「りす」椅子
「へ?」
普通の言葉が飛び出てきたので、思わず聞き返すと、再び同じ言葉が繰り返される。どうやら、聞き間違いではなかったらしい。
「だから、りすだよりす」
「りすって……リスは栗鼠だろ?」
「ちがうんだなぁこれが」
何が違うのやら、まったくもってわからない。
リスという小動物がいるのだから、そのままリスでいいではないか。どこがどう言い間違いなのか、理解できずに首をかしげる。
「イスの出てくる絵本があってさぁ~、そこでウサギさんがどうぞってリスさんにリスを譲って、いることに気が付いて……」
「マテ、その前に、その絵本を読んでいるのは誰だ」
「舞ちゃんだよ」
舞ちゃんが絵本を読んでいるということに、思わず目を丸めてしまう。まだ三歳児である舞ちゃんは、そこまで流暢に文字が読めるとは恐れ入った。そういえば、この間遊びに行ったとき、「らい」って書いたお手紙をもらってびっくりした。びっくりしたせいで、私の本名はライじゃないってことを言い忘れたぐらいにびっくりした。
そういえば、上の子がいる子は文字が早いとは言うが、来栖ぐらい離れていても、上の子がいるのは立派な強みになるらしい。
「いや、あのさぁ、文字読んでるんじゃないよ? 文字が読めてるのなら、リスって読み間違いしないと思う」
「あ、そっか……ってことは、もしかして丸暗記?」
「うん、私が何度も何度も繰り返し繰り返しくーりーかーえーっし読んだからねぇ」
どうやら、来栖のこの言い方では、かなり大変だったらしい。舞ちゃん関連の話題を、がっくり顔で語る来栖はある意味レアだ。舞ちゃんになら、たとえ殺されたとしてもニコニコ笑っているものだと思っていたが……。
「大変だったねぇ」
「さすがに一日で十回以上読まされた時は、勘弁してくれって言っちゃったよ」
「なんで、ちっちゃい子って、同じのを繰り返し繰り返しで飽きないんだろうね……」
「本当に不思議だよ、そして、同じ本を繰り返すのは苦痛だって初めて知ったよ」
「お疲れさん」
「でも、得意気に読む舞ちゃんの姿を見て、疲れは結構ぶっ飛んだけどね……」
さっきうんざり顔をしていたと思った来栖だが、彼女の舞ちゃんラブは病気レベルらしい。もうとろけるような顔をして語りだす。
まぁ、それはともかくとして、せめて言い間違いだとわかるレベルの間違い方をしてほしいものだと、思わず小さくため息をついた。




