第六話 「セカンドライフ」
今日まで働き詰めの毎日、次の日が休みだなんて一体何年ぶりだろうか。
斎はその日の夜、まだ癒えない生傷になまじ包帯を巻いた状態で実に数年振りの帰宅をした。
「こりゃ、ひどい......」
家の前で呆然と立ち尽くすのも当然。
手入れされずに放置された我が家は、草がボーボーに生え伸びていてとても人が住める状態ではなかった。
まるで植物園だ。
斎はヴィペルを呼び出して草刈りの手伝いをさせた。他に三体の神獣がいるが、先の戦闘で故障中だ。
こういう時に自我を持った魔法というのは大変に便利なもので、せっせかと仕事をしてくれる。
しかしヴィペルの動きがどこか悪い。
かがみ込んで顎をさすりながら様子を窺う斎。
「どうした?」
「......」
神獣は人語を介さないが、それでも何十年も共に戦ってきた斎は細かな変化にすぐに気づける。
無理もないだろう。この前の戦いが体にも心にも傷を与えているようだ。
「お前はよく頑張ったよ、これからはみんなでゆっくり休もう」
そう、これまでできなかったように、みんなで一緒の時間を過ごすんだ。
その言葉はヴィペルに向けているつもりだったが、どこか自分に対しても言い聞かせるように吐き出した言葉でもあった気がした。
そんなこんなで家を生え荒らした全ての草を取り除いて、その日は床に倒れ込むように寝た。
翌日、ロストラムから送らせておいた自分の荷物が到着したのでその荷解きをする。
その数、実にダンボール五十箱以上。これを全て家の中に引き入れなければいけない。
正直言って超絶面倒だが、今日からは命ある限りいくらでも時間がある。
一つ一つ中身を確かめながら収納していく。
まず出てきたのはロストラムの隊服だ。
選ばれた隊員しか着用することが許されないその隊服には、いくつもの徽章が縫い付けられている。
これは自分がロストラムに入隊してから一つの目標にしてきた隊服だったので最後の最後まで袖を抜くのが名残惜しく、全ての荷物をパッキングしてから一番最後に箱に詰めたんだ。
それをリビングの一番見栄えがする場所にハンガーでかける。
次に取り出したのは、使い古されてヒビの入っているくまちゃんが描かれている湯呑みと急須だ。
初任給で買った思い入れのあるこの湯呑みで飲む任務終わりの一杯が格別に美味い。
特に任務の成果が振るわなかった時はこの湯呑みから滲み出る苦味をしっかり舌に刻み込んで次の任務への士気を高めていた。
軍にいた頃は、こうして自分の所有物に対して何か思いを馳せることなんてなかったので少し新鮮な気分だ。
これからはこうして自分の目の前で起きることや周りの全てに対してもっと目を向けることができると思うと、まるで二回目の産声を上げたかのような期待を自分の人生に感じることができる。
老い先は短いが、これから先もこの世界のために、そして何よりこれからは自分のために生きていこうと決意する斎だった。




