episode3
「資源不足」という言葉が報道される。
不足という言葉は久しぶりだ。
この国では、多くの製品がとても安く大量に手に入る。
不足と聞いて血がたぎる。物の不足は労働者にとってはチャンスだ。
どんな製品でも、たとえ高額でも、売れていた時代を思い出す。
なんでも作れば飛ぶように売れた。
多少高くても無関係に売れた。
働けば働くほど生活が豊かになった。
そして豊かになったのは自分だけではない。
国全体が豊かになった。
狂乱の時代だった。バブルの時代だった。
しかし、今は違う。物が大量にあふれ、たとえ作ったとしても安く買いたたかれる。
そんな中、久しぶりの不足という言葉に、心が躍った。
また仕事が不足する時代が戻ってくる……。
でも、すぐに気持ちは落ち着いた。
この国は優秀だ。不足品はすぐに世界各国から集めてくるだろう。
値段だって、すぐに落ち着いてしまうに違いない。
数年前のマスク不足だってすぐに解消された。
そもそも、今回不足している資源は揮発性が高く長期保存に向いていないらしい。
物流が滞ってあふれていた分が市場に出回り始めたら、価格はあっという間に下落する。
やっぱり、物不足なんてそう簡単には起こりえない。
安い海外製品に押され、安く買いたたかれるこのご時世。
労働者には、厳しい時代だ。
どっかの番組でインフレだから消費税を上げるべきと言っていた。
どっかのインフルエンサーも同じことを言っていた。
「イ ン フ レ? この国がインフレ??」
俺には彼らの言い分が理解できない。
原材料が無いからって、二色刷りの製品が売られるようなこの状況がインフレ?
「ナフサが無い? なら、金粉で作ればいいじゃない」
どっかの国のお姫様の声が聞こえた気がした。
もちろん元の生声なんて聞いたことは無い。
庶民の感覚なんて知らないお姫様のセリフをもじったが、いかにもインフレという感じを醸し出しているではないか。
インフレとはこういうものだ。
他の材料を使って高額になったとしても、買いたいという需要がそれを支える。
今は、そういう状況なのか?
俺には、今のこの状況がインフレだとは全く思えない。
どちらかというと――
誰も買わなくなって、でも稼がなくちゃいけなくて、
だから必ず売れる食料品や生活必需品に価格を転嫁するしかない。
そんなこの国の断末魔の値上げとしか思えない。
昔は、薄利多売で安く売った。
でも、今は、多く売れなくなった分、値段を上げるしかない。
輸送費固定費は、不景気でも一定額必要なのだ。
売れているものに上乗せするしかない。
お米の値段だって、国がそんな意図で上げているのだろう。
けれど、今は売れずに在庫であふれているという話だ。
お米は国産が当たり前だったはずが、今は国産を唄う外食店を探す方が難しい。
これでは余って当然だ。
高くても需要があるのは、タワーマンションと株ぐらいだ。
そしてどちらも投機目的だ。
そんなことを考えていたら、また憂鬱になってきた。
俺は、サーバーにログインして、プレイヤーをぼうっと眺めることにした。
今日は、火曜日。
軽い探索を終え、今日から本格的な攻略が始まっている。
昨日調べたモンスターの姿は、今日の冒険でまた変わっている。
もう一度初めからモンスターの特徴を調べる必要がある。
それに、前日までのレベル上げは今日に引き継がれない。
多くの新規プレイヤーがそのことに気が付き、絶望していた。
その様子を見て、少し俺の気持ちは晴れた。
レベル上げで攻略可能だなんて、そんな甘えは許さない。
この世界は常に新しい敵との戦いなのだ!
でもそんな中、新聞が届く。
一つ目となる「東の塔」が攻略されたようだ。
「東の塔」については、この世界のルールを把握すれば攻略できるように作っておいた。
いわば、チュートリアルだ。
「まあいい。東の塔は四つの秘密の中で最弱」
俺は、ぼそっとつぶやいた。
コアタイムが終わって、多くのプレイヤーは解散した。
そんな中あるキャラクターが目の前に現れた。
「TKG」というふざけたチーム名の「ごーや」というプレイヤーだ。
後で気づくが、TKGもこの日、東の塔を攻略していた。
ここはデフォルトサーバーには無いカジノ。
まあ、カジノとは言え、普通のコインゲームは用意していない。
代わりにパズルを置いてある。
しばらくして彼はあきらめて帰っていったようだ。
それも当然、ここのパズルはとても難しい。
数うちゃあたるゲームなんて用意していない。
このサーバーは攻略させる気なんて無い高難易度のサーバー。
そして、このカジノは、理詰めの頭脳が試される場所なのだ。




