「かけとん」掛け布団
「とん……こう、寝るときに優しくトントン叩いてあげたりするやつ?」
「あ~、あれ、舞ちゃんはあまり好きじゃないんだよね。普通ああいうの、好きだと思ったのにさぁ、叩こうとすると手を捕まれちゃう。半分朦朧とするぐらい眠い状態じゃないと、トントンさせてくれないの」
フリフリと首を振りつつ、目の前で手も振り立てる。それほど違うと表現するのは、私の発言の間違いではなく、子供はトントン好きだという固定概念への否定らしい。
「あれ? 私がやるとおとなしく寝るよ?」
「なぬっ!」
「この間、日曜日に遊びに行ったとき、私の隣で昼寝を始めたから、トントンしゃってたらえへへぇって笑ってたよ」
「ずるいっ!」
いや、ずるいずるくないのはなしではないと思うのだけれども、悔しそうな来栖の表情に、少しだけ溜飲を下げて置く。いや、べつに、下げるべきものもないのだけれど……。
「トントンじゃないのなら……なんだ? ぶっかけ? いや、かけ……トン汁? ってか、ぶっかけ豚骨スープとかそんな感じ?」
「うっわぁ、また離れまくったぁ。なんでお前は、トンときたら豚へいくんだ。舞ちゃんはちゃんと豚はブタって言うぞ」
「えー、トンじゃないの? じゃぁ……かけとん、かけとん……」
「……ぶ……ぶ」
「ん? か、かけとん、かけ……」
「ぶ」
「とん、かけとん」
「ぶ」
「うん、タイミングがずれまくってたけど、かけぶとんと言いたいのか」
”ぶ”という合いの手に苦笑を浮かべ、なるほどと納得する。なんで違うの一言じゃなく、トントンの話題にのってきたのかといえば、関連しなくもないからか。
「なんでその一文字を無精するのよ、舞ちゃん」
「でも、かわいくないか? かけとんかけてーって言うんだぜ?」
「お前が言うとかわいくないなぁ」
舞ちゃんのねんねというと、掛け布団をおねだりする姿より、お腹を丸出しにして寝ている姿の方が思い起こされてならない。
「まぁ、お腹丸出しより、ちゃんとかけとんかけて寝た方がいいわなぁ」
「かけてもすぐ蹴飛ばすけどな」
小さい子はしょうがないのかもしれないが、体温が高いせいか、すぐに熱くなって布団を蹴とばす。大の字になって、丸出しになったお腹をぽりぽり掻き、よだれを垂らすその寝姿には苦笑しか浮かばない。
天使の音がおというには、あまりにも寝汚い姿だ。
でもまぁ、そんな姿さえかわいらしく感じてしまうのだから、しょうがないのだろう。




