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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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7話 新たな同志


 夕食は普通に美味しかった。

 こっちの世界に転生して食べた物の中で一番美味しいまである、とセルナは思った。


「ところで」アレシアが言う。「魔法士タッカーとその弟子が帝都にいるということは、アカデミーの入学試験か?」


「ええ。その通りですアレシア様」


 タッカーが作り笑いで言った。


「やはりそうか。うちの弟も春からアカデミー魔法科に通うことになる」


 アレシアは伯爵令息を見てから、セルナを見た。

 令息はアレシアに見られた時に少しだけ身を竦めた。

 どうやらアレシアを恐れているらしい、とセルナは感じた。


(まぁ、殺人鬼が姉なら当然か)


「セルナと違って成績は真ん中ぐらいだが」とアレシア。

「私も真ん中ぐらいだよ」とセルナ。


 アレシアが目を丸くした。演技ではなく、心底驚いたのだと分かる。

 アレシアはタッカーに視線を移した。


「セルナに魔法の才能はないよ」タッカーが言う。「それでも特別な子ではある」


 ちなみにだが、セルナの筆記試験は余裕の満点で、教師たちは「天才の入学か!」と騒ぎになった。

 しかし実技は合格者の平均よりやや下だった。どちらかと言うと実技の方が大切なので、とりあえず真ん中ぐらいの成績のクラスに突っ込まれたのだ。

 アカデミーの1年生は入試の成績でクラス分けされるので、結果発表とクラス分けが同時なのだ。


「特別、か」アレシアが言う。「わたくしもそう感じている。セルナは特別だ、と。ギフトでも持っているのか?」


「アレシアはギフト持ちか?」とセルナ。

「わたくしはギフトを公開しているぞ」とアレシア。


「【殺人衝動】とかかな?」


 セルナが言うと、アレシアが笑った。

 控えているメイドたちの顔が強張った。

 令息もビクビクしている。


「わたくしのギフトは【剣才】だ」アレシアが言う。「剣術限定だが、普通の人間が10日かけて覚えることを、わたくしは1日で覚えられる。異常なほどの剣の才能。間違いなくわたくしは帝国最強となるだろう」


(実に単純で実に強力なギフトだね。アレシアが殺人鬼でなければ、私の護衛に最適だったのに。本当に残念だけど、私の目指すユートピアにアレシアの席はない)


