「むりえ」塗り絵
「えっと……む~り~な感じの絵?」
とりあえず、胸の前で両腕による×マークを作ってみる。でも、来栖はあっさり首を振り、無理な絵というのは却下されてしまった。
「どんな絵だよ」
「とりあえず、怖い絵は苦手だな」
ホラー映画やホラーゲームも苦手だが、絵だけで怖さを表現されてしまうのはもっともっと苦手だ。
幽霊やゾンビが描かれていたり、おどろおどろしい光景というのももちろん嫌。でも、だまし絵なんかで、鏡の前に座る女性の絵が、遠目からは骸骨が描かれているのに気づくとかいうのもダメだ。
穏やかな家族団らん風景のはずなのに、ひそかに死の象徴やナイフが描かれていたりというのも、気づけば背筋がぞっとする。
そういうのは、むーりーと言っても差し支えないのではないだろうか。
「だから、幼児に意訳を求めるなって……」
わかってはいるのだけれど、”むり”という意味の通る言葉があれば、どうしても意訳したくなるのが人情というものだろう。
「むりむりむい……むむっ……むぎ、むし、むち、むに、むひ、むみ……」
ヒント探しにあたりをきょろきょろしてみるが、ここは文具コーナーなので、あるのは鉛筆やクレヨンといったもの。振り返ればノートが並べられているので、そろそろページがなくなる英語のノートを買い足しておいてもいいかもしれない。
思わず英語のノートの品定めを初めていると、来栖は端っこのアニメキャラなんかがにぎやかに描かれているコーナーへと向かう。
「そういやぁ、舞ちゃん新しいむりえが欲しいって言ってたなぁ……」
ぽそと呟き、プリンセスの絵柄のものをぱらぱらとめくりだした。その表には、ぬりえと大きく書かれていた。
どうやら私は、勘違いをしていたようだ。なんでだか、”む”は正しいのだと思っていた。考えてみれば、一文字目が合っている可能性なんて皆無だったんだ。
「なるほど、むりえか」
「お前に任せると、なんだかむりえの謎はいつまでも解決しなさそうだよな」
呆れたような表情が向けられたが、思わずその大げさな言葉に、待ったをかけてしまう。
「ちょっ、これはただのクイズじゃなく、解き明かさなきゃならない謎だったの?」
「ふっふっふ、甘いなワトスンくん、この謎が解けなければ、舞ちゃんマスターにはなれないんだよ」
「いや、なりたくないわ、そんなもん」
「なぬっ! なれば舞ちゃんから大好きって言ってもらえるのにっ」
「ならんでも言ってもらえてるって」
「あ、ちょっとそれ、悔しい」
本気で悔しそうにしながら、来栖は手に持っているぬりえを持って、そそくさとレジへと向かった。どうやら、大好きと言われるための、貢物を購入するつもりらしい。




