episode5
もっとエネルギー消費を抑えるべきという声がある。
戦争が始まった今、その声を明確に否定できる根拠はない。
そもそも世界の緊張が年々高まってきている。
次の世界大戦がはじまる可能性を否定できない。
ただ、そんなこと言っていては、経済政策が進められない。
もともと冷え込んでいた景気を、さらに冷え込ませるわけにはいかない。
この国では、古来から少ない資源の中、成長してきた。
世界では、食事を残す文化が多いのに対し、我が国では食事は残すなと教わる。
お米一粒には神様が宿ると言われることだってある。
もったいない、リデュース、リユース、リサイクル。
資源大国には考えつかない標語だろう。
そんな我が国では、小型で燃費のよい製品づくりに特化してきた。
エネルギー不足を世界的に考える今こそ、我が国の製品を世界に知らしめるチャンスだ。
私たちの経済政策はまだ始まっていない。
ここで立ち止まるにはいかない。
◇
ミロは20才になった。初めての冒険から10年以上経過した。
今日は久しぶりに実家に戻ることにした。
父さんは冒険者を退き、田舎で農業を営んでいた。
「おお、ミロ。久しぶりだな。とれた野菜でも食ってけ」
そう言って採れたての果実を投げ渡される。
みずみずしい果実だ。ありがとうと言ってから口に頬張った。
「それより、冒険者家業は順調か?」
「ああ、冒険自体は問題ないな」飲み込んでから答えた。
「ん?何か含みのある答えだな」
父さんの問いに俺は包み隠さず、二年ぐらい前から街の様子が変わった事を答えた。
2年の間に、街では海外から安い製品が大量に入ってくるようになった。
それは、自分が冒険者として収集する鉱石や薬草の類も同様だった。
自分は腕っぷしを評価され、護衛や討伐の仕事を引き受けているから続けられるものの、多くの冒険者は廃業していた。
鍛冶屋や小さな道具屋も安い製品に対抗できず、厳しい経営を迫られていた。
新しく何かを作ろうにも、誰にもそれを買う余裕は無かった。
皆、徐々に生活が苦しくなっていた。
結局、元冒険者は旅人となって狩りをして、町人は田畑を耕し食いつないでいた。
国の目に留まるところでは税を徴収されるから、国王の目の届かないところに皆逃げた。
細々と物々交換で暮らしを支えていた。
「何、昔はこうだったのだ。以前の生活に戻っただけさ」
たくましい声を聞いたものの、過去にこんな生活をしていた記憶は自分には無かった。
俺が言い終わると父さんは、少し黙って考え事をしていた。
数分後、ぽつりとつぶやいた。
「街から北に向かい、道無き山道を登っていくと、一軒家があるはずだ。
ミロ、申し訳ないが、その一軒家に行ってみてくれないか。
お前なら必ずたどり着けるはずだ」
父さんはまだ、うつむいたままだが、はっきりとそう聞こえた。
俺は、ああわかった、と伝えると旅の支度を始めた。
街に戻りギルドで冒険者を集い旅に出る。
幸い冒険者はすぐに集まった。
聞いてみると、最近まで城の警備をしていた兵士たちらしかった。
城でも海外からの安い労働力に置き換わっているようだ。
険しい山道を進み、モンスターを倒す事数回、少し開けた場所に出た。
そこには、小さな家が建っていた。樹で作られた小さな家だ。
父さんが言っていたのはこの家の事だ。俺はなぜか確信した。
近づくと、扉が開き、中から老婆が現れた。
とても小柄で灰色にくすんだローブを身にまとっている。
「そろそろ来るところだと思っておった。どうぞ入りなさい」
老婆は椅子に腰かけると、球を机の上に取り出した。
「残念だが、まだ、時は満ちていないようじゃ」
無色で透明な水晶玉だ。若干青みがかっている。
「いづれ時が満ちるとこの球は光り輝きはじめる。
その水晶玉を怪しい者に振りかざすがよい」
ミロは光の球を手に入れた。




