33話 全てを失って
メリッサの葬儀は盛大なものとなった。帝国民には三日間喪に服すよう命令が出され、みんなそれを守った。おかげで帝国中が黒い服の人たちで溢れた。
メリッサの死体は大聖堂にしばらく安置され、その後、神の火によって焼かれ灰となった。
まぁ神の火なんて言っているがようはただの火葬だ。セルナはキャンプファイヤーっぽいなと思った。
多くの貴族がメリッサの火葬を見に来た。アルカサル公爵家も当然参加した。
教会の司教が何やら聖句を口ずさんで、皇后が泣き崩れた。
皇帝と皇后はメリッサの暗殺に激怒した。暗殺を生業とする全ての人間を死刑にすると宣言。竜絶がすぐに街の小さなアサシンギルドまで根絶やしにした。
烈火は帝国どころか近隣諸国からも撤退し、アンシェル一家は完全に姿を隠した。
メリッサの葬儀が終わり、色々と落ち着いたところで、ルビィがメリッサの悪事を暴露した。
といっても、皇帝にだけコッソリと暴露した。皇帝はメリッサの所業に頭を抱えた。皇族のやっていいことではない。
ルビィは共犯者であるメリッサの側仕えとバルドメロを罰するよう要求し、皇帝はそれを呑んだ。そして、世間に暴露せず自分にだけ話したルビィを高く評価した。
側仕えとバルドメロはともに財産没収の上、帝都追放刑を受けた。
◇
竜絶に戻る交渉をしていたバルドメロは、突如として一文無しになった。
皇帝が直々にバルドメロを有罪とし、その財産を没収したのだ。当然、竜絶にも戻れなくなった。
剣も鎧も何もかも失ったバルドメロは、失意のまま帝都を出る日を迎えた。
ほとんど戻ることのなかった自分の家だが、失うとなると少しだけ感傷的になった。なんてことのない普通の民家だが、いつかメリッサと2人で暮らしたいなんてあり得ない妄想をしたこともある。
そんなバルドメロに手紙が届いた。帝都を出るために家を出たのだが、知らない子供がそれを持ってきた。
子供はすぐに読むように言ってその場を去った。
バルドメロが手紙の内容を確認する。封筒の中には便箋と地図が入っていた。
『メリッサのことで話したい。犯人に心当たりがある。地図の場所で落ち合おう。セルナ・アルカサル』
それを見た瞬間、バルドメロは頭が沸騰するほどの怒りが湧いた。
「メリッサ様を殺した奴……」
そいつを絶対に許さない。セルナの心当たりが本当に犯人かどうかは分からないが、知っておく必要がある。
バルドメロは迷うことなく地図に記された場所へと向かった。
そこは路地裏の民家で、酷く薄暗い雰囲気の場所だった。
バルドメロは周囲を警戒したが、特に脅威は見つからない。雰囲気が悪いだけの普通の民家だ。近くに賊が潜んでいる様子もない。
そもそも、貴族令嬢がいるのだから危険もクソもないか、とバルドメロは思った。
バルドメロはノックせずに玄関を開け、中に入った。
「こちらへどうぞ」
幼いメイドが待っていて、バルドメロを案内する。
(セルナのメイドか。見たことがあるな)
バルドメロが通されたのは応接室で、セルナがソファに座っている。セルナの背後には若い執事が立っていた。
「やあバルドメロ卿」言ったあと、セルナは何かに気付いたようにハッとする。「おっと、今はただのバルドメロさんだったね」
バルドメロは爵位も剥奪されているので、今はもう騎士ですらない。
「御託はいい。メリッサ様を殺したのは誰だ?」
「おいおい、そんなにツンケンするなよ。まぁ座って。ゆっくり話そう」
「我はお前と長話をする気はない」
「いいから、座れ」
セルナは有無を言わさぬ雰囲気だった。
お茶会の時やルビィの部屋で会った時と印象が違う、とバルドメロは思った。
「いいだろう。その代わりさっさと話せ」
言いながら、バルドメロはセルナの対面のソファに腰を下ろした。
「まぁそう言うなよ。少しだけ世間話をしようじゃないか。剣も鎧も失った騎士というのは惨めなものだね」
「喧嘩を売っているのか? 貴様とルビィ殿下のせいだろうが」
メリッサが死んだ今、別に告発する必要などなかったはずだ。
「私のせいにするなよ。メリッサに手を貸していた君が悪い。が、まぁそれはどうでもいい。私としてはさ、君がこれほど厳しい罰を受けるとは思ってなかったんだよ」
「ああ。何もかもを失った」
だが一番キツイのは帝都を追放されたこと。なぜならメリッサ殺しの捜査ができなくなるから。
「本当言うとね、5年ぐらい牢屋に入ってくれればそれで良かったんだよね」
バルドメロ的にはそれもかなり困る。理由はやはり捜査ができないから。
「君が自由に動き回るのは私にとって好ましくないんだよね。だって君、メリッサ殺しの犯人を意地でも探し続けるだろう?」
「当然だ。我はメリッサ様を殺した者をけっして許しはしない」
「だよね。だからまぁ、悪いんだけど消えてくれないかな?」
「何?」
バルドメロはセルナの言葉の意味を理解できなかった。
「だからさぁ、私がわざわざヴォルフをまいてまでここに来たのは、君にこう言いたかったんだよ。よぉ節穴、メリッサの仇なら目の前にいるぞ、ってね」
「……は?」
バルドメロは頭が混乱した。セルナのような間抜けな令嬢がメリッサを殺した?
