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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
二章

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25話 バレるはずがない


「何もなかったかい?」


 帰りの馬車の中でセルナが言った。

 セルナの隣にカルラが座っていて、セルナの前には護衛騎士の2人が座っている。


「そうですね、特にはないです。ちょっと殴ったんですけど、解決したので問題ありません」

「そっか。問題ないなら良かった」


 カルラもセルナも淡々としていて、護衛騎士の2人が目を丸くした。


「え? ちょ、殴っ……え?」


 護衛騎士はいつもの男女だが、男の方がセルナを見てカルラを見てまたセルナを見てから、隣の女騎士を見た。

 女騎士が男騎士の横腹を肘で突く。黙ってろ、という意味だ。


「お姉様の方はどうだったんです? ずいぶん早く終わったみたいですけど」

「こっちも特にはないかな。ネチネチと貴族的な嫌味を言われたぐらいで」


「言い返さなかったんですか!?」カルラが驚いて言う。「喧嘩を売られたらとりあえず買うのが趣味みたいなお姉様が!?」


「!?」


 セルナはその評価に酷く驚いた。おかしい、私は普段から冷静沈着なはずだが? と。


「まぁメリッサがいるから何を言っても意味がないと思ってね」セルナが肩を竦めた。「あいつが庇うだろうからねぇ。あの場ではメリッサが正義だから」


「ああ、それは確かにそうですね」


 うんうんとカルラが頷いた。


「だからまぁ、予定通りに進めよう」


 セルナは護衛たちに聞かれないように、小さな声でカルラに耳打ちした。

 メリッサは不正で脅して屈するようなタイプでもないし、理想を共有できるタイプでもない。そもそもセルナに暗殺者をけしかけているのだ。やはり消す以外に道はない。

 もちろんセルナやSIUが消すわけではなく、予定通りアンシェル一家に依頼する。


◇


「セルナちゃんはあの程度の嫌がらせには屈さないみたいですー」


 メリッサは帰りの馬車の中で言った。

 メリッサの前には側仕えとバルドメロが座っている。

 バルドメロはお茶会の会場にも姿を消して立っていた。


「アカデミー時代、ほとんどの子はあれで心を病みましたけれどー、確かに当時も通用しない子いましたねー」


 メリッサはかつて自分が不幸にした者たちの顔を思い浮かべて、少しだけいい気分になった。


「でもでもー、そういう心の強い子の心を折る方法も、わたくしは知っているのですー」


 メリッサは両手を組んで笑顔で言った。

 側仕えとバルドメロは特に相槌をうつでもなく、ただ聞いていた。


「それはぁ、ズバリ家族や友人を攻撃することです!」メリッサが元気に言う。「そうするとみんな、『狙うなら自分だけにしろ』という感じのことを言います。もちろん無視して執拗に周囲を攻撃すれば、次は泣きながら『もう許してください。私が何をしたと言うのでしょうか? 何でもするから止めてください』と言ってくるんですー」


 メリッサはバルドメロと側仕えの顔を見る。

 バルドメロは何を考えているか分からない。完全に無表情。

 側仕えは少し怯えている様子だった。


「それでですねー、何でもするといった相手にわたくしはこう言うんです」メリッサが指を一本立てる。「自害しろって」


 みんなすでに心を病んでいて、大きな抵抗もなく数日以内に自害した。それを確認したらいつも心がスッとしたものだ。

 メリッサは視線を側仕えに合わせる。側仕えがサッと目を伏せる。


「ところであなた」メリッサが側仕えに言う。「わたくしの命令は遂行しましたかぁ?」


「あ、はい……。ただ、思った以上に相手が強く……」

「ふぅん。主人と同じようにメンタルが強かったわけですかぁ」

「あ、いえ……メンタルと言いますか……物理的に……」

「はい?」


 メリッサが目を丸くした。セルナのメイドは11歳の少女だ。


「いえ……その、とにかくあまり上手くいきませんでした……申し訳ありません」


「そうですかー。まぁいいでしょう」メリッサは笑顔で言う。「それよりセルナの友人について調べておいてください。さすがにアルカサルを狙うのは大変なのでー、友人を狙おうと思います」


「はい。白き翼に聞いてみます」


 中央情報局は使わない。あそこを使うと他の皇族に話が伝わる可能性がある。


◇


 ヴォルフは報告書の件で局長に呼び出され、局長室へと向かって歩いていた。

 ここは帝国中央情報局の本部。


(最近提出した報告書は『セルナ・アルカサル素行調査』の途中経過だけ。何か問題があったのか?)


