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LAST GAME  作者: よむよみ
第七章 光の世界 テストプレイ編

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episode04

 四日目。

 ゲーム開発者の私だからこそわかる。

 物語が動き始めてる。

 ただ、私の知らない分岐に入っているみたい。

 少しわくわくしている自分に気が付く。

 ゲームを作ったはずの私でも楽しめてる。



 今日は謁見の日。

 普段は執務室にこもって、報告書を読んで指示出しばかり。

 だから、玉座に座る事はそんなに多くない。

 城の中で最も広く豪勢な謁見の間の立派な玉座で、彼らとは久しぶりに対面した。

「ありがとうございました。この度の御恩は忘れません」

 片言の言葉ではあるけれど精いっぱいの言葉だ。


 まだまだ若いが、しっかりとした眼差しをしている。

 きっと彼らなら大丈夫だろう。私は笑顔で会釈した。


 私の国は、世界と比較しても非常に優れた成長を遂げている。

 時折、外国から協力や支援をするよう求められる。

 世界の発展のために、社会貢献をすることは先進国の役割の一つだ。

 幸い、今はだいぶゆとりがある。

 私は、外国からの使節団を受け入れることにした。


 使節団は、この城や兵士宿舎、鍛冶屋、農家など方々を巡る。

 せっかく来た彼らを雑に扱うわけにはいかない。

 だから私は、彼らの巡る先々に補助金を渡した。

 きっと彼らは、この国の成り立ちや労働への価値観、技術等を学んだ事だろう。


 おどおどしていた初顔合わせの頃とはまるで違う顔をしている。

 祖国に戻ったら、彼らがリーダーとなって国を導いていくに違いない。

 昔読んだ歴史の教科書には、派遣によって国に貢献した人の名前が載っていた。

 彼らだって歴史に名前が残るかもしれない。

 私は自然と笑顔になる。


 技術実習生という言葉がある。

 使節団とはだいぶ重みが違うようだ。

 けれど、もし企業が外国人をアルバイト感覚で扱っているのなら、補助金や助成金は不要なはずだ。

 技能実習には、技術や知識を伝播する役割がある。

 雑用のような研修は祖国に戻ってからでいい。

 それに、人数が多すぎるように感じる。

 人数を絞って厳選し伝える事で知識に希少価値が生まれる。

 その知識は、きっと祖国に戻ってから重宝されるだろう。

 彼らが率先して他の人に知識を教えていくはずだ。


 謁見が終わると、私は執務室に戻り報告書を読み始めた。


 この国の鍛冶屋は急成長している。

 生産性も技術力も格段に伸びている。

 執務室の装飾を見てもわかる。

 きらびやかな光沢を持った製品が増えていた。

 そしてそれは、外国にも売れていた。


 きれいな装飾を施された日用品だけでなく、精巧に作られたからくり人形も国を超えて人気だ。

 代わりに外国から安い特産品がたくさん集まってくるようになった。

 多くの人々は、より安く豊富な食材や香辛料が手に入り豊かさを感じている。

 けれど……。その分農家の人たちは価格競争にさらされていた。


 この国の成長は素晴らしい。その分、生活水準も上がり人件費も高くなっている。

 それに、さらなる発展、研究のためにと税率は近隣諸国と比べて高い。

 税率も低く人件費も安い地域で作られた外国産と比較すると、国産はどうしても割高になる。


 農家たち、大丈夫かしら、と心配していたのだが、杞憂だったようだ。

 農家は余った生産物をお酒にすればいいぐらいに考えているようだ。

 国民全体が豊かになっていることもあり、酒屋はますます繁盛しそうだ。

 農家は思っていたよりもずっと、たくましい。



 報告書の途中だけれど、ちょっと一息、飲み物を手に取った。

 もちろんお酒じゃないわ。

 いくら私がお酒が好きだからって仕事中は……、少ししか飲まない。


 そんな時だった。

「女王様!」という声と共に、白衣を身に纏った男が入ってきた。

 前回、新しく国へ招き入れた研究者だ。

 相変わらず薄汚れた白衣、研究者という人種はいつも自身の姿には無頓着だ。

 息をきらし壁に手をかけ「はぁはぁ」と膝を折っている。

 とても急いでやってきたようだ。


「どうしたの?騒々しいわね」

「はぁはぁはぁ。ついに、ついに…。魔法が再現しました。

 ……。ほら、入っておいで」


 いかにも聡明そうな女の子が、研究者に手まねきされて入ってきた。

 学生服を着ている。学生のようだ。

 ちらっと見ただけではわかりづらいけれど、オッドアイだ。

 左目は黒めに赤みがかっていて、右目は少し青く見える。


「さっきできたこと、もう一度できるかい?」

 少女は軽く頷くと、左手に持った分厚い本に右手をかざし目を閉じて集中し始めた。

 そして、ゆっくりと目を開き、今度は右手を前に出した。

 淡い白い光が右手から放たれた。


「どうです?ライトという魔法です。

 古の魔法です。

 ついに再現できました!」


 研究者は目を輝かせて、こちらを見ている。

 あまりにも自信満々な表情に、少し意地悪したくなった。

「ちなみに、博士はその魔法、使えるのかしら」

「……、それが私にはさっぱりでして……」

 研究者は少女から本を奪い取り真似してみるも、魔法は発動しなかった。


「うーん。何かコツでもあるのかしら……?」

 と私は尋ねると、少女は控えめにしゃべり始める。

「私は…、魔導書に集まっている魔力を少し分けてもらって、そして右手で魔法を発動するイメージですね」

 物静かで落ち着いている印象を受ける。


「いずれにせよ、彼女を中心に研究がはかどります。

 私だって、きっといつか魔法を習得して見せます」

 なにしろ、他にも多くの魔法がありますから、一つぐらいは……必ず、と研究者は意気込んでいる。


「あら、今は学生、よね?

