episode02
今日は二日目。
大きな城の一室で私は、配下より届けられた報告書を確認している。
前回の自分の行動の成果が示される少しドキドキする瞬間だ。
報告書の上部には、集計が記載されている。
それを見て、私は少し口角があがった。
大きな事故や作物の不良などもなく、順調に発展したみたい。
続けて詳細にも目を通す。
まずは、冒険者からだ。
彼らの活動が目に浮かぶ。
「この前は町の南側の海を探検したから……、息、そんな理由で今回は北側に来たけど……。息。
森ばっかりで何もないじゃないか……、息」
「お前、息が切れてばかりじゃないか。だらしないな。日頃の鍛錬が足りないんじゃないか?」
「そうは言っても、もうずいぶん歩き続けてきたぜ……息」
「まあ冒険家なんていつもそんなもんさ。
ただ、いつ何かに襲われるかわからないからな。
いつでも戦えるように、気は抜くなよ」
「ああ、息。それは多分大丈夫だ。それより少し水を。飲」
「笑。そろそろ森から抜けられそうだ。ほら、向こうを見てみろよ」
「おい。もう少しだとか言うから、来てみたのに……。
森を抜けられたのはいいけれど、岩だらけで何もないじゃないか。息」
「こんなに急に森が途切れることもあるんだな。
それに……、少し肌寒いな。かなり高いところまで来たみたいだ」
「ここは風が強い。少し休みたかったが、さっさと戻ろうぜ。森の中の方がまだましだ」
「……。いや、待て。ほら、あれを見ろ」
「あ?なんだ?普通じゃないか?何かあるか?」
「あの場所だけ植物が生えてる。他はただの岩場にもかかわらずだ。不思議だと思わないか?」
「あ?これぐらいの事よくあるんじゃないか?」
「そうか。わかったぞ。崖の上を見ろ」
「ん?あれは、なんだ?鳥の巣か。随分大きい巣だな。もしかしてビッグバードか?」
「ああ。多分そうだ。ちょっと行ってみよう」
「おい。こら少し寒いから戻ろうぜって話したよな。
少しは俺の話を聞けよ。
お前はいつもこうだ。勝手に決めるんだ」
「ほら、これ食べてみろよ。おいしそうだぜ」
「食。甘酸っぱいベリーだ。こんなところにも生えているもんだな。食」
「視。おい。襲われても大丈夫だって言っていたよな」
「おう。大丈夫だ。甘いベリーも食べたし随分回復した」
「なら大丈夫だな。ほら、モンスターのお出ましだ」
「おっと。噂のビッグバードじゃないか。今日は久しぶりのごちそうだな」
「ああ、焼き鳥にしてやろうぜ。
このでかいだけの鳥め。
俺らをそこら辺の草食動物と一緒にするなよ。さあいくぞ」
「食。やっぱりビッグバードの肉はサイコーだな」
「ああ」
「おい、なんだ。いつもの考え事か?」
「ああ。少し考えていた。聞いてくれるか?」
「食。ああ、食べながらでよければ聞いてやるぜ」
「……。草食動物にとってベリーは貴重な餌のはずだ。普通ならすぐに食べられるだろう」
「食。ああ、そういえばそうだな。
普通はすぐに食われちまうからな。ベリーの実なんてまれだ。
めずらしい事もあるもんだ」
「……。でだ。
もしかしたら、あのビッグバードは自分らの糞で、ベリーを育てていたのかもな」
「ああ??」
「それで、草食動物がベリーにつられて近づいてきたところを、さっと狩るんだ」
「はっはっはっ。ってことは、つまり……。
崖の岩場にある狭い土を探して、ベリーの種を植えて、その上に巣を作る。
あとは自然とベリーができて、動物が近づいてくるのを待つってことか?」
「頷」
「……。いや。ビッグバードってやつがそこまで賢いとは思えねぇが……。
ん?そんなことがありえるのか?疑」
「笑。それでだ。一応、あの土を持って帰ろうと思うんだ」
「あっ?土を持ち歩こうってのか?土なんかどこにでもあるぜ。
頭どうかしたんじゃないか?呆」
「いいか。植物の生えない高山地帯で、あんなに植物が生えていたんだ。
もしかしたら……、ビッグバードの糞は肥料になるのかもしれない。
東村に物好きな爺さんがいただろう。
また、面白がって酒と交換してくれるかもしれないぜ」
「なるほど……。わかった。いいだろう。
どうせ土は俺が持てって言うんだろう。俺の方がでかいからな。
……。まあ、酒が飲めるっていうのならいいだろう。
もし酒が出なかったら…、お前が酒代だせよ。睨」
