「てべり」テレビ
ちょうど家電コーナーのテレビ展示されている前に来たからだろう、言われてすぐにわかるような、舞ちゃんの幼児用語が出てきた。
「テレビのことでしょう? それ以外の何があるのよ」
テレビがテベリとなってしまうのは、幼児ではよくある間違いだろう。
特に、テベリっ子……いやちがう、テレビっ子の多い昨今、テレビという単語はよく耳にするものだろうし、積極的に口に出すものでもあるのだろう。
テレビがどう聞き間違えればテベリになるのか、そこはわからないながら、それが何かはすぐに察することができる。
「うん、テレビ。でも、いっくら訂正しても、テベリになっちゃうんだ」
「それはすぐにわかるから、間違えたところで問題ないじゃん」
「問題があるないの話じゃないんだよ、舞ちゃんが可愛いって話なんだよ」
わかっていたが、この姪っ子バカは、ただただ、舞ちゃんかわいさを語りたかっただけらしい。
「テベリ見せて? テベリつけて? 今日テベリね、舞ちゃんが口にするたびに、テベリってなに? テレビのことかなぁ~? って聞いてるんだけど、そうすると、怒ったように言いなおすんだ」
来栖は、舞ちゃんを模してだろうか、頬に拳を当てたりと、ちょっとぶりっ子ポーズをつけながらに言い、最後には腰に手を当てて見せた。
「そうか、間違えて恥ずかしいってのがわかってきたんだねぇ」
来栖を通し、舞ちゃんが恥ずかしそうに、照れ隠しで怒って見せる姿を思い浮かべ、ちょっとほっこりとしてしまう。
「うん……言いなおすんだよ、テベリでしょってさ」
「おい」
だが、続いた言葉に、思わずツッコミせずにはいられなかった。
「舞ちゃんがテベリって言うたびに、私がテレビって言いなおして、そのたびに言うんだ……テベリでしょって」
どうやら舞ちゃんの中では、しつっこく間違えているのは、テレビと正しく発言している来栖の方らしい。
舞ちゃんの幼児言葉が治されていると思いきや、来栖が正されていたとは恐れ入った。
「お前、信頼ないなぁ」
「そういう問題?」
「訂正が受け入れられないってのはそういうことだろ?」
舞ちゃんも、信用できる人からの訂正ならともかく、相手が来栖だから、違うよって返答になるのだろう。
「信頼かぁ……うーん、姉さんも母さんも、言い間違いがかわいいし、そのうち直るからほっとけって感じだしなぁ」
そういえば、来栖の姉もおばさまも、かなりおおらかなお人だった。言い間違いの一つや二つ、放置の方向らしい。
「じゃ、もう、来栖ん家は、テレビがテベリってことでいいじゃん」
「え? むしろ、うちの言語改革が必要になっちゃう話?」