 あなたも研究者になりたいの?」

「あっ。いえ、私は冒険者になろうと思っています」

「そう。残念ね。

 もし研究者になりたかったら、いつでもおいで」

 話は終わりと思ったようだ。

 こくんと頷いて、彼女は立ち去った。


 研究者はあっ、待ってと言いかけて、手を伸ばすも間に合わず、私に尋ねた。

「これでよかったのですか?彼女がいれば、きっと研究がさらにはかどったはずなのに」

 私は、ふふっと笑って「いいのよ。本人が希望していないのだから」と答えた。


 研究者の手にある魔導書に目を落とす。「私にもできるかしら……」

 私は、研究者の持つ魔導書を手に取り、少女と同じように右手をかざし目を閉じる。

 私は王家の血筋。勝算はあった。

 古からの言い伝えによれば、王は代々子供たちの中で最も魔力の高いものが選ばれていたらしい。

 ある時を境に魔法が忘れ去られたらしいけれど、私にはできる気がしていた。


 目を開き、右手を前へ。

 彼女ほどではなかったけれど、手が白く輝いていた。

 思った通り、コツさえつかめば、私にも魔法は使えそうだ。


 研究者は目を丸くして驚いている。

「彼女ですら、魔法の発動には一週間かかったのに!女王様はすごいですね……」

 私は、口元に笑みを浮かべて彼に言った。

「私にも出来るという事は、他にも出来る人がいるかもしれませんね。

 少し探してみてはどうですか?」

「しかし、彼女ほど優れた人物を見つけることができるかどうか……。

 なぜ、彼女に研究者を進めなかったのですか?」


 私は、彼の目を見て答えた。

「国の成長というのは、総合力なのです。

 逸材を国ばかりが集めては国が成長しないのですよ。

 優秀な人材は民間にいてこそ輝く場合も多い。

 ですから、国家の人材はできるだけバランスよく登用します」


「なるほど……。国王様ともなると考えることが少し違うのですね……」

 研究者は少し考え込んで、ふと何かに気付いたようだ。

「あれっ?もしかして、私。バランスとして選ばれたんですか?」

 研究者が珍しく自身の事に言及した。

「さあ、どうかしら」私は意地悪く笑いながら答えた。

「ただ、役に立たない可能性が高い魔法の研究こそ国がやるべき、そう考えてはいるわね」

「……なるほど」

「では、あれも?」

 研究者の視線の先は窓の外に向いている。外を軽く見渡すと大きな建物が一つ。

 時折、子供の声がきゃっきゃっと響いてくる。


 王立の保育園。

 多くの未就学児を預かっている。

 たくさんの元気いっぱいの子供たちを忙しく見守る先生たち。

「えいっ。えいっ」と剣をふるう子供に対して、「なかなか筋がいい」とほめるお年寄りの姿も時々見られる。


「よく気が付いたわね」私は研究者の洞察力を素直に褒めた。

 育児を終えた女性を中心に、働きたいという女性が増えていた。

 それに、医療の普及により寿命が延び、やはり働きたいというお年寄りも増えていた。

 そんな働きたい人たちの受け皿を用意する必要があった。

 労働に対してブランクのある女性や、体に衰えを感じるお年寄りを、民間にばかりおしつけていては不公平だ。

 税率の通りに、民間では劣っているとされる人たちも雇用する必要があるはずだ。

 そんな考えから作られた王立保育園は、女性にはもちろんの事、退役された兵士にも最期の奉公先として人気だった。


 研究者はしばらく「なるほど、なるほど」と保育園を眺めていたが、私の公務の邪魔になると思ったのか、

「あっ、長々と失礼しました。私は研究があるので戻ります」と戻っていった。


 私には進めたい研究が二つある。

 一つはこの国の歴史に関わる研究、もう一つは古墳から見つかった古文書についての研究だ。

