第七十三話 おーぷにんぐ
〇月〇日(土)一回目
澄み切った青い空。
ゆったりと流れる川、森や草原の緑に、果実や花の鮮やかな赤が映える。
そんな世界にゆったりと暮らす人たち。
オープニングが始まっていた。
よくある問題が起こる前の世界の描写なのだけれど、とてもきれいだった。
自分が書いたたった三行の文章を見て、自分の文章力の無さに情けなく思ってしまう。
もともと映像として繊細で美しいと思った。でもそれだけではなかった。
ところどころスローになって、画像としての細かい心遣いに気付かされた。
川の流れ、時々跳ねる水しぶきも、はっと息をのむようだった。
特に、外で遊ぶ子供たちと、その様子を見守る親たちの笑顔にほっこりした。
のどかな世界だなと思っていると、突然曲調が変わり、世界は暗闇に包まれる。
「おや、冒険者がきたようだね」老婆の声が聞こえた。
緑の敷物の上のこげ茶色の置物は、座布団に向こう向きに座るフード付きの服をまとった人だったようだ。
ムービーが終わり、ゲームが始まった。
「こんな何もない所に来ていただけるとはありがたい。
ところで、そなたたちの職業は何かな?」
老婆がこちらを振り向いた。
フードに隠れていたしわくちゃの顔がちらりと見えた。
――あなたの職業を教えてください――
画面が切り替わり、職業選択画面が表示される。
冒険者と魔導士の二択だった。私は迷わず魔導士を選択した。
その後、続いて性別や名前を入力した。
「ほう、TAKASHIに、まりこというのかね。いい名前じゃな」
そう、私は今、TAKASHIと二人でゲームをしてた。
普段のサーバーとは別に、土日の空いた時間に起源の無いサーバーを楽しむ、それが愛好家の流行りらしい。
私自身、TKGとして毎日遊ぶサーバーとは別に、今日みたいに土曜日も遊んでる。
何となく誘われて始めてみたゲームだったけれど、すっかりこのゲームにはまっていたということだ。
土曜日に遊ぶサーバーは、攻略期限の無いものを選ぶ。
急に予定が入って遊べなくて、やり直しするのは嫌だから。
この時、推奨人数が二人までのサーバーを意図的に選んでいることはもちろん秘密。
「これ面白そう」って誘うとTAKASHIは必ず一緒に遊んでくれる。
攻略期限が無いってことは、BADエンディングが無いってことで、つまり、製作途中だったり中途半端なサーバーってことだ。
ただ、そんな未完成のサーバーだとしても、好評なものも多い。
その中から選んでTAKASHIと遊んでいる。
多くは、確かに未完成だと感じたけれど、十分面白かった。
今回のサーバーも職業は二つしかないし、まだ未完成なのだろう。
でも、十分楽しめるに違いない。私は少しわくわくしていた。
「・・・・・・ということじゃ」
老婆の長い説明が終わったようだ。
「少しだけわしの話を聞いてってくれないか」と言うから軽い気持ちで聞き始めたら、めちゃくちゃ長かった。
簡潔にまとめると、以前の村は今とは比べ物にならないくらい豊かな村だった。
食べ物はおいしく、自然も豊かで、当時の自分は若く魅力的で、男からちやほやされて、それはそれは楽しく過ごしていたらしい――特にここの話が一番長かった。
けれど、ある時世界が暗黒につつまれる。私はオープニングのムービーを思い出した。
そんな時、颯爽と一人の冒険者が現れ、暗黒の原因となる魔物を倒してくれた。
「これでこの村はしばらくは大丈夫だろう。
ただ、しばらくするとまた、現れるかもしれない。
その時のために、この剣を渡しておこう」
それから、この冒険者との魅惑的なやりとりについて、また長いお話があったのだけれど、多分、この物語には無関係なのでやっぱり割愛するわね。
そして、数十年の月日の後、冒険者の言葉通りに村が再び暗闇につつまれ始めたとの事だった。
「もし、よければ……。でも来たばかりのものにお願いするのも悪いか……」
そう言って、老婆は目をそらした。長い長いお話が終わった。
今いるこの部屋は、この老婆の家なのだろう。
見渡しても家具は少なくとても殺風景だった。
オープニングで家の外観が映っていたが、とても同じ家とは思えないみすぼらしさだ。
「冒険者さん、お待ちなされ。ぜひ私にお話を聞かせてくだされ」
もう用事はなさそうだと、外に出ようとすると、老婆に止められた。
この家には家具もなく調べるものが無いとすると、老婆にまた話しかけるしかない。
「おや、冒険者さん。もしかしてこの村を救ってくれるのか?」
「いいえ」
TAKASHIはお茶目にいいえを選択した。
「冒険者さん、お待ちなされ。ぜひ私にお話を聞かせてくだされ」
そのまま、外に出ようとするとやっぱり老婆に止められた。
「おや、冒険者さん。もしかしてこの村を救ってくれるのか?」
「いいえ」
「冒険者さん、お待ちなされ。ぜひ私にお話を聞かせてくだされ」
「おや、冒険者さん。もしかしてこの村を救ってくれるのか?」
「いいえ」
「冒険者さん、お待ちなされ。ぜひ私にお話を聞かせてくだされ」
……。
よくあるRPGのコントを一通り二人で楽しんだ後、TAKASHIは「はい」を選択した。
「おお。それはありがたい。
では、この剣を――冒険者から預かっていたこの剣をそなたたちに託そう。
ぜひ、この村を救ってくだされ」
そう言って、黒光りする剣を手渡された。暗黒剣というらしい。
私は魔導士だから、冒険者のTAKASHIが装備する。
「ただ、その剣……、以前はとても魔物に対して効果があったのじゃが……。
最近の魔物には全くと言ってもいいほど効果が無いのじゃ……。
腕の立つ者がいなくなったのか、剣の効力が無くなったのか……」
老婆の独り言が聞こえてきた。これから冒険をする私たちには不穏なセリフだ。
◇ ◇ ◇
今日は、こんな感じ。
老婆のお話がとても長くって、ほとんど物語は進まなかった。
本格的に話が進むのは、きっと次からね。
お話しを盛ったところもあるけれど、自分しか読まない日記だし別にいっか。




