第五話 「いちご」
その日はいちごの売れ行きもあまり良くなく、内心苛立っていた。
もしこの出来事が売れ行きのある日に訪れていたなら、あそこまで犯人を追いかけ回すようなことはしなかっただろう。
(いや、どうだろうーー)
汗水垂らして収穫した自分の努力が盗まれるのは、どんなに上機嫌だったとしても受け入れ難いことかもしれない。
その時に出会った青年が代金を立て替えてくれたとしても腹の虫が収まるわけではない。
しかし店主は人情を持ち合わせていた。
何も非がない、むしろ顕彰されてもおかしくないことをした好青年がなぜ身銭を切らなければならないのか。
そんな思いは、どんな苛立ちに変えても消え去ることはなかった。
その青年は、名を『はるみ』というらしい。
事件が解決した場で別れることはなんとも惜しく思い、遥実を連れて家に帰ることにした。
店主の奥さんも歓迎してくれて、麦茶を振る舞った。
「なんかすんません......もてなしてもらっちゃって」
「いやいや、まあ何かの縁だしゆっくりしていけよ」
しかし遥実は長居するものでもないとすぐに出ていこうとする。
世話焼きの店主はそれを許しはしなかった。
「別に良いじゃねぇか!居心地悪いってのかよ!?」
「いえいえ、そんなことは!ただ申し訳ないと思って......」
「なんだと!?」
「いえ、ですからーー」
お互い思いやりのつもりがいつしか喧嘩にまで発展したが、結局遥実の方が折れてその日の夕飯をご馳走してもらうことになった。
芋の煮付けとドロドロに溶けた何かが食卓に並ぶ。
「このデロッとしたのはなんすか?」
「地底の肉料理だよ!『ファメルス』っていう食用家畜で飼育されることが多い動物で、焼くとそんなふうに溶けるんだ!うめーんだぞ」
まだUnderworldに入ってから食べたことのないものだったので、半信半疑で恐る恐る口へ運んでみる。
するとそれが思いのほか美味しい。
味は肉なのに、食感も完全に液体ではなくもちもちとした顎を刺激するもので噛み締める度に肉汁が溢れ出てくるのも魅力的。
まるで無限に肉汁が溢れ出てくる餅を食べているような食べ応えだ。
そんなこんなで食事をしながら、なぜ遥実がUnderworldに来たのかという話題になる。
「んー、あんま詳しくは言えないんすけど、強いて言うなら探し物と届け物をしに来たって感じっすかねー」
「届け物?地底に知り合いでもいんのか?」
「いやあ、ご存知の通りこの世界と地上世界は交流もほぼ皆無ですしそんなんじゃないですよ」
「じゃあ、何を届けに?」
あまり聞いて欲しくないと内心思いつつ、配慮なく食い下がってくる店主に遥実もその問いかけを振り払うことはできずに狼狽してしまう。
「あなた、あまり聞いて欲しくないこともあるでしょうし......」
店主の奥さんが気遣ってくれたが、今から答えないのも少し気まずいので遥実は何とか落とし所を探した。
「いえいえ。そうですね......さしずめーー」
そう言いかけた時、遥実の脳裏には千宙や成未、生徒会役員のメンバーの顔が思い浮かぶ。
「世界を開く切符......ってとこですかね」
なんのことかはまるで見当もつかないが、店主はそれ以上聞くことはしなかった。
一年後、その切符と出会うことを、三人とも予見することができなかったそうな。




