episode4
この国では近年、緊縮財政派と積極財政派に分かれて国債発行量を巡って議論が行われている。
緊縮を訴える人たちは、国債を発行するとお金の価値が下がりインフレが加速するという。
一方で積極財政派は、国には資産があり問題ないと言っている。
通貨のデフォルトが発生していない以上、両者の言い分の間に適切な量があるのだろう。
では、どのくらいが適切なのか。 何を基準に検討すればいいのか。
そんな議論がされているところはほとんど見たことが無い。
この国では近年、物価高や増税の影響で、生活に必要なお金は年々増えている。
しかし、平均年収は昔と比べて下がっているらしい。
以前は女性の働く権利が訴えられていたが、今では女性は働かないと結婚できないと言われている。
権利が義務になってしまったようだ。これでは子供の出生率は上がるわけがない。
では、どれぐらいが適切なんだろうか。難しい問題だ。
ずっと考えていて、少しだけ自分の中で結論らしきものが見えてきた。
国は国民に働かせて、給料を払う。
もちろん給料が高すぎると需要が増え、輸入が増える。
資源が乏しく国土の狭い国ではすべての生産は難しいから仕方ない。
だから国は、外貨を稼ぐよう、労働力を税制などで調整する必要がある。
この国では通貨は外貨を稼ぐ手段――そう考えた時に自分の中で腑に落ちた。
国は、多くの国民が結婚して子供二人を育てられる量のお金を流通させる。
労働力、生産力に合わせて、お金を流通させる。
もし、外貨が不足したら国民を税制の変更などで、外貨を稼ぐ産業へと労働力を調整する。
シンプルでわかりやすい理屈だ。
お金の流通量は、他にも労働人口、生産力、教育水準や税率などで増減する必要があるのだろう。
労働人口が増え、生産力が上昇したら、お金を増やす。
教育水準が上がったら、その分、お金を増やす。
税率を上げて必要な額が増えたら、その分お金を増やす。
機械化や自動化で生産力が上がったら、新規産業が生まれるようお金を増やす。
そして、外貨が不足するのであれば、外貨を稼ぐ産業へ国民を税制で調整していく。
国債――国の借金が多くて心配だと思うのもわかるが、高い生産性を維持するために消費者も必要だ。
問題は、その分の外貨を稼いでいるか、だ。
自分はそう考えていたが、最近、国は全て反対をやっているように見える。
女性の社会進出、年金受給年齢の引き上げ、外国人労働者の増加しても、教育水準が上がっても、機械化や自動化で生産力が上昇しても、お金の流通量は増やしていない。
国債発行量を減らしお金の流通量を減らすのなら、税率、国民負担率は下げるべきだと思うけれど、逆に増税している。
案の定、エンゲル係数などの指標は年々悪化しているらしい。
自分の考えとは真逆の政策を進める国、そして、それを是とする報道。
自分の考えは間違っているのだろうか。
だんだん自分の考えに自信が持てなくなってくる。
ああ、憂鬱だ。
今日は、水曜日。
多くのプレイヤーは、西の洞窟の攻略に向かっていたようだ。
今日も攻略成功の新聞が届いた。
西の洞窟の攻略には、デフォルトサーバーと同様、単純なパズルを解く必要がある。
ただ、デフォルトよりも難易度高め、それに、問題の量も増やしておいた。
敵の能力を把握し、レベル上げもし、さらに多くの少々てこずる問題をたくさん解く必要がある。
だから難しいと思っていた。
でも攻略されてしまった。
これまでのプレイヤーとは一味違う。
プレイヤーたちもなかなかやるようだ。
洞窟の攻略が終わって、今日もごーやが訪れた。
昨日と同じように、パズルを少しだけやって、やっぱりあきらめたようだ。
どんなパズルでも大きければ大きいほど難しい。
そして大きさに応じた手筋が生まれ、その手筋を見つける必要がある。
カジノのパズルは、数字とマスを組み合わせたパズルだが、とても大きく作っておいた。
「プレイヤーさんですよね。昨日もここにいましたようね?あなたは遊ばないんですか?」
不意に話しかけられた。
「ああ。自分は見ているだけで十分だ」俺はとっさに答えた。
「わかります。ゲームって見ているだけでも楽しいですよね」
彼はそう言ってログアウトした。




