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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
二章

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31話 皇女暗殺


 バルドメロは早足でルビィの部屋を目指していた。もちろん姿は見せた状態だ。

 何人かの近衛とすれ違い、バルドメロは思う。


(過剰な警備だな……メリッサ様の言う通り、我が心配しすぎていたようだ)


 むしろ近衛たちの体力が心配だ。ちゃんと交代できているのか? 休めているのか? いざ賊が侵入した時に疲れ切っていては意味がない。

 そんなことを考えていると、ルビィの部屋の前に到着した。

 バルドメロは一度深呼吸してからドアをノック。すぐにルビィが返事をしたので、バルドメロは部屋の中に入った。


(セルナ・アルカサル? なぜ一緒にいるんだ?)


 室内にはルビィとセルナがいた。2人とも椅子に座っていて、テーブルには紙の束と紅茶が置いてある。


「バルドメロ卿」ルビィが言う。「この資料を見ていただけますか?」


 ルビィが紙の束に手を置いて言った。

 バルドメロはテーブルに近寄り、紙を一枚手に取って目を通す。


(これは!?)


 そこに書かれていたのはメリッサの悪事の1つだった。


(まさかこの紙は全て……)


 バルドメロは次の紙に目を通し、そこからはザっと20枚ほど確認した。

 それらは全てメリッサの悪事を記した文書だった。ということは、まだ見ていない残りも全部同じ内容に違いない。


(バカな!? アカデミー時代の罪まで書かれている。どういうことだ!?)


「あなたの顔を見て確信しました」ルビィが言う。「この情報は事実ですね?」


「仮にそうだとしても、こんな紙は証拠にならない」


「そうだね」セルナが言う。「皇帝が無罪だと言えば無罪になるしね」


 帝国法は皇帝より上にない。誰も皇帝を裁くことはできない。そして皇帝には恩赦を出す権利がある。


「ですが、皇太子への道は断たれます」ルビィがジッとバルドメロを見る。「これを帝国中にばら撒けば、ですが」


 それは困るか、とバルドメロは思った。メリッサは皇帝になって帝国民を不幸にすることを目標としている。


「我を脅迫するつもりか?」


 バルドメロは殺気を込めた瞳でルビィを睨んだ。脅迫に屈するつもりはない。ただ、メリッサに早急に報告する必要があるとは思った。

 ルビィは「ひっ……」と震え上がった。


「皇女様を睨むな。不敬な男だね君は」


 セルナはバルドメロの殺気に気付いていないのか、淡々としていた。その様子に、バルドメロは呆れる。


(鈍感な令嬢だ。敵意や殺意を理解できないのか?)


 メリッサとのお茶会でも、セルナは素っ頓狂な返答をしていた。そのことを思い出して、バルドメロは小さく溜息を吐いた。

 こういう間抜けは相手にするだけ無駄だ。


◇


(こわっ! バルドメロこわっ!)


 セルナはちゃんとビビっていた。それを表に出さないだけ。


(カルラがいないから、あまり強い言葉を使って怒らせないようにしないと)


