が……」
「いやああああああああああ!」
「助けてっ! 助けてっ!」
「…………」
ありゃ?
思ったより効いてる?
兵士も文官も美女たちも、逃げたり同士討ちしたり戦意喪失したり自害したり気絶したりと大パニックになった。王様らしきイケメンに至ってはそのままの姿勢で白目を剥いて気絶してしまっている。
……まぁいいや。うるさいし全員殺してそのまま制圧しよう。そうしよう。
俺が動こうとしたところで、背後からガチャガチャと金属鎧の揺れる音が複数聞こえてくる。
「いたぞ! 陛下、ご無事で――っ、なんてことだ!」
「くそっ、奴を捕えろ! 無理なら殺せっ!」
あっ、ご苦労様です。【狂気の瞳】、継続中ですよ。
「うわああああああああああ!」
「そうだ、死んで侘びなければっ!!」
振り返ったら追って来た兵士たちが次々と狂いだした。
……もしかしてだけど、このスキルが効かない奴ってそんなにいなかったり?
とにかく制圧しよ。この都市の人間を全員食べれば、もしかしたら魔王になれるかもしれないし。
そういうわけで、俺は【狂気の瞳】を発動した状態のままこの場にいる者の皆殺しを始め、まだまだ来る兵士たちを狂気に陥れては殺してを繰り返した。