「ああ、まかせとけ。俺はあいつに信じられてる」
「冒険者は北の山を探索し肥料を見つけた」
たった一文からこんな事考えるのなんて、私ぐらいでしょうね。
ふふっ。楽しくなってきた。
それに、農家もしっかり活動してた。
目を閉じ再び想像を膨らませていく。
「おい。邪魔するぜ」
「おう、お前か。何の用だ」
「用がないと来ちゃいけないってか。つれないな。
それより……。なんだその手に持っているやつ。
見慣れない物だな。鉄ってやつか?」
「おう。おそらくな……」
「ずいぶんな量あるじゃないか。珍しいのに、どうしたんだ」
「この前、お前が持ってきた石だ。あれを燃やしてみたんだ」
「あ。ああ。(あの少し珍しい色した石のことか)」
「お前の言う通りだった。この前は嘘つき呼ばわりしてすまなかった。
お前の事を疑ってしまった。金属にするにはさらなる高温が必要だったんだな。
さらに炉を改善してみたんだ。ようやく溶かす事が出来たよ」
「あっ。ああ、もちろんだ。言った通りだったろ」
「ああ。しかも、これ、試してみたんだが、石よりかなり固い……。
もしかしたら、道具として使えるかもしれない……」
「ああ、それいいな。この石斧、もうぼろぼろだ。新しくしたいと思ってたんだ」
「いいや。まずは、俺の農具からだ。木の鍬はもう使いたくねぇ。
まずはこれの改善に使わせてもらう」
「ああ、それでいい。
よし、また珍しい石見つけたら持ってきてやるよ」
「おう。頼むぜ。」
「おっと、忘れるところだった。
それより、最高の土を見つけたんだ。よかったら分けてやるよ」
「ほう。今度は土か」
「ああ、今度は本物だ」
「今度は本物??この前の石は嘘だったって事か?」
「あっ。いやいや言葉のあやってやつだ。気にしないでくれ。
で、今度の土はな。植物がよく育つんだ。
山の上の仙人にな。どうしてもと言って、分けてもらったんだ。
作物が派手に育つらしいぞ。……。……。……。」
「へっ。へっ。へっ。ほら、言った通りだったろ。今度の酒もうまそうだ」
「笑。それにしてもお前、よくあれだけうそぶけるな」
「はっはっはっ。あれぐらい任せとけ。どうせ調べる事なんてできるわけがねぇ。
それっぽい、正しそうな事を言っておけば、やつらは信じるしかねぇんだ」
「笑。ちげえねぇ」
「でも、驚いたな」
「おう。まさか、本当にあの石が鉄になるとはな……」
「……。いや、そこじゃねぇ。
お前、石が溶けるのを見たことあるか??」
「いいや。火を起こすときの風よけに使うが、溶けたことなんて一度も見た事ねぇな」
「だよな。俺も初めて聞いたぜ。石って溶けるんだな……。
どうせ何も起きないと思って、適当に嘘ついたんだが、まさか本当になるとはな。
あの親父……。ただの物好きじゃなかったな。
遠目で見ただけでよくわからなかったけれど、多分あれが炉だ。
あれで石をとかしたんだ」
「おい。難しい話でけむに巻くつもりか。それより早く酒をよこせ。
さっきもらってただろう」
「おい、もう目が酒になってるじゃないか。笑。
よし、俺も久しぶりにこの酒を飲みたかったんだ。
始めようとするか。
今回も生きて帰ってこれた。さあ、祝杯だ」
農家が鉄の精錬技術を見つけたみたい。
東町を中心に噂が広まってるって報告だ。
女王である私が何もしなくても、国民は自然と成長していく。
すばらしい。
私は報告書を読み終わって、少し笑顔になった。
国王 1
兵士 2
農家 4→3
鍛冶屋 0→1
冒険者 3
国は順調に発展している。
けれど……、私は女王。
さらなる発展を促す必要がある。
私にも出来ることをやろう。
まずは冒険者。
この国は広い。まだ探索していない未知の地域がたくさんある。
でも、どの報告書を見ても冒険者が探索したのは近場ばかり。
冒険者はいつでも死のリスクがある職業。
できるだけ楽に安定して稼いでいたい、だから近場で稼ごうとするのは仕方がない。
でも、だからと言って、未開拓地を放置はできない。
せっかくある私の国の領土。広く使いたい。
まだ見ぬお宝が見つかるかもしれない。
私は遠い地域の探索に報奨金を出すことにした。
もともとは冒険が好きで始めている冒険者のことだ。
きっと報酬につられて探索してくれるだろう。
