「にゅうりょくざい」入浴剤
「うん、何を入れるの? 入力だから、文字入力とかそんな感じ?」
「いや、幼児に意訳を求めるなよ」
「あぁ……意味じゃなく音から感じろということね」
言われてみればそりゃそうだ。聞き間違い言い間違いで覚えた言葉なのだから、意味じゃなく耳を頼りにしなくちゃ意味が分からない。
にゅうりょくにゅうりょくと口の中で繰り返していると、来栖がオモチャの入ったバブルボムに手を伸ばした。
カプセル型に固められた入浴剤の中に、親指大の小さなオモチャが閉じ込められているあれだ。
中に入っているオモチャは、某菓子パンヒーローのものや、最近の戦隊ヒーローものや、猫や恐竜や昆虫といったものまである。舞ちゃんへのお土産にでもしようというのだろう、結構真剣に選んでいるようで、両手に三つのバブルボムを握っている。
「舞ちゃんなら、そっちのプリンセスもののがいいんじゃないの?」
「いや、最近は恐竜が好きなんだ……」
「プリンセスから恐竜に興味が移行するとは、さすが幼児、侮れない」
一応メインは入浴剤なのに、匂いや効能よりも、中身のオモチャが大切というあたり、本末転倒な気もしてくる。
でも、まぁ、オマケつきのお菓子と似たようなもので、サブがメインをくっちゃうのは当然なのだろう。
にしても、オレンジの香りの入浴剤に、ピーチにブドウ……ん? 入浴剤? にゅうよ……りょ……。
「入浴剤か!」
いまさらながら、めいっぱいヒントが出されていたことに気が付いて、思わず声をあげてしまう。自分の声が大きかったことに気が付いて、あたりを見回すが、こちらに注目している人がいないことにホッとして来栖の方に向き戻り、ニヤニヤ笑うヤツがいた。
「そ、入浴剤、でも、いっつもにゅうりょくざいになっちゃうんだ」
「んで? 舞ちゃんへのにゅうりょくざいは、恐竜にするの? 昆虫にするの?」
「いや、ここは、あえてプリンセスものに立ち返ることにした。やっぱりかわいいものが正義だ」
ぎゅっとプリンセスもののバブルボムを握りしめた来栖を追いかけて、私も猫ちゃんのバブルボムを握る。
「んじゃ、私からは猫ちゃんにしとこーっと」
「えーっ、ライからもらったら、たとえ大っ嫌いなものだって、宝物になっちゃうだろ、私のお土産がかすんじゃう」
文句を言う来栖には悪いが、おそらくこの後は来栖の家でぐだぐだするのだから、お土産の一つも欲しいところ。いっそリボンもかけてもらうかと思ったが、来栖と一緒に小さな紙袋に入れてもらうだけにしておいた。