 普通の報告書だったはずだが、とヴォルフは思った。

 局長室のドアの前で立ち止まり、一度小さく深呼吸をしてからドアをノック。


「入りたまえ」という局長の声で、ヴォルフがドアを開ける。


 中には局長とヴォルフの直属の上司がいた。

 ヴォルフは中に入ってドアを閉める。

 局長は40代後半の女性で、眼光が鋭い。元はバリバリの諜報員だ。かなり優秀で、瞬く間に成り上がった女傑だ。

 局長は執務机に座っていて、上司はその隣に立っている。

 ヴォルフは気を付けの姿勢で立った。


「楽にしたまえ」


 局長が言って、ヴォルフが姿勢を崩す。といっても、脚を開いて楽な立ち方をしているというだけ。


「オレの報告書に問題がありましたか?」


 ヴォルフは真っ直ぐに局長を見詰めた。


「いや。報告書に問題はない」局長が言う。「セルナ・アルカサルの素行調査は誰に頼まれた?」


「は? いえ、オレの独断であります」

「独断?」

「はい。オレには自由捜査権があったと記憶していますが?」


「ああ。別にセルナ・アルカサルを捜査したことを咎めているわけじゃない」局長が言う。「本当に独断なんだな?」


「そうですが……」

「理由を聞いても?」

「クヌート殿下の婚約者として相応しいか、各方面から疑問の声が聞こえましたので、オレが独自に調査をしていました」


 ヴォルフはセルナを怪しいと思っているのだが、そのことは言わなかった。今のところ、何の証拠もないからだ。


「各方面とは?」

「誰というわけではなく、酒場での噂やちょっとした雑談でのことです」


「なるほど」と局長が頷く。

「あの、なぜこのような質問を?」とヴォルフ。


「クヌート殿下から申し入れがあったのだ」局長が言う。「婚約者を調査しているのはなぜだ? 詳細を調べて報告しろ、と」


「バカな……」


「そうだヴォルフ」局長がギロリとヴォルフを睨む。「わたくしもバカな、と思ったさ」


「お前」上司が言う。「何をしくじった? 情報局員が調査をしていると、なぜバレた? うん?」


 そう。それがまさに『バカな』である。ヴォルフはヘマをした覚えがない。


「待ってください」ヴォルフが右手を自分の額に当てた。「殿下がなぜオレの調査を知っているのか聞きましたか?」


「もちろん聞いたとも」局長が言う。「なんと! セルナ嬢が直接! 見張られていると訴えたそうだ!」


「そんなバカな……」ヴォルフが頭を振る。「令嬢にバレるような張り込みはしていません……」


「ああ、そうだろう」上司が言う。「セルナ嬢ではなく、アルカサル関係者の誰かにバレたと考えた方が自然だろうな」


「それも考えられない。オレはアルカサル関係者の顔はだいたい覚えています。オレの張り込みに気付いた様子はなかった」


「だが現実として」局長が言う。「わたくしはクヌート殿下に詰められた。ヴォルフ君、君は何かをしくじったのだ。本当に心当たりはないかね?」


「……ありません……訳が分からない……」


 こんなことは初めてだ。


「どんな些細なことでもいい」上司が言う。「何かないか?」


「……オレ以外にも見張っている連中がいたが……すぐ引き上げた……たぶんディープアイズか白き翼だろう……」


「そいつらにバレた恐れは?」と上司。


 ヴォルフは首を振った。


「仮に見られていたとしても、オレが情報局所属だと分かるはずがない。それはアルカサル関係者にも言えることですよ」


 そう、おかしいのだ。仮に張り込みがバレたとしても、素性までバレるはずがないのだ。


「であるならば」局長が言う。「何らかのギフトだ。ヴォルフ君を見つけた者がそういうギフトを持っていた、と考えるのがもっとも自然」

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