それに、道も整備しよう。
行き来は便利な方がいいに決まっている。
道路の整備はいつかは実施しようと思っていた。
ここは私の国なんだ。どんどん改善しよう。
それともう一つ。
農家が一人、鍛冶屋になっていた。
せっかくだから新しい武器防具の依頼をしておこう。
放っておくといつの間にか戻ってしまうかもしれない。
そのためにもある程度買う必要がありそうだ。
冒険者に鉱石を集めてもらう依頼もだしておかなきゃ。
報奨金に道路の整備、鉱石の買い取りに製錬の代金。
お金がかさむ。国民からの税だけでは足りない。
私は国の予備として蓄えていたお金を使うことにした。
お金を使いすぎです、なんて諫言する大臣もいるけれど、きっと大丈夫だろう。
そもそも、冒険者のやつらの事だから……。
「おい、お前もついてこい。今日も飲むぞ」
「ちょちょちょっと待て。最近飲みすぎだぞ。
それにお金は大切に使えと……」
「おいおいおいおいおいおいおい。俺たちは冒険者だぜ。
いつ死ぬかわからない。
だから俺は、冒険に向かう前にお金を使っておくことにしてるんだ。
せっかく手に入ったあぶく銭だ。
どうせ金なんて、ここでしか使えない。
冒険にはこれっぽっちも役に立たない!
景気良くいこーぜ!ガハハハッ」
「でも、お前、鉄の斧が欲しいって言ってたじゃないか。
だめだ、こいつ。酒を前にして、もう聞く耳持ってない……」
結局二人して笑顔で飲み歩く姿が目に浮かぶ。
すぐに酒場はにぎやかになる。
店だってもっとお酒を置いておこうと頑張る。
もっとおいしい酒を造ろうと頑張る。
冒険者は戦うことが本業。
武器、防具だってもっと売れるはず。
ますます鍛冶が発展し、強力な武器防具が作られるようになるかもしれない。
きっとうまくいく。
生産力もすぐに上がる。
税収だって増える。
うん。問題ないはずだ。
ここでふと気づく。
国は自然と生産性が上昇して、勝手に豊かになると思ってた。
でも、違うみたい。
もし、私が今回のようにお金を使わなかったら……。
冒険者は近場ばかりの探索で、今まで通り。
酒場だってお酒をたくさん用意しようしないだろう。
鍛冶屋だってもしかしたら、身近な人の農具だけを改善して元の農家に戻ってしまうかもしれない。
最悪の場合、技術を他国に奪われることだってあるかもしれない。
お金の量を増やすから、投資をするから、生産力は向上するということだ。
お金の量に応じて生産性は向上するんだ。
生産性が向上したタイミングで投資をしないと、結局誰にも買われずに無駄になってしまう。
もちろん、お金の量を増やしすぎると、生産力を超えてお金の量が増えすぎると、物の値段がただつりあがってしまうだろう。
これではお金を発行する意味が無い。
でも……。
生産力の範囲内でなら、生産力の向上の範囲内でなら、お金の量を増やすべきだ。
適度にお金の量を増やさないことは、生産力の低下につながってしまう。
労働者の労働意欲を奪うことにつながってしまう。
そういえば最近、ニュースで近海からレアメタルが採れそうだという報道があった。
もともとレアメタルは隣国が安い労働力を使って安く海外に向けて売っている。
人件費の高い国がどんなに採掘しても値段で勝負になるわけがなかった。
それに対して、どこかの動画で「そもそも使う量は微量なので問題ない」という発言を聞いた記憶がある。
でも……、この意見は残念ながら見当違いだと思う。
レアメタルの採掘は、生産性の向上を意味しているはずだ。
そのレアメタルが広く国内に普及するなら、その分、通貨を発行する必要がある。
通貨の発行無く、レアメタルが国内に普及するという事は、その分、他のサービスが失われてしまうことにつながってしまう。
レアメタルを発掘したことが、生産力が上がったことが、国民の貧困につながってしまってはダメだ。
そもそも税金で研究され採掘したレアメタル。
その分の利益は国民に還元されるべきだ。
国民に高く売りつけてはダメだ。
国の運営って不思議。
自分で宝石を見つけたら、身に着けたり誰かに売ってHappyになれる。
でも国の場合は、高く国民に売りつけたらダメみたい。
きっと……、国が生産したものを国民に分配するイメージが大切ってことね。