そんな度胸があると? それとも冗談のつもりなのか?
「君は私を間抜けだと思っていただろう? 私を舐めていただろう? だから姿を消すギフトも使わず、堂々と現れた。剣も鎧もないくせに、私如きならどうとでもできると思っていただろう?」
「実際どうとでもなる。本当に貴様がメリッサ様を殺したなら、我はこの場で貴様を殺す。いいか? 遊びじゃない。我の質問に注意して答えろ。貴様が、メリッサ様を、殺したのか?」
「そうだよ」
セルナの返事と同時にバルドメロは身体強化をして立ち上がる。
その瞬間、真横から腹部を殴られてぶっ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
(バカなっ!? 我を殴り飛ばした!?)
それはセルナの幼いメイドだった。そのことを認識して、バルドメロは激しく動揺した。この年齢でこれほどの実力があるならば、大人になったら間違いなく世界でも上位の実力者になる。
完全に不意打ちだったので、受けたダメージが大きい。バルドメロは立っていたが、今にも倒れてしまいそうだった。
メイドの拳は微かに光っていて、魔力を集めたのだと分かる。マナソードの拳版。正式な名前はないが、【マナコート】と呼ぶ者もいる。どうであれ、それは半端な境地では使えない技。
「正確にはオレと姉貴が殺したんだぜ? セルナは依頼人さ」
ずっと黙って立っていた執事が、いつの間にかバルドメロの前にいて。
その言葉が終わる頃にはバルドメロの身体に複数の短剣を突き刺していた。
「剣も鎧もない上」セルナが淡々と言う。「こちらを舐めている元騎士なんて話にもならないよ」
セルナが【マナアロー】を放って、バルドメロの胸を貫いた。
剣があったなら、鎧があったなら、最初からメイドを警戒していたなら……全てが後の祭りだ。
「メリッサ様……地獄で、お会いしましょう……」
◇
「これで一件落着。あとはクヌートがバテリアンを食って終わりだね」
その功績をもって、彼は皇太子になるだろう。だがとりあえずはそれでいい。
セルナの方針は単純だ。クヌートによる軍国化を制御しながら、できれば皇后になる。皇后になったらクヌートを消してセルナが実権を握るというもの。
軍国化があまりにも激しいようなら、途中でクヌートを消して別ルートへ。よって、別ルートも同時に進めておく。
「そうですね」とカルラ。
「セルナって本当、容赦ないよね」
セルナの専属執事になったスタースが肩を竦めながら言った。
「理想の邪魔になる者は粛清する。そういうものだよ、同志スタース」
「おっと、オレは別にあんたの理想に100%共感してるわけじゃない。あんたがどこまでやれるのか、それが見たいだけさ」
「ならば見せてあげるよ。身分差別もなく、誰も不正を働かない、必要な物を必要な時に必要なだけ持っていける社会を。私を唯一の頂点とした完璧に調和した世界を。カオスを根絶した素晴らしい世界を。身震いするほど素敵な理想の世界を」
これで2章は終わりです!
3章は11月1日の18時から開始しようと思います!




