第四話 「書店」
多くの人々が待ち望む休日。
高校に進学した未巴琉は、友達付き合いを優先してばかりでなかなか自分の時間を取ることができていなかった。
一学期も終わり、その悲惨な結果から二学期は成績を挽回しなければ親を泣かすことになると思い、今日という日の休日は思い切って自己研鑽の一環として書店に来ていた。
普通、休日の書店といえば勉強や娯楽が目的の本探しがセオリーだが、未巴琉は決して遊びに来たわけでも頭脳を鍛えようとしているわけでもなく、自分の魔法と向き合うことが目的の本探しだった。
未巴琉の魔法は、魔法の中では珍しい複数効果を扱うことができる魔法。
研鑽次第では大きく化けることを本人も理解はしているのだが、なかなか向上心の少ない彼女にとっては無理難題に等しい大きな壁だった。
今回腰を上げて「本屋に行く」と親に言っても嘘をついて遊びに行くんだろうと疑われる程、今回の思い立ちは未巴琉にとって珍しい事態だ。
書店に入って早速本の背表紙を眺める。
本魔法は具現化する物語の幅は多いが、それでもスケールは本人の魔力や技術に依存するのであまり大層なものを選んでも実戦では使えず意味のないものになってしまいかねない。
しかしだからといって弱気な物語を選んでしまえばそれこそ宝の持ち腐れだ。
どれが良いだろうかと背表紙とにらめっこをする。
『烏と舟』、『皇帝の支配』、『タンクトップの端にある小さなシミには私が思い出したくない思い出が染みついていやがります』、その他諸々......未巴琉はなかなかこれだと思う本を見つけることができていなかった。
(だって私の魔法、なんかなー......)
実は未巴琉は、自分の魔法があまり好きではなかった。
彼女は子供の頃、作家になることを夢見ていた。
自分で物語を紡いで、人に感動を与えたかった。夢半ば、親や教師はそれを肯定せず、そんな凡才が恥ずかしくて友達にも話せず、ずっと自分の殻に閉じこもってきた。
なぜ人の物語で自分を作らなければならないんだろう。
そんな反発する思いが、自分の魔法の勢いを殺していることは自分でも気づいていた。
気づいていたが、どうしようもなかった。
そんなことを考えていると、未巴琉はある本のタイトルが目に留まった。
『自分になりきれなかった自分』
その本を手に取って開いてみる。比較的新しい本だろうか、ページも固くて少し捲りにくい。
その本の書き出しはこうだ。
『私は夢を捨てた。』
重なる、自分に。
続きにはこうある。
『あつはなついとよく言うが、それとこれとは全くのべつーー』
ーーと、視界から急に本が消えた。
誰かが横にいる。誰だ?未巴琉は恐る恐る横を見てみると、そこには眼鏡をかけた大柄な男性がいた。
ムキムキの上腕二頭筋とムチムチの大胸筋がはみ出している似つかわしくないエプロンには、書店のエンブレムが描かれている。
「うち、立ち読み禁止なんで!」
「あ......すみません......」
当然だが意外と手荒な真似はされずにしっかり怒られたので、未巴琉は本を手に会計へと向かう。
そこまで痛い出費でもない。もしかしたらこの本で自分の魔法に対する向き合い方が大きく変わるかもしれない。
そう考えれば安いものだ。
書店に来る前よりもほんの少しだけ足取りを軽くして、未巴琉は家路についた。




