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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
二章

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29話 メリッサは悪魔、私は指導者


 3つの死体が転がる尋問室で、モニカは長く息を吐いた。

 右手に金槌を持ったまま余韻に浸る。頬が熱を持っていて、心臓がドキドキしている。初めての本格的な拷問は、モニカに倒錯した感情を自覚させてくれた。


「ふむ。いずれ組織が大きくなったら」セルナが言う。「尋問部を作ろう。そこは君たちに任せるよ」


 セルナがモニカの肩を叩き、次に工作員男子の肩を叩いた。

 モニカが工作員に視線をやると、モニカと同じように恍惚とした表情を浮かべている。モニカはこの工作員が自分と同じ性質を持っていると思ってここに連れてきたのだが、正解だった。


「ありがとうございます同志。私はこういうのが得意なようです」


 モニカは握った金槌を見詰めながら言った。

 金槌は血に濡れていて、ドロッとした肉片が張り付いている。


「自分は苦手かもです」


 カルラが珍しく弱音を吐いた。そのことにモニカは少し驚く。モニカの中で、カルラは何でもできる少女だったから。


「私はできなくはないですが、普通に粛清する方がいいですね」


 ニーナは苦笑いを浮かべながら言った。


「ま、拷問を行うにも才能が必要だ」セルナが言う。「カルラもニーナも無理に行う必要はない。今後はモニカたちに任せればいいだろう。何を隠そう、私も必要だから教えたけど、得意ではないよ」


 モニカは酷く驚いた。

 セルナは拷問をしている間、表情一つ変えなかったというのに。事務的で冷徹で何も感じていないと思っていた。よって、セルナには拷問の才能があるとモニカは思ったのだけど、間違いだったようだ。


「さて、死体の処理はいつも通り頼む」

「はい同志」


 セルナが背伸びしながら言って、モニカは恭しく頷いた。


「それにしても、ペラペラと聞いてもないことまで喋ってくれましたね」


 モニカが死体を順番に見ながら言った。


「ああ。このあとは彼らの言葉が真実かどうか、分析官と検証する。私はもう分かっているけど、練習のために君たちは真偽を分析してみたまえ」

「あ、お姉様はすでに視たんですね?」

「そうだよ。私は誰かを拷問する必要がない。でも、私以外はそうはいかない」


 常にセルナがいるなら、拷問なんて覚える必要はないのだ。でも現実問題、セルナが常にモニカたちの側にいるわけじゃない。

 その後、死体の処理をする子たちが入ってきて死体をバラバラにし始めたので、モニカ達は食堂に移動。


 そこで分析官を交えて色々と情報を検証した。セルナは何も言わず、ただみんなが検証するのを聞いていた。

 そして話がまとまり、モニカが大きく頷く。


「結論を言います」モニカがセルナを見ながら言う。「彼らを雇ったのは第一皇女メリッサ・ヘールス・ベナビデスです」


 セルナはパチパチと手を叩く。


「正解」


 セルナがそう言うと、集まった者たちがホッと息を吐いた。


「それでお姉様、どうするんです?」

「まさかやられっぱなしではないですよね?」


 カルラとニーナがジッとセルナを見詰める。


「とはいえ、我々が直接手を下すのはあまりにもリスクが高い」セルナが真面目な表情で言う。「アンシェル一家からキャンセルの連絡もないし、レーテなら自分が死ぬまで狙い続けると思うけど……」


「あいつら頼りねーです」とカルラ。


「新聞によると」モニカが言う。「護衛騎士がアンシェル一家を撃退したようですし、そいつを遠ざけてやれば勝手に殺してくれるのでは?」


「ふむ。確かにその通りだね。シンプルで分かり易くてとてもいい。では私は護衛のバルドメロについて調べてみよう。モニカはジャックと連絡を取ってアンシェル一家を探して。バルドメロを遠ざける日を共有したい」


