「おしゃぶり」おしぼり
「えっ、舞ちゃん、いくらなんでもおしゃぶりしゃぶらないでしょっ」
「いや、もともと舞ちゃんはおしゃぶりがキライなんだ」
私の問いかけに、来栖は首を振った。でもそれは、私の言葉への否定ではなく、おしゃぶりへの否定だったらしい。
そもそもおしゃぶりがキライなんだったら、なんだっておしゃぶりがそこに出てくるのか。というか、そもそも言い間違いの話だったのに、まんまなのはなんでなんだか。
「ぷってするんだよ、ぷって……てっきりおしゃぶりって、赤ちゃん全般が喜ぶものだとおもってたから、びっくりだったよ。咥えさせた途端にぷって吐き出すんだから。一回たりとも、ちゃんとしゃぶってくれたことなんてないから、残念ながら捨てちゃった。鍛錬が足りなかったね」
「あれも、鍛錬が必要なものなの?」
「どうなんだろうねぇ……私、おしゃぶりをつかったのなんて十年以上前だから、わからないよ」
そりゃそうだ、高校生が十年以内におしゃぶりしゃぶってたら、特殊な趣味を疑ってしまうところだ。まぁ、私を巻き込んだりしなければ、来栖にどんな妖しい趣味があろうとも、気にしやしないが……。
「ってか、どこが間違いなんだよ、おしゃぶりはおしゃぶりだろ?」
「そもそもが間違いなんだ……舞ちゃんがね、先日言ったんだ。明日は遠足だから、お弁当とおしゃぶりを持ってかなきゃって……」
どうやら、おしゃぶりはピクニックに欠かせないものらしい。まさか外で本当におしゃぶりを楽しむという趣向ではないだろうから……。
「ってことは、ビニールシートとか水筒とか、そんなとこか」
「うん、惜しい。でも、水筒もシートもちゃんと言えてる」
言えてるのなら、間違える可能性なんてなかろう。でも、それ以外で遠足の持ち物と言ったら何だろうか?
「え~? 帽子? 着替え? タオル?」
「濡らして」
「おしぼり!」
「ビンゴ」
どうやら、おしぼりが正解だったらしい。おしぼりとおしゃぶり、はたして似ているだろうか? 口の中で繰り返してみるがお、ちょっと似ているような似てないような……。
「っつぅわけで、おしゃぶりをおしぼり入れの口にいれておいたら、びっくりするんじゃなかろかと思うのだが……いたずらのためにわざわざ買うとなると、ちょっと高いよね」
「いじめになるからやめなさい」
「え~、愛なのに」
その来栖の愛は、確実に理解されることなどないのだろう。




