episode4
「今日もどうせなんでもいいって返信来るんだろうな」
そう思って、今日はあれにしようって思っている時に限って、
「この前食べたあれがいい」
って返信が来る。
「あれって何よ……」そう思って少し聞いてみると先月に作った肉野菜炒めだった。
そういえば、確かにおいしそうに頬張っていたっけ。
あまりにも早く食べ終わるものだから、少しうれしかったことを思い出した。
ただ、肉野菜炒めとは言っても作り方は様々だ。
一般的にはお肉とキャベツだと思うけれど、卵を使ったりもやしが入っていたり、特に調味料に至っては無限のレシピがあるだろう。
あの時も、確か少しだけアレンジが加えられていた気がする……。
うーん。思い出せない。
こんな時のために、このゲームには履歴や検索機能がついている。
私は、ゲームにログインして以前の攻略履歴を振り返る。
先月の……、確か金曜日だった気がするな……。
あった。これだ。カレー風味の野菜炒め。
あまりにもおいしそうだったから、食べ過ぎてもいいように金曜日にしたんだ。
レシピを見ていたら味も思い出してきた。
お腹が減ってきた……。
レシピを見ていると、“感想”という項目を見つけた。
普段はランダムレシピで塔を攻略するから見ていなかった。
レシピには感想をつけることができるようだ。
結構おいしいと思ったから、高い評価なのかなと覗いてみた。
「カレー風味、初めて挑戦してみました。
食欲をそそりとてもおいしかったです。
ありがとうございました」
プレイヤーの名前を見ると知っている名前だった。
TKGというチームのマリオ。
TKGは以前から知っていた。
このゲームの中の新聞でたびたび見かけてた。
短くて変わった名前だから覚えていた。
新聞に出てくるなんてゲームに夢中のチームなんだと思っていたら、家庭的で礼儀正しい面も持ち合わせているらしい。
マリオさんって男なのにお料理もするのね。
今時の男性ってみんなそうなのかしら?
うちの旦那にもお料理覚えてもらわなくちゃ。
軽く冒険を振り返り、レシピを思い出す。
数時間後、いつもの時間に旦那は帰ってきた。
帰ってくるとすぐに、においに反応したようだ。
素早く着替えて食卓に着く。
お腹をさすって、お腹が減ったといいたげな目をしている。
料理を出す。
「いただきます」と食べ始める。
そんなに早く食べなくても大丈夫よ、という心の中の声を無視して、旦那はがつがつ食べていた。
今日もあっという間に食べ終わる。
「ごちそうさまでした。今日もおいしかった。ありがとう」
明日は土曜日。旦那はお休みでも、料理は毎日作る必要がある。
「明日は何を作ろうかな?ちなみに希望はある?」
「なんでもいい……」
……またか。やっぱりそう言うよね。
「いや、本当に最近どれもおいしくて選べない……」
仕方ない。許してやるか。
しばらくたって旦那は苦しそうにソファーに横になる。
近づくと、安らかな呼吸音が聞こえる。
私は、大きくなってきた彼のお腹にタオルをかける。
次は、ダイエット食に挑戦する必要がありそうね。
このゲームからは、他にもいろいろな事を教わった。
冷蔵庫の活用術、買い物の時短術、電子レンジ攻略法、あげはじめたらきりがない。
そういえば、あの技、使って見ようかしら……、と旦那に目を向ける。
苦しそうにしていた旦那の顔は、満足そうな表情に変わっていた。
幸せそうな顔で目を閉じている。
その様子を見て、私は技を使うのはやめた。
満ち足りた顔だけで私には十分だった。
「旦那に皿洗いをさせる秘密テクニック」は次回に持ち越しだ。
このサーバーには「和の塔」の他にもさまざまな塔が存在する。
よく使われるのは「洋の塔」「中の塔」だ。もちろんそれぞれ和食、洋食、中華を表している。
ただ、他にも多くの塔が存在している。
国の数だけ塔が立ち並び、その国の料理の数だけレシピがある。
そして、レシピの数だけ、未知の冒険がある。
この世界には、私の知らない世界がたくさんある。
だから、私はまた、新しい冒険に向かうのだ。
「LASTGAME」
文化の数だけサーバーが建ち、国の数だけ塔が建ち、プレイヤーの数だけ冒険がある。
これは、たかがゲームのはずだった。
けれど、ゲームの中の世界がどんどん広がるのを見て、「あなたたちの文化はこんなものですか?」と私たちは試されている気がしてしまうから、少し不思議。
まさかね。
さて、次は、どんな世界に飛び込もうかしら。
夫婦円満の秘密?そんなの決まっているじゃない。
もちろんゲームに決まっているわ。




