第29話 信者ができた
「ふぅ、こんなところかな」
皆殺しが終われば謁見の間の床は血と死体で埋まっていて、宮殿内の兵士が全滅したのかとても静かになっていた。
スキル【狂気の瞳】を解除し、手に付いた血が勿体ないのでペロペロ舐め取る。
さて、これで俺のやることは終わったけど……二人はどうしてるかな?
部屋を出て宮殿の外壁を昇って高い位置から見渡せば、ワイバーンの火球による爆発が見えた。
まだ戦ってるよ。これはしばらく掛かるだろうし……。
「――よしっ、宝探ししよう!」
こういう宮殿には宝物庫があるのが定番だ。
そうと決まれば早速動き、宮殿内の大事なものがありそうな場所を重点的に探し回った。
「……ここかな?」
見つけたのは重厚な鉄の扉。
見張りっぽい兵士が二人倒れている。一度通った覚えがある。
「何か持ってないかなー?」
その兵士の懐を弄る。
「――お? 鍵だ」
大きな鍵を発見。鉄の扉の鍵穴に差し込んで回してみると、ガチャッと音がした。
「よしよし。では……オープンセサミ!」
と言って鉄の扉を開ける。
「おおおぉっ!! 金ぴか!!」
鉄の扉を開けた先は大量の金塊が積まれ、金貨が山ほど詰まった宝箱が並び、宝石が嵌め込まれた金の装飾品や小道具などがみっちりと納められていた。まさに金銀財宝。
「いいね。とりあえず全部いただこう。【不思議の国】」
不思議の国へのドアを出現させ、向こう側を確認。最後にドアを開いた場所――ではなく、また森に戻っている。
「うん、いい天気だ」
森が螺旋状にねじれていて、青空に浮かぶ太陽もぐにゃっている。
景色を気にしない俺は片っ端からドアの向こう側へと財宝を移していく。向こうの住人に勝手に使われる可能性もちゃんと考慮しているが、それならそれで別に構わない。
と、不思議の国の向こう側から、屋台を引っ張るミイラ男がねじれた森の奥からやって来た。
「やぁやぁネコさん、ごきげんよう。精が出ますね」
「どうもミイラ男さん。これ、ちょっと置かせてもらうから」
「構いませんよ。この世界の住人は金銭に価値を見出していませんしね」
「そうなんだ。じゃあ何に価値を見出してるの?」
「フフフ……」
彼は微笑を浮かべるだけ。
……答えない、か。
NPCとして解答が用意されていないのか、リアル異世界で、てきとーに言っただけだったり?
まぁ、調査はあとだ。
「それで、なんの用?」
「特に用事はありません。ですが、強いて言うなら……楽しそうな気配がしましたので寄ってみただけです」
「そっか」
楽しそうな気配なら仕方ない。
「金貨一枚あげてもいいけど、いる?」
「結構です。それよりこんにゃく食べていきます?」
「今はいいかなー」
これから大量の人肉を食べることになるし。
「そうですか。ではまたのご来店をお待ちしております」
「ん、また」
ミイラ男は見るからにしょんぼりしながら屋台を引っ張って来た道を引き返して行った。
俺は作業を続けた。
「よし、綺麗さっぱり!」
作業を続けて宝物庫がすっからかん。掃除したみたいで気分がいい。
他には何かないかな?
るんるんと鼻歌を歌いながら静かな廊下を歩く。
「――ん?」
気になる場所を発見して立ち止まる。
地下か……。
地下と言えば宝物庫より大事な物が保管されていたり、厄ネタが封印されているのが定番だ。
興味本位で石の階段を降りていく。明かりがないので真っ暗だが、魔物は暗視を持っているので問題ない。
地下に着くと、片方の壁が厚い鉄格子になっていて、もう片方の壁にはろうそくが等間隔に設置されて明かりが確保されていた。
地下牢か、残念。
お宝じゃないし、カビと尿と便の臭いがしてテンションが下がる。
でも、折角来たので何かないかと牢の中を見て回る。
……これはまた……多いな。
一つの牢に人間の男と女が、ちゃんと分けられて複数人詰め込まれていた。反抗する気力すらないのか、誰もが俺を一瞥するだけで声を掛けて来ない。
この人たちはなんだろう?
捕虜かな?
それとも奴隷?
どちらにせよ、世話をする人間がいなくなった以上はこのまま飢え死にだろうね。ご愁傷様。
――おや?
奥まで来たところで、牢の一つに興味が惹かれる。
その牢は他より綺麗にされていて、床には敷物、寝台にトイレがあり、明かりのろうそくが多めに設置されている。
中には身分の高そうなドレスを着た黒髪おかっぱの十代半ばくらいの少女が一人、鬱屈そうな顔をして寝台の上で三角座りしていた。
これは捕まった敵国のお姫様かな?
それとも、地位の高い貴族が反逆を起こして捕らえられた令嬢?
どちらにせよこれは使える。今俺たちに必要なのは、現在地や周辺の情勢を知る為の情報だ。命を助けてここから出すという交換条件なら応じるだろう。
「やぁ、元気?」
気を引く為に敢えて皮肉を込めて声を掛けると、彼女は眉間にしわを寄せながら顔を上げ、俺と目が合うとぽかんとした表情に変わった。
「……ネコ神様」
え?
なんでそこで神様という単語が出てくるの?
ちょっとこれは予想外。面倒臭いことになる前に訂正しておかないと。
「ネコ神様じゃないよ。私はチエ。ネコの魔物」
「でもその姿、ネコ神様と同じ」
「いやこれ、人間を食べて得た力で人間に化けてるだけ。神様は人間なんて食べないよ」
「食べますよ。それにこの世界の神様は、魔物から魔王、魔王から神へ到ると我が王家では言い伝えられています」
「……」
ダメだこれ。状況的にどう否定したって好意的に捉えられてしまう。
しかも王家って言っちゃったよこの娘。ということは、ここが敵国か自国かはともかく、戦争か政治闘争に負けて牢にぶち込まれたってところか。
しかも魔王から神へ到るって……女神様、情報を意図的に隠したのか素で知らないのかどっちよ?
とにかく、思ってたのとちょっと違うけど予定通り進めよう。
「……助けてあげてもいいけど、交換条件。君の知識が欲しい。だから質問に答えてくれる?」
「はい。私、ノルン・エンダー・クルスはあなた様のしもべとして、身も心も捧げます」
彼女はわざわざ寝台から降りて跪いた。
いや、そこまでされたくないのだが!?
他の牢から物音が聞こえて振り向くと、俺と彼女の会話を聞いていたのか捕らえられている人々が続々と跪き始めていた。
代表して一人の男が声を上げた。
「我々も、あなた様に忠誠を誓います」
うわっ、やめてくれよ。神に到る可能性を聞いたあとだと殺しにくいし断りづらい!!
「……あーもうわかった。助けてあげるから、それやめて」
「はい!」
さっきまでと打って変わり、彼女は希望に満ちた声で返事した。
これ、ボタンとコンゴウになんて説明しよう……。
悩みつつ壁に掛かっていた鍵束を手に取り、人々を開放していった。




