閑話休題:「いやして」癒し
「この間、へとへとになって家に帰って、舞ちゃんに癒してって言ったんだよ……そしたら力いっぱいイヤーって言われちゃった」
なんでだか知らないが、来栖はやけにニヤニヤしている。
舞ちゃんの、イヤッていう言い方が可愛かったとか、言ってた時の仕草や表情がかわいかったとか……そんなことを思い出してのニヤニヤだろうが、はっきり言って少々気持ちが悪い。むふふっとか含み笑いまで潜ませてきては、そろそろぶん殴った方がいいような気もしてくる。
「拒否されてニヤニヤしてんなよ」
「いやもう、言葉通り過ぎで、思わず癒されちゃったんだよ」
「なんだぁ?」
来栖が語っているのは普通の日本語、標準語のはずなのに、何を言っているのかはわからない。こいつはたまに、言葉遊びのようなことをするから面倒くさい。
とりあえず、癒して欲しいという要求に、否定されたのに言葉通り過ぎて癒されるとは、まぁ、当初の目的は達しているのだからよかったねと言うべきなのだろうか。
「イヤして、イヤーッだよ?」
「ん~? ……あぁ、なるほど、舞ちゃんは言葉通り受け取って、お前のリクエストに応えただけなのか」
意味を拾わず音だけ聞けば、癒しても嫌しても同じか。癒すという言葉の意味を知らなければ、嫌ってしてって言葉と読み取ってもしょうがないのか。
「癒しなんて言葉、教えてなかったからね。どうすればいいかなんてわかんなかったんだろうね」
「なんっつうぅか……こう、困惑しながらイヤッて言ってる舞ちゃんの姿がしのばれるよ」
「いやこっちだって、気付くまでショックだったよ、大好きとかお疲れさまとか言ってもらおうと思ったら、イヤーっだもん」
そもそもまだ小さな子相手に、気遣ってもらおうというのが間違いな気がする。
「いやでもねぇ、頭なでなでしてって言えば、ちゃんとやってくれるんだよ。大好きぎゅーっも、してもるあとめちゃくちゃ癒されるし」
あのちいちゃなお手々で頭を撫でてもらうのは、たしかに嬉しいかもしれない。
「お前は一生、嫌されとけ」
「ちょっと待った、それはどっちのイヤ? 癒? 嫌? 癒しの方であれ」
「あほ」