 戦ったら殺されてしまう。セルナは自分の命が何より大切だ。なんせ、理想を達成するためにはセルナが生きている必要があるのだから。


「とにかくバルドメロ卿」セルナが言う。「私たちの望みはそれほど大きくない」


「言ってみろ」

「メリッサにこれ以上いじめられたくない。それだけだよ。君の方から説得してくれないかな?」

「なぜ我がメリッサ様を説得できると思ったのだ?」


「あなたは」ルビィが言う。「ずっとメリッサお姉様を守っていますし、お姉様の忠臣でしょう? ならば、あなたの言葉に耳を貸すのでは?」


「私たちが自分で申し入れても、彼女は聞かないだろう?」


 正直な話、これは全て時間稼ぎに過ぎない。どうでもいいのだ。それっぽいことを言ってバルドメロを引き留めているだけなのだから。


「くだらん、時間を無駄にした」


 バルドメロが踵を返す。


「君やメリッサの側仕えは捜査されると思うけど?」とセルナ。


「勝手にすればいい。我は身も心もメリッサ様に捧げている。地獄に落ちたとしてもそれは変わらん」

「メリッサが皇太子になれるよう協力すると言ったら?」


 セルナが言うと、バルドメロがセルナ達に向き直った。


「貴様はクヌート殿下の婚約者だろう?」

「さっきから君、私に対して言葉が強くないかな?」

「丁寧に喋りましょうか? お嬢様」


 バルドメロがわざとらしく礼をした。


「君もメリッサに言われて私をいじめるのか?」

「バカな。我は騎士だ。令嬢をいじめるような真似はせん」

「でも君、何度かメリッサのために動いているじゃないか」


 セルナが紙の束を叩いた。


「我が動いたのは、メリッサ様に攻撃しようとした者だけだ」


「バカ言うな、攻撃じゃなくて反撃だろう? 君はメリッサが無実の人間を地獄に落とすのを黙って見ていたんだ。そして反撃する者には武力を使った。最低のクズだよ、君は」


「我はメリッサ様の騎士だ。メリッサ様を守るのは当然のこと」

「そのためなら誰が傷ついてもいいと? 自殺するまで追い込まれた者もいるのに?」

「……そもそも、その情報をどこから持ってきた? ルビィ殿下と公爵令嬢に用意できる代物ではない」


 バルドメロが話を変えた。セルナはそれに乗っかることにした。アンシェル一家の2人がメリッサを殺すまで、バルドメロを引き留めることができれば話題は何でもいい。


「情報ギルドさ」とセルナ。


「……ネズミが近くにいるようだな……」


 バルドメロはこれから、存在しないスパイを探し回ることだろう。この資料は全てセルナが【記録詠み】で見て記憶していたメリッサの不正を文字に起こしたものだ。

 セルナは書類の読み書きが得意だが、さすがに数が多かった。腕が疲れてカルラやエラストに書いてもらったものもある。


 面白いもので、文字には性格が出る。セルナの書いた書類は正しい文字を正しい間隔で記している。お手本のような文字で、筆圧も一定。

 一方カルラが書いた文字は攻撃的に尖っていて、筆圧も強めだ。

 ちなみにエラストは丁寧で上品な文字を書いていた。


「ルビィ殿下! ご無事ですか!?」


 乱暴にドアをノックする音と焦った声。


「な、何事ですか!?」


 ルビィは驚いて立ち上がった。


「賊です! 賊が侵入したようです! 近衛がやられています!」

「な、なんですって!?」


 ルビィは両手で自分の口を押えた。


(ルビィ、君、自分がその賊を手引きしたこと忘れてるね?)


 セルナは最初、ルビィの演技が上手すぎてビックリした。だがよく観察すると演技ではないことが分かる。


「賊だと!? メリッサ様は無事か!?」


 バルドメロが急いでドアを開ける。


「バルドメロ卿!? なぜルビィ殿下の部屋に!?」


 部屋の外にいた近衛が目を丸くして言った。


「賊は排除したのか!?」

「い、いえ! 見つかっておりません! ですからこうして、皇族のお部屋を……」


 言葉の途中でバルドメロが駆け出す。


「あたくしは無事です。避難した方がいいかしら?」


 ルビィが近衛に対して言った。


「いえ! 守りを固めますのでここにいてください!」

「分かりました。しかしセルナを巻き込むわけには……」

「まとめてお守りしますので! 収束までここにいてください!」

「そうですか、ではお願いします」


 言ってから、ルビィが座る。


◇


 バルドメロは人生で一番速く走った。


「どけぇ!」


 途中、邪魔だった近衛を突き飛ばした。それほど焦っていた。賊の狙いがまたメリッサだったら?

 メリッサの部屋の前の近衛2人は殺されていて、別の近衛たちが集まっている。


「どけ貴様ら! メリッサ様の専属騎士のバルドメロだ! どけ!」


 バルドメロが叫ぶと、集まっていた近衛たちが道を開ける。

 バルドメロが急いでメリッサの部屋に入ると、すでに息絶えたメリッサが床に倒れていた。


「メリッサ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 バルドメロはメリッサの死体を抱き上げた。


「ああああああ!! メリッサ様!! なぜですかメリッサ様!!」


 バルドメロは涙を流しながら咆哮した。


「おのれぇぇぇぇ!! 殺す! 絶対に殺す!」


 バルドメロは下手人も依頼人も絶対に見つけ出して殺してやると心に誓った。


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