「アクセプト」


◇


 セルナはルビィを授業準備室に押し込んだ。


「何があった? なぜそんな悲しそうな顔をしている? なぜ私を気にしている?」


 セルナはルビィの顔を間近で見て、頬が少し腫れていることにも気付いた。


「これは? 誰かに叩かれたのか?」


 セルナは右手でそっとルビィの頬に触れた。


「セルナ……」


 ルビィは泣きそうな表情でセルナを見た。


「言って。私が力になる。友達だろう?」


 セルナが言うと、ルビィはセルナに抱き着いてすすり泣いた。

 セルナはルビィの背中を優しく撫でる。


「メリッサお姉様が……」やがてルビィが話し始める。「あたくしを……いじめるの……急に、みんなの前であたくしを下賤の分際で生意気だと……」


「君を叩いた?」


 セルナが聞くと、ルビィはセルナに抱き着いたまま頷く。


「恨むならセルナを恨めと……あたくし、何がどうなっているか……」


「大丈夫、君は何も悪くない。メリッサはクヌートを皇太子にしたくないんだ。それで彼の婚約者になった私を攻撃している。そしてメリッサは君を私側の人間だと認識したんだ」


「攻撃……?」

「そう。私もお茶会でいじめられた」

「そんな……どうして……」

「ニーナの家は襲撃され、私が支援している孤児院も襲撃された」

「そ、そんな……まさかそんなこと……」


「黒幕は間違いなくメリッサだよ。襲撃者はみんな『恨むならセルナ・アルカサルを恨め』と言ったそうだ」

「どうしてお姉様はそこまで……」

「自分が皇太子になりたいから、というのもあるだろうけど、彼女は元からそういう性質なんだよ」


 セルナの言葉の意味をルビィは理解していなかった。


「彼女は元々、誰かをいじめるのが好きな人間なんだよ。私は彼女について調べたんだけど、彼女が自殺に追い込んだ人間は1人や2人じゃない」

「こ、皇族がそんな酷いことを……」


 ルビィは震えながらセルナから離れる。


「私は彼女が間接的に殺した全ての人間の名前を言えるよルビィ。彼女は悪魔だ。このままにしておくわけにはいかない」

「ど、どうすると言うの?」


「ねぇルビィ、君はこのままでいいと思うかい?」セルナは優しい声で言う。「メリッサのことだけじゃなくて、この帝国のこと。身分差別や不公平な社会構造について、何も思うことはないのかい?」


「か、考えたこともないわ。だってあたくしは、統治者にはなれない……」


 ルビィは自分を政略結婚の道具としか思っていない。皇帝とメイドの間に生まれた子だけど、皇族として生きられただけでも運が良かったのだ。

 多くは望まなかった。今も望んでいなかった。


「じゃあ考えるんだルビィ」セルナは両手でルビィの頬を挟んだ。「私が理想の社会を構築すると言ったらどうする? 身分差別もなく、メリッサのような人間を許さない世界を創ると言ったら?」


「理想……の世界?」


 ルビィは少し混乱していた。


「ごめん、少し急ぎ過ぎたね」セルナがルビィの頬から手を離す。「今はメリッサのことだけを考えよう。彼女を許していいのか? 彼女は何人も自殺に追い込んだ正真正銘の悪魔だよ。私や君のこともそうするつもりなんだ。そんな人物が第一皇女だなんて、本当にそんなことが許されると?」


 ルビィはほぼ即答で「許せない」と言った。

 だけどすぐに「でも」と言った。


「でもじゃないよルビィ。許せないという気持ちが大切なんだ。私に任せて。君が少し協力してくれるなら、私がメリッサを始末しよう」

「し、始末?」

「そう。彼女は法では裁けない。分かるだろう? みんな彼女が怖くて被害を訴えることさえできない。君だってそうだろう?」


 ルビィが頷く。


「私を信じてルビィ。私はね、みんなが幸せに暮らせる社会を作りたいんだ」

「み、未来の皇后として……?」

「指導者として」

「指導者……?」

「今度話そう。私の目指す理想について。今はメリッサを始末することを考えよう」

「でも、お姉様にはバルドメロが……。プロの暗殺者も撃退したのよ?」


 ルビィはメリッサを始末することを否定しなかった。


「ああ、だから君がバルドメロを呼び出して欲しい。メリッサについて重要は相談がある、とでも言えば彼は来るよ。信頼できる者にしか話せない、だからバルドメロ卿にだけ話したい、とか言えばいい」


 白き翼で買ったバルドメロの情報では、彼はメリッサに恋をしていると記されていた。彼はメリッサのために竜絶を辞めて、専属の護衛になった。

 彼はメリッサのためなら多くのことを実行できるけれど、唯一、皇族には手を出さないし、出したこともない。これからもそうだろう。

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