第八話 「道化師」
子供の頃に見たサーカスが忘れられなくて、男は道化を模した格好と戦闘スタイルを採用した。
昨日任務をこなしたので今日は休むことにしていたが、休日に行くところなんてサーカスしかないので今日も今日とてアジトに顔を出す。
「ちーっす!」
「あれ、今日休みだったルーね?」
「なんかあったら困るだろ?ミーは帰属意識の高い従順なメンバーなのだよ!」
「ただ暇なだけルーね」
「うるせーなー」
とは言ってみるも、同じ組織のメンバーと話をするのは彼にとって楽しい時間だった。
「ジャミン」
名前を呼ぶ男の声がする。
ジャミンがその声の方を見てみると、暗闇に紛れて小ぶりな男が一枚の紙を差し出している。
「どうした?」
「これ、やる」
紙を見るとそこには四日後に第二層で行われるサーカスの公演情報が書かれており、さらにそのフライヤー自体が入場割引券として使えるジャミンにとっては胸が躍るプレゼントだった。
「本当か!?これくれんのか!?」
「あぁ、やる」
プレゼントの贈り主は寡黙な相手だが、ジャミンは嬉しさのあまりなんとかお礼をしたいと一つ芸を披露することにした。
本来彼の魔法は接続魔法だが、普段からサーカスを見ているジャミンにとって簡単な手品は魔法を使わずともそれなりのことができるのでそれをしてみせる。
「いいか?まずここにユーがくれたフライヤーがあるだろう?これをくしゃくしゃにしてミーのポッケに入れる」
フライヤーを無造作に丸めて自身のポケットに入れたジャミン。
「何かユーの好きな食べ物を教えてくれ」
「んと、桃」
「意外と可愛いチョイスルーね」
「桃だな。では、さっき入れたこのくしゃくしゃのフライヤーをもう一度取り出してーー」
さっきポケットに入れたフライヤーを取り出すジャミン。
一見そのフライヤーには何も変化がないが、少しずつ開いていくと中からとても綺麗で小ぶりな桃が姿を現した。
「おぉ!すごいルー!」
「ほれ!これをお返しにプレゼントだ!」
「もらう」
男に桃を手渡したジャミン。すると受け取り際に男はジャミンが持っていた手元のフライヤーに目をやった。
「それ、やばい」
「ん?」
手元のフライヤーを指差してそう言われたので、ジャミンは今一度フライヤーを確認したところ、なんと桃汁がべしょべしょについてインクが滲み始めていた。
「うわああああ!!!」
「バカだルー」
「残念」
「ミーの癒しがあああ!!!」
泣き叫んでも遅い。すでにインクは滲み切って、元のフライヤーはもう割引券としては使用できないほどだった。
「ジャミン......」
さらに奥から別の男が声をかけてきたので、涙を拭ってそちらに目をやる。
「お、いらしたんですか」
「新しい任務だ。チルがついに見つけた」
「マジすか!」
「うん、ピース」
「奴らを連れてこい」
「ミーたちの悲願ですね、行ってきますよ」
そう言ってジャミンはアジトを出た。
この任務は組織が発足してからの悲願を手にする大切な任務。
その気まぐれさ故にここから数日はほとんど任務に拘束されそうだが、このために活動している組織と言っても過言ではないので背に腹はかえられない。
ジャミンは桃汁で滲んだフライヤーをポケットにしまい込んでアジトを後にする。




