「くーせん」風船
「風船?」
”ふ”と”く”とで異なってはいるが、くーせんはそのまま風船のことだろうとすぐにわかった。なんとなし感じるものがあったというよりも、来栖の視線が、給水器セールスマンが配る風船にいっているからだ。
長細い風船を膨らましては、器用にもくりくりと捻って剣や花、犬やウサギを作っている。ちょうど今、小さな子が花の腕輪を付けてもらったが、ちょっとかわいらしくて、私も欲しくなっちゃうレベルだ。
もちろん、その子どもの母親らしき人は、そのセールスマンとペアの人に説明を受けて困り顔を浮かべていたりする。私なんかが行ったところで、セールスに応えることはできないし、風船だけ欲しいってわけにもいかないだろう。
「うん、舞ちゃんへのお土産にちょっとほしいな」
「こらこらこら」
来栖の腕を引いて一歩二歩離れると、来栖の視線も風船からこちらへ戻ってくる。戻っては来るが、その足がおもちゃコーナーへ向かったあたり、風船を買って自作する気なのかもしれない。
「うきゅうってほうがよかった?」
「なんだそりゃ」
「気球と混合ってのもあるんだけど、浮くし球だから……って話かなぁ? 一回こっきりだったし、やっぱり風船といったらく~せんだからこっちだけどね」
うきゅうとくーせんと……とりあえず、舞ちゃんは間違えのバリエーションも豊富なようだ。
「ん? 待てよ、なんで意訳が入るんだ……」
「あ、バレタ」
思わずツッコミ入れると、来栖はぺろりと舌を出した。
「私がさ、浮く球体だからうきゅうって言うんだよ~って教えたんだけど、定着しなくってねぇ……ホント、すぐくーせんを覚えてきちゃうんだから侮れないよ」
「姪っ子にウソ教えるなよ」
ウソを教えた来栖の言葉を信じず、舞ちゃんはどこぞで間違いを覚えてきたらしい。保育園に通っているのだから、読み聞かせやお友達との関わり合いででてきたのだろう。どうせなら、正しい言葉を覚えてきてくれるとよかったのに……。
「いやぁ、ちょっとした出来心で……」
「そんなだから、信用されないんだ」
「えっ、そこに行きつくの?」
まいったなぁとか言っているが、やっぱりこいつが舞ちゃんに信用されないのは、自業自得以外のなにものでもないらしい。そういうのが散り積もって、今のこいつと舞ちゃんの関係をつくっているのだろう。
「うきゅうって言う舞ちゃんってば、最高にかわいかったんだよ?」
「そんなことは聞いてない」




