第七十一話 六日目 その2
「おい!大丈夫か」心配そうなTAKASHIの声が聞こえた。
「いてててて。大丈夫……だと思う」
頭が天井にぶつけたように痛む。いや、実際にぶつけたのだ。
冷静に状況を振り返ってみる。
時間を確認すると2分ぐらい気を失っていたみたいだ。
まだ、間に合う。急がなきゃ。
「ごめんなさい。少し手順を間違えちゃったみたい……。
次は大丈夫だから、また手をつないで」
私はリレミトで塔を脱出した後、ルーラで北の塔へ向かう。
私は初日に目にしていたけれど、少し異質だ。
他の塔は実写だったのに、この塔だけ、先週の塔と全く同じみたい。
でも少しだけ違って、白く光っているようだ。
前回はこの塔の攻略に、失敗している。リベンジ戦の始まりだ。
「やっぱりなぁ~。北側の守りが手薄だと思ってたんだよ」
どうやらごーやは、スカイツリーや東京タワー、都庁は防衛施設ととらえているみたい!?
北に対応する塔が、現実には無い事に不服のようだ。
ただ、製作者さんに対しては感心していて、しきりに「わかってるねぇ~」とつぶやいている。
「政府、大企業の皆さま、北側に建物が必要ですよ」と手まで合わせ始めた。
製作者さんと気持ちが一致するところがあるのだろう。
私には全くわからないけれど……。
塔自体の高さは他より圧倒的に低いけれど、敵シンボルの数はとても多い。
前回だって、こんなに敵はこんなに多くなかった気がする。
何とかかわし、でも時々かわしきれなくて、戦闘が始まってしまう。
そんな中、最も活躍したのは、わけわからないことばかり言っていたごーやだった。
ごーやの職業は青魔導士。南の塔の攻略によって全ての青魔法を覚えたようだ。
青魔法は本来、敵の攻撃をうけてラーニング――覚える必要がある。
今回の前半はレベル上げばっかりしていて、敵の技を覚える時間のなかったごーやが、ここに来て大活躍だ。
レベル上げだけでは覚えられない、特殊な方法を使わないと覚えられない魔法を使える。
そう考えてごーやは青魔導士を選択したのかもしれない。流石軍師様だ。
「エアロガ」「ミサイル」「レベル3フレア」と消費MPに対して効果の高い呪文を連発していく。
「ホワイトウインド」「マイティーガード」という回復呪文、敵の攻撃をガードする呪文も覚えた青魔導士は万能だ。
まだ、MP回復薬にはゆとりがある。
「メラゾーマ!」「マヒャド!」「バギクロス!」「イオナズン!」
私も覚えた極大呪文を連発して敵を倒す。
ごーやが急いで駆け上がって階段の上から皆に話しかける。
「この塔を北の防衛拠点にしよう。名前はそうだな……、ごーやタワーだ」
ちょっと調子に乗ってしまったようだ。
「変なこと言ってないで早く上れ!」KOJIがごーやの頭を叩きながら階段を追い越していく。
「8点」私はそう言って笑いながらKOJIの後を追った。
「……??10点満点で8点??面白かったって事?」
「100点満点中!」私は冷めた笑顔で答えながら階段を上っていく。
ごーやの足が崩れるのが見えて笑みを浮かべる。
「へこたれていないで早く上れ」殿を務めていたTAKASHIが、ごーやを急がせる。
「へーい」と言ってごーやは先を急いだ。
一分一秒を争う場面なのに、可笑しな軍師様だ。
でも少しだけ、チームの雰囲気が明るくなった気がする。
残り5分。最上階にたどり着く。
「さあ、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ!いくぞ!!」
気合を入れなおし、KOJIが黒い球に触れる。
グィィィーンという効果音と共に次元が歪み、私たちは別次元へ移動した。
最後の戦闘にふさわしいBGMが鳴り響く。
前回も聞いたBGMに気合が高まっていく。
これが私たちの最後の戦い、リベンジマッチだ。
最後の塔の守護神は、白く光り輝くドラゴン。
ドラゴンの前に2体の槍兵、そしてさらに私たちの近くに1体の槍兵を率いているようだ。
おそらく、2体は守備要員、残りの1体は攻撃要員ということだろう。
最後の戦いだ。ドラゴン単体も強くなっているのに違いないのに、さらに3体の槍兵も従えている。
私たち四人に対し、敵も4体。緊張感のある戦いになりそうだ
早速、敵の攻撃要員が攻撃を仕掛けてくる。
ここでKOJIは手を挙げた。私たちはその手を見て、フォーメーションを変更する。
本来後衛となるべき、耐久力の低い私やごーやが前衛に躍り出る。
この変更により、相手の前衛より私やごーや二人ともドラゴンに近づいたことになる。
「ピッ」審判の笛が吹かれた。
オフサイドだ。おそらくKOJIは南の塔の攻略の時に、覚えたのだろう。
敵AIはまだオフサイドに対しての有効な戦略は持っていないみたい。
相手の前衛を一人完全に無効化した。
これで味方四人に対して敵3体、だいぶ有利になった。
そんなことを考えていると呑気な歌が聞こえてくる。軍師様だ。
「カ~エ~ル~の~〇~〇~が~」
「聞~〇~〇~て~」私も思わず口ずさんでしまう。
ちょっとちょっと、ごーやさん。今は一分一秒を争う戦場ですよ。
歌を歌っている場合じゃないですよ。
「げこっ?げこげこ!」最近どっかで耳にした声が聞こえてくる。
そういえば、槍兵に対して、トードが有効なんだっけ……。
えっ。もしかして……。
見ると、ドラゴンの前にいる2体の槍兵がカエルになっている。
これは「かえるのうた」だ。複数をカエル化する青魔法だ。
……。えっ。軍師様……、やっぱり優秀すぎない……!?
これで味方四人に対し、敵一体になった。
皆で一斉にドラゴンに攻撃する。
「急げ、時間が無いぞ!」KOJIの声が響いた。時間は残り1分を過ぎていた。
最後の攻撃だ。くらえ「イオナズン」と唱えようとした時だった。
オフサイドポジションにいた敵の槍兵が味方のピンチに近づいてきていた。
自陣はオフサイドポジションではない。オフサイドが解除され、槍兵が攻撃を開始する。
今まで、完全に槍兵の攻撃を封鎖していたから、どんな攻撃をするかわからない。
そんな槍兵の最初の攻撃は、槍払い――単純に槍で払う攻撃だ。
スタン。初めて見た攻撃に、皆、盛大に転んでしまった。
ここにきて、まさかのスタン!!??
……。しまった。最後の攻撃だったのに……、もう時間切れか……。
「んっ?まだ笛はなってないぞ」KOJIの言葉が一帯に響く。
時間は過ぎているのに、確かにまだ戦闘は続いているようだ。
私たちは体制を立て直してもう一度攻撃を開始する。
KOJI「必殺シュート」
ごーや「エアロガ」
私「雷鳴よ鳴り響け。イオナズン!」
その日、KOJIはハットトリックを決めた。
塔の守護神が音もなく崩れ去る。
「塔の守護神を倒した者よ。我が英知の一つ、剣を授けましょう」
英知の剣を手に入れ、私たちは元の世界へと戻ってきた。
「よっしゃ!」
劇的な塔攻略に、私たちは、大はしゃぎで、そして、満足して解散した。
だから、何かが最後の戦闘で効果を発揮していたことには、誰も気が付いていなかった。