 そのために私は教育機関を作った。

 小学校から大学までを一つにしたような学校だ。

 研究を進めると同時に、研究者を増やす狙いがある。

 報奨金が冒険者の行動を変えたように、教育にも労働者の割合を変える効果があるはずだ。

 それに教育は社会全体の教育水準の底上げにもつながる。


 彼を研究者として国に迎い入れたと同時に、私は彼に教育機関も任せた。

 知識を積み重ねる研究機関と、知識を学ぶ教育機関、きっと相性がいいだろうと判断した。

 どうやらその判断は功を奏したらしい。

 報告書によると、農家の時、暇さえ見つけては研究をしていたという彼の話は、独特なアイデアに満ちており面白いと生徒に評判のようだ。

 彼を追って研究者になろうという若者が増えるはずだ。

 魔法の再現だけでも素晴らしいのに、期待以上の働きだ。


 研究はさらに民間の方でも進んでいる。

 歴史家が、国のあちこちで遺跡を見つけ、資料にまとめて本として出版していた。

 もちろん全て取り寄せて、研究者に読ませている。

 私たちの歴史の研究は、順調に進んでいる……と思う……。


 国王  1

 兵士  2

 研究者 1

 農家  1

 冒険者 1

 鍛冶屋 1

 歴史家 1

 工芸家 1

 酒や  1


 プレイヤーの職業を見ても職種が増えている。

 国民の職種は、さらに多様だ。

 この国は経済も順調に発展している。



 この国の順調な発展に一息ついていると、嫌な顔が目に映った。

 増税ばかり進めてくる嫌な大臣の顔だ。

 最近、嫌いすぎて段々顔がカエルに見えてきた。

 そう思うと声も少し、ゲコゲコ……。

 いやいや、大臣だって国の財政の事を考えているはずだ。

 大臣の顔が何とかウーパールーパーに見えるように努力する。


「最近、この国は景気がいいようです。我々も増税して儲けましょう」

 ウーパー…、大臣のお話は、思った通り増税の進言だった。

 私が何も言わずに、黙って聞いていると、言葉をどんどん並べてくる。

「特に先進国では、一般税をもっと高く設定しているようです。

 私たちもそれを取り入れましょう」


 このゲームの中での税は二種類。

 商品に一律にかかる一般税と、年間の利益にかかる生活税だ。

 生活税は累進課税としているけれど、一般税は食料品にもかかり、逆進性が強いと言われている。


「彼の国は、税率を高くしたことで、福祉を充実させています。

 ぜひ、我々も真似ましょう。それが国民のためとなるのです」


「ちなみに、その先進国ってどこにあるのかしら?」

「私たちの国より遥か彼方。私たちが目指すべき国々です」


 私は、今日の報告書を思い出す。

 人件費や税率が安い国から食料品が入ってきて、農家が価格競争にさらされているという部分だ。

 もし今増税したら、税率の差がさらに開き、農家は窮地に追い込まれる気がする。


「増税したら、この国で働く生産者たちはどうなるかしら?」

「一般に、増税すると競争が激しくなります。

 弱い産業は衰退していくことになるでしょうな。

 でも、問題ありません。

 人件費も税率も低い近隣諸国から安く輸入すればいいのです。

 国民だって、安く買えて喜びます」


 ……。

「では、もし、何らかの都合で…、例えば不作だったり、輸送が上手くいかなかったりで、輸入が出来なくなったら?」

「その場合は国産を買えばいいのです」

「でも、その頃には弱い産業は衰退しているのでしょう?」

「国民が安い輸入品に頼ったつけですな。自業自得です。我らには関係ありません」


 増税によって、国の産業が偏って……、安く輸入できてHappy……?

 輸入できなくて困ったら国民のせい?

 そんなんでいいんだっけ?その理屈、どこかおかしくない?

