第七十四話 東の塔
〇月〇日(土)二回目
「向こうに塔が見えるじゃろう」
老婆の指をたどると、確かに塔がそびえたっていた。
「この村が暗闇に包み込まれたときに、あの塔は現れたのじゃ。
以前偶然通りがかった冒険者様が塔の中の魔物を討伐し、塔の力を封印した。
しかし、今になって再び、闇の力が戻ってきたようじゃ」
再び塔に目をやると、確かに不気味な青い光を放っているように見えた。
「冒険者様が来る前の状態に戻ってしまったようじゃ。
以来、日に日にこの村は暗闇に取り込まれつつある」
辺りを見渡すと、確かにうす暗い。
オープニングの時に見た輝きは全く感じられない。
ちらほらいる村人の顔もどことなく暗い。
「あんな塔が、東西南北に4つ建っている。
そなたたちにはなんとか塔の魔物を討伐していただきたい」
「ああ、まかせとけ」
TAKASHIは物語の強制のセリフをつぶやいた。
私たちは、早速、東の塔に向かって歩き始めていた。
「やっと村の外に出れた。
あのお婆さん、お話長かったなー」
「お話だけで一週間終わっちゃったものね……」
「さてと……、まずはステータスの確認だな」
TAKASHIの声で私も、「そうね」と自分のステータスを確認することにした。
職業は、選択したように魔導士。
けれど、思い描いていた魔導士とは少し違うようだ。
見慣れない魔法がたくさんある。
「私の職業……。なんか普通の魔導士とは違うみたい」
「いつものファイア、コールド、サンダーや回復魔法はもちろん覚えているんだけど……。
その他にもブルーライト、グリーンライト、レッドライト、ダークって魔法まで使えるみたい……」
魔導士といえば火、冷気、雷の魔法と回復魔法が定番だ。
今回は、さらに追加していくつか魔法を覚えていた。
「どちらかっていうと、色の魔導士って感じだな。
白魔導士、黒魔導士ってのはよく聞くけど、色の魔導士は珍しいね」
TAKASHIの言葉に少し納得した。
攻撃特化の黒魔導士でも、回復特化の白魔導士でも、青魔導士でも、赤魔導士でもなく“色の”魔導士なのだ。
私は、心の中で、色彩魔導士って呼ぶことにした。
色魔導士よりは少しかっこいいよね?
TAKASHIもステータス確認を終えたようだ。
早速、老婆より受け取った暗黒剣を装備し振り回していた。
立派な装飾の施された剣だ。一目で“捨てられないアイテム”であることがわかる。
当然、捨てようとすると、――捨てられません――とシステムに怒られる。
剣は大切に扱われていたようで、埃一つついていなかった。
そんな剣を、TAKASHIはとても気に入ったみたいだ。
さっきからぶんぶん振り回している。
そんな確認を終えると早速一つ目の塔に到着した。
村の東側に位置している塔――青く光る塔だ。
遠目に見た時よりも嫌な気配を感じる。
不気味な青い光というより、禍々しい光と言った方がいいかもしれない。
「さあ、行くか」
TAKASHIは私の目を見ると軽く頷きあい、先に塔に入っていった。
私も遅れないように後をついていく。
塔の一階は真っ暗だった。
奥に二階へと昇る階段があるようだ。
青い光が薄く階段を照らしていた。
ただ、モンスターの気配がする。
というよりも……、チューチューと小さく鳴く声、ねちょねちょと動く音が聞こえる。
真っ暗で姿は見えないけれど、この部屋には確実に何かがいる……。
「気持ち悪いわね……。どうしよう……」
「そういえば、魔法で辺りを照らす事はできないかな?」
「あっ、そういえばそうね」
私は自分が色彩魔導士であることを思い出した。
「レッドライト」私は手を上げて魔法を唱える。
手から赤い光が放たれて、辺りを照らす。
でもモンスターの姿は見えなかった。
使う色が悪いのかもしれない、と思って、私は他の魔法も使う。
「グリーンライト」
「ブルーライト」
確かに辺りは明るくなるけれど、周辺がぼんやり光るだけでモンスターの姿は見えない……。
うーん、と考え込んでいるとTAKASHIがさらに思い出したようにつぶやいた。
「光の調節はできないかな……。ブルーライトの波長をさらに短くできるといいんだけど……」
「光の調節か……。ちょっと試してみるね」
「ブルーライト」
私は早速魔法を唱えた。
唱える時に確かに光の調節機能が存在した。
明るさの他に波長の項目もあるようだ。
私は、TAKASHIの言葉通り波長の項目を調整してみた。
辺りが急に暗くなる。
調整をしすぎたようだ。光自体が見えなくなった。
私は戻そうとすると、TAKASHIは「そのままでいい」と私を制止した。
辺りは真っ暗だったけれど、何かが光って見えた。
「見ない方がいい」TAKASHIはすぐに私の目を手で覆う。
私はとっさに目を閉じた。
TAKASHIが剣を振り回す音が聞こえる。
モンスターを倒しているようだ。
「もう大丈夫だよ」
TAKASHIの声で私は目を開いた。
真っ暗だった。レッドライトに切り替えて辺りを照らす。
モンスターの気配は消えている。
私が不思議そうにしているのを見て、TAKASHIが説明してくれた。
「蛍光物質を持つ生物は、特定の波長の光を当てると光る時があるんだ。
有名なものは、魚に寄生するアニサキス。
アニサキスは、紫外線――青よりもずっと波長が短くて人には見えない光を当てると、光ることがあるんだ。
この階層は、そんな“ブラックライト”をモチーフにしていたみたいだね」
私は、寄生虫を想像して、TAKASHIに感謝した。
多分、TAKASHIが倒したモンスターは、私の嫌いな昆虫や寄生虫の姿だったに違いない。
そんな姿を日記に書かずにすんだ。私の日記はTAKASHIに守られた。
TAKASHIに笑顔を向ける。
「あれっ?暗黒剣はしまっちゃったの?」
いつの間にかTAKASHIは、暗黒剣に比べたら、どことなく頼りない剣を装備していた。
塔に着くまであんなに楽しそうに振り回していた剣だったのに。
「ああ。暗黒剣はあまりにも効果が悪かったから、元の剣に変えたんだ」
「ふぅ~ん。そうなんだ。そういえば、お婆さんも効果が無いって言っていたね」
私たちは、そのまま二階に向かう。
一階は真っ暗だったけれど、二階以降は明るさが増していった。塔と同じ青い光だ。
そして、辺りが明るくなった分、体の大きい、普通のモンスターが増えてきた。
私たちは、これまでのサーバーで培ってきたスキルを使って攻略していく。
この塔のモンスターは、最上階のボス――ブルードラゴン含め、コールドの魔法がよく効いた。
そして、ブルードラゴンを倒すと、塔は光を失った。
塔の攻略が完了したようだ。
◇ ◇ ◇
塔の一階での出来事。
本当はあまりの気持ち悪さに目を閉じたんだけど、TAKASHIが私の目を覆ってくれたことにしちゃった。
これは、私の私による私のための日記なのだから、当然ね。
そもそもRPGに、仲間の目を覆うなんてコマンド、あるわけないのだから。




