第九話 「うどん」
斎の家で修行をしている三人。今日は雅博が昼食を作る当番だったので、台所に立って調理をしている。
午前十一時三十分、昼食には比較的早い時間だが、朝がそれなりに早いので胃袋の空き具合には頃合いだ。雅博が全員に昼食の完成を宣言する。
この日、斎は外出していたので四人で食卓を囲む。
今日の昼食はうどん。テーブルの上にはうどんとめんつゆ、そして薬味やら何やらが並べられている。
「「「「いただきます!」」」」
全員で合唱して食事を始める。
「みなさん」
するとここで未巴琉が何やら物申したそうに口を開いた。
「うどんには何を入れて食べますか?」
「薬味の話?私はネギかな」
「意外とちっちシンプルなんだね。私は何も入れないよ」
「最もシンプルな人が何言ってるの」
「俺はネギと生姜と山葵かな。白砂山は何を入れるんだ?」
「えーっとですね、私から一つお願いがあります。今日のお昼、私に任せてくれませんか?」
なんだか嫌な予感がする三人。
敢えてお願いしてくるということは、普通では受け入れ難いことを提案してくる可能性が高い。
本当は断りたいがここで断ると後がもっと面倒くさそうなので、三人はアイコンタクトをとって仕方なく今日の昼食を未巴琉に任せることにした。
「別に良いけど、お前の当番は順番通りだからな?」
「それで結構です」
それにしても任せるとはどういうことだろうか?
「いえですね、みなさんのうどんの食べ方があまりにもアマチュアすぎるので僭越ながら私がご伝授差し上げようかとーー」
雅博もそうだが、千宙達の後輩はなんとも失礼な奴らばかりだ。
随分とバカにされたものだと千宙と成未は少しだけ血圧が上がるが、そこまで言うなら見せてもらおうという気持ちが芽生えたので未巴琉の言う通りにさせてみることに。
未巴琉は立ち上がって冷蔵庫を開いた。
彼女が取り出したのは納豆、トマト、そしてヨーグルトだった。
「えーまずですね、こうします」
何をするのかと思えば、納豆を混ぜもせずにうどんの上に乗せた。
「「「は!?」」」
千宙は思った。
もし納豆が苦手な人がいたらどうするつもりだったのだろうかと。
配慮が足りないのは先輩としての指導不足を感じるが、確かにさっき自分で任せると言ってしまったのでここでそれを撤回するのは少し違うかとも思う。
「そして今度はこれをこう!」
そう言って未巴琉はトマトを握りつぶして自分のつゆの中にトマト汁を入れた。
未巴琉曰く、手で握り潰すことで果肉を粗めに解せてつゆに入れることができるので必ず手で握り潰さなければいけないそうだ。
三人は心の半分でどうとでもなれと思いつつも、不安ながらに未巴琉の指示通りトマトを握り潰す。
そして最後に未巴琉はヨーグルトをつゆに入れた。
もう最悪だ。
半分ではなく、もう今日の昼食を完全に捨てた三人は言われたことをただ実行するロボットのように命令を実行した。
「これで完成です!さあ、みなさんどうぞ召し上がれ!」
まあ美味いと言っている人間もいるので、もしかしたらと一縷の望みを箸に託して麺を口に運んだ。
この日、三人は二つ学んだことがある。
一つは未巴琉の味覚が終わっているということ。
もう一つは、未巴琉を食事当番のローテーションから外さなければいけないということ。
今日の昼食という犠牲は尊かった。