 ゲコゲコ聞こえる。また、カエルに見えてきた。

 気持ち悪くなってきた。この場は一旦なんとかしたい……。


「今、この世界で最も成長している国はどこですか?」

「基軸通貨国となっている国ですな。世界一の経済大国です」

「その国の税制はどうなっているのかしら?」

「一般税は無く、逆に関税をかけているというお話です。

 自由な貿易を阻害していると、他国からの評判は悪いようですな」

「でも、一番成長しているのよね。一度、調査して見て。

 私たちの参考にするべき政策が見つかるかもしれない」

「えっ、しかし……」

「お願いします」

 大臣は不貞腐れながらわかりました、と部屋から出ていった。


 嫌なカエル……大臣が立ち去り一人になって冷静さが少し戻ってくる。

 一息ついて、この国の状況を思い返す。


 この国の教育は始まったばかり。

 教育水準の向上は、きっとさらに新しい産業を生み出す。

 そして、新たな産業の定着のためには、より多くのお金の流通が必要になるはずだ。


 それに、労働者だって増えている。

 女性の労働参加は、きっとより高い生活水準を目指しての事だろう。

 お年寄りの労働参加は、医療が進んで寿命が延び、生活に必要なお金が増えたという事だろう。

 国民は生活水準の向上を求めている。そして、お金を欲しがっている。


 適切にお金の流通量を増やしたつもりだったけれど、まだまだ不足していたようだ。

 この国は思っていたより成長しているのかもしれない。

 お金の流通量の考慮には、生産力だけでなく、教育水準や医療水準についても考える必要がある気がしてきた。

 この国にはお金をもっと流通させるべきだ。


 そもそも、この国の生産者は、近隣諸国と競い合っている。

 遠い国の税率は全く関係がない。

 生産者を守るには、その生産物の競争相手国との税率差を考慮する必要がある。


 国にとって、産業を拡大することは比較的容易。国は人も技術も用意できるのだから。

 けれど、産業を新しく起こすのは難しい。偶然がからむ。

 だからきっと、国は、国家としては多くの産業が分散している方がいい。

 公平、公正だからと一律に負荷をかける一般税は、弱い産業をつぶしかねない。

 とてもナンセンスだ。


 税率も官民比に合わせているし、どう考えても増税なんて論外だ。

 大臣め。今度会ったら、ゆでガエルにしてやる。


 私はすっかり落ち着いてログオフした。



 国は気づかないうちに自然と成長する。

 思っていたよりも生産力が拡大する可能性がある。

 ゲームの中の世界の話ではあるけれど、その事実が現実世界の私を不安にさせた。


 基軸通貨国である経済大国が貿易赤字縮小のため世界各国に関税をかけている。

 国内の産業を守るために、関税が最も合理的な手段であることは間違いない。

 けれど……、世界の生産力も思ったより拡大している可能性がある。


 最近、世界各地で移民が騒がれるようになった。

 移民の受け入れは、賃金の低下や治安の悪化を招く可能性があると問題になっている。

 移民は、その国で安いとされている賃金でも働いてくれる。

 おそらく祖国ではさらに仕事が無いのだろう。

 税率も低く人件費が安い国であっても、仕事にありつけない。

 ……。世界中から、お金が不足しているのではないか。


 これは、移民を追い返せばいいという問題ではない。