 そんなことを考えながら、セルナはジュースを飲んだ。


「セルナのいいところは、わたくしに媚びないところだ」


 アレシアが満足そうに言った。

 その発言で、メイドたちと令息が複雑な表情を浮かべる。

 まるで「媚びなきゃ殺すくせに」と文句を言いたいけど、言ったら殺されるから我慢している、という風に。


 いや、考えすぎか、とセルナは思った。

 実の弟やメイドを殺すのはさすがに問題になる。だからたぶん、痛めつける程度なのだろう、とセルナは推測。


「それはそうとセルナ、今日からアカデミー卒業まで我が家に宿泊しろ。わたくしと一緒に登校しようではないか」

「……君が登校中に市民に斬りかかったりしないならね」

「はっはっは! セルナはわたくしの掃除がよほど印象に残ったらしい! やってみれば楽しいぞ! 今度一緒にどうだ!?」


 アレシアが言うと、メイドたちがサッと下を向いた。


「遠慮しよう」


 セルナも人を殺すことはある。けれど、それはあくまで必要だからそうするのだ。あるいは、許せないからそうするのだ。


「まぁいい。とにかく貴様はわたくしの部下とする。これは命令だ」

「分かった」


 もちろん、心からアレシアの部下になることはない。


「あー、僕は……」とタッカー。


「部下にしてやってもいいが?」

「遠慮しておくよ。一応領主だし、街に帰らないと……」

「よろしい。好きにしろ」


 アレシアが言うと、タッカーは小さく安堵の息を吐いた。

 そうしてタッカーは少し早めに領地に戻り、セルナの伯爵邸生活が始まった。


◇


 セルナの朝は早い。

 セルナに与えられた無駄に豪華な部屋の大きなベッドで目を覚ます。二度寝はせずにサッと起きて、洗面所に移動して歯を磨いて顔を洗う。


 それからベッドに戻って瞑想を開始。心を整えると同時に、魔力コントロールと魔力量の増加を目的に魔力を動かす。

 それが済んだら、服を着替えて朝食へと出向く。朝食はアレシアとその弟と三人で摂る。


 いくらか会話を交わしたのち、アレシアが伯爵家の馬車でアカデミーに登校。

 午前中はアレシアの弟と一緒に魔法の練習をしながら自分の理想を少しずつ語り、甘い言葉で誘惑する。

 3日目にはアレシアの弟はセルナに好意を抱いていた。


「【マナアロー】」


 セルナが魔力で作った赤色の矢を的に飛ばす。

 ここは伯爵邸の訓練所。


「【マナアロー】」


 隣でアレシアの弟も同じように魔法を使った。

 こちらは白っぽい色の矢。

 二人とも的の真ん中に命中したので、お互いに顔を見合わせて微笑みを浮かべる。

 黙々と色々な練習をしたのち、二人は訓練所の隅のベンチで色々な話をする。

 とくに理想の社会構造について。


「素敵な世界だと思う」


 アレシアの弟、フレット・ボニージャがキラキラした瞳で言った。


「私の目指す世界には殺人鬼はいない」セルナが言う。「全員が適材適所で実力を発揮する社会で、誰も競争なんてしない。だから悩みも迷いもなく、平和で秩序的なシステムで動いているんだよ」


「今の帝国とは真逆だ……」


 フレットがフッと自嘲するように笑った。

 フレットはセルナと同じ13歳で、アレシアと同じ銀髪。タッカーのような優男だが、顔立ちはかなり良かった。美少年といって差し障りない。

 もちろん、セルナは男の容姿に興味などないが。

 それでも、優れた容姿の者を仲間に引き入れると便利な場面は多々ある。


「帝国はすでに寿命を迎えている、と私は思うんだ」

「寿命……?」

「そう。どいつもこいつも自分のために不正を行い、その行為を覆い隠している。君のお姉さんはその中でも特別酷い」

「……分かってるさ。姉さんがイカレてることぐらい……でも、どうしようもない……僕は姉さんみたいに強くないし、両親も姉さんが怖いから、領地から出てこない……」

「分かるよ。アレシアはカオスそのものだ。理屈も話も通じない。私にとっても天敵だよ。彼女は脅しにも屈さないだろうしね」


 セルナは手を伸ばしてフレットの肩を抱く。

 セルナは友人として肩を組んだのだが、フレットは頬を染めた。


「ハッキリ言う、私の目指す社会に、彼女の席はない」


 セルナはフレットをジッと見つめる。

 フレットは更に頬が赤くなった。


「でも君のような優しい人間の席は用意できる。私と一緒に目指さないか? 帝国という古い壁紙を剥がして、新しく美しい絵を描こうじゃないか。誰も犯罪に走れないよう監視し、誰も不正をしないように管理する。そこでは裏切りは許されず、人民は全体のために生きるんだ。身分差別もなく、ただ唯一、頂点に私がいるだけ。でも私だって全体のための歯車に過ぎない」


「夢物語のようだ……」


「今はそうかも。でもフレット、自分のことだけを考え、不正の横行するこの国が好きかい? 殺人鬼を罰することもできない国が。スラムに生まれた子たちを『存在しないから殺してもいい』なんて考える奴が大きな顔をしている社会が?」


 セルナが言うと、フレットが小さく首を振った。


「間違ってると、僕も思うんだ……でも、僕に何が……」


「ああ、心配しなくていいフレット。自分で考えなくても大丈夫。私に委ねて。私が決めてあげるから。私を信じて付いてくれば、理想の社会を見せてあげる。もし私とともに歩んでくれるなら、『アクセプト』と」


「どういう意味?」

「同意する、受諾する、という意味さ」


 セルナが言うと、フレットが考える素振りを見せた。

 セルナは口をフレットの耳に寄せる。


「よく考えて選んで。断ってもいい。その時は、もう私からは誘わない。でも受け入れてくれるなら、私が君を守る。あの殺人鬼からも、世界からも」

「……アクセプト」

「今日から君は同志だフレット。仲間を紹介しよう」


 セルナが言うと、物陰からカルラがピョコっと顔を出した。


「ええ!?」


 知らない子供がいきなり現れたので、フレットはビクッとなった。


「大丈夫だよ同志フレット。彼女は同志カルラ。私の信頼する右腕だ」


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