 自国だけで完結できる問題ではない。

 世界をまきこんで取り組まなくてはいけない問題なのかもしれない。


 今まで基軸通貨国は、貿易赤字を抱えることによって、お金を配っていた。

 基軸通貨となるためには、世界の成長に合わせてお金を流通させる責務がある。

 その責務を自然と担っていた。

 しかし現在、関税により貿易赤字を解消しようとしている。


 ただ、関税自体が悪いわけではない。

 自国産業の保護は、国の自立、および強い国になるために必要な事だ。

 それを目指して関税政策をとったはずだ。

 けれど、その影響として、世界中からお金が不足しつつある。


 これは、おそらく、本来なら国連の役割だ。

 持続可能な成長を目指しているのだから。

 ただ、今は国連を中心に、世界各国に財政規律を求めている。

 経済活動を抑えようとしているように見える。

 経済成長を止めようとしているように思える。


 一度、国連の人たちがどんな事を考えているのか聞いてみたい。

 お金の量を絞ることによって、世界の人口を抑え、持続可能な世界を達成しようとしているのではないか。

 発展途上国を発展させずに、このまま安い農産物だけ作ってもらおうとしているのではないか。

 そんな邪まな考えが脳裏をよぎる。


 全ての国が思うように成長し、環境問題などの地球規模の問題は技術で補う。

 場合によっては、火星への移住を考える。

 そんな未来を目指しているとばかり思っていたけれど、違うみたいだ。


 お金の不足は、古今東西、戦争を招く。

 安い労働力は軍事力として転用されることが多い。

 不作でもなく不況でもなく、生産力の急拡大が引き金の世界大戦。

 そんな未来は嫌だ。きっと未来の人たちに笑われる。

 皆、自分のため国のため世界のために働いているのに、この結果ではとても悲しい。


 気が付いてお金の流通量が増やすのが先か。

 資本主義に代わる新しい価値観が生まれるのが先か。

 それとも、戦争によって生産力が失われるのが先か。

 少し不安になってくる。



 私はただ……。


 私は高校教師。

 教室の生徒を見ているとふと考える事がある。


 彼らは、お金なんかなくても実にうまく学校という社会を回している。

「教科書忘れた……。しょぼん」

「隣のクラスに借りるといいよ。貸してくれそうなやつ紹介してやるよ」


「あーーー。お弁当忘れた……」

「しかたねーな。少しわけてやるよ」


「あっ。シャー芯切れた。少し分けてくれない?」


「寝てた……。後でノート見せて。代わりに何か一つ言う事聞くから。ねっ。お願い」


 お金なんかなくても社会は十分まわっていた。


 学校だけじゃない。国でも同じようなことが起こるかもしれない。

「労働、なにそれ?おなか減ったら、近くの木の実食べるといいよ」

「欲しいものがある?なら、あいつに頼むといい。あいつの家は裕福なんだ」

 無理に資本主義に巻き込む必要はない。

 こんな国があってもいい。


 私はただ……。

 そんな多種多様な国が存在する世界の片隅で、

 長い伝統と文化を持つ国が、

 規律正しく礼儀正しくちょこんと見守っている。

 そんな国があってもいい。

 私はただ、そう思うのだ。


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