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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
二章

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19話 豚を食べる豚


 セルナたちはジェイソンを殺したあと、彼の死体をバラバラに切り分けて袋に詰めた。

 実はジェイソンが来る前に見張り2人も同じようにバラバラにして袋詰めにしてある。

 セルナたちは家中に【クリーン】を使って自分たちの痕跡を綺麗に消去。

 玄関のドアが規則的にノックされる。二回、三回、二回の順番。SIUの仲間が到着したのだ。


 セルナが玄関を開けると、モニカが数名の孤児を連れて立っていた。

 通りには貸し馬車が停まっている。御者は孤児院の院長だ。

 周囲はすっかり暗くなっていて、街灯と呼ばれる魔道具が通りでいくつか光っている。

 セルナは懐中時計を確認する。この懐中時計はテランスがセルナにプレゼントしたものだ。他にもテランスのプレゼントはたくさんあるが、セルナはこれが一番気に入っている。


「ピッタリ予定時刻。完璧だモニカ。素晴らしい」

「時間を守らない人間は嫌いなので。運んで」


 モニカが言うと、孤児たちが玄関に置かれていた袋を次々に運び出して馬車に積む。


「基本は豚の餌でいいんですよね?」とモニカ。

「そうだね」とセルナ。


 モニカの孤児院でもジャックの孤児院でも、最近は豚を飼育している。人間の死体を消すためと、大きくなったら自分たちで食べるためだ。


「資本主義の豚が豚に食べられるなんて面白いですね」


 モニカがおさげの三つ編みを揺らして笑った。


「皮肉だね」セルナも笑顔を浮かべた。「豚が食べなかった部分は焼却しておきたまえ」


 孤児院にはゴミを燃やすための焼却炉がある。焼却炉自体は孤児院だけでなく、貴族の屋敷には大抵あるものだ。平民たちは自宅に焼却炉がなく、公共の焼却炉を使っている場合が多い。


「それでは私たちはこれで」


 モニカが一礼してから馬車に戻る。すでに荷物は全て運び込まれている。

 馬車が出発してから、セルナ達も歩き始める。

 少し離れた場所に停めておいた貸し馬車にニーナとカルラ乗り込み、ジャックは御者席に。

 セルナはなんとなくジャックの隣に座った。


「セルナ?」

「私も御者したい」

「あ、うん。いいけど、大丈夫か?」

「乗馬はできるよ。というか君が教えてくれ」


 乗馬は公爵家で教わったのだ。セルナ的に、馬に乗るのは意外と悪くなかった。


「なぁジャック」言いながら、セルナがジャックの肩に手を回す。「最近、君とは業務の話ばかりで雑談をしていないような気がしてね」


「あ、ああ、そうかもな」


 ジャックは照れて頬を染めながら言った。

 セルナは友情のつもりで肩を組んでいるのだが、ジャックは美少女に抱き寄せられてドキドキしているという状況。もちろんセルナはジャックのドキドキには気付いていない。


「帝都での生活はどうだい?」

「悪くねぇよ。てか、俺はセルナがいたらどこでもいいし……」

「そうか。私も君がいてくれて心強いよ」


 セルナが言ったと同時に、連絡用の小窓がノックされた。

 ジャックが小窓を開けると、カルラがジィーっとジェックを見詰めている。


「……セルナはもう中に入って。御者はまた今度教えるから」とジャック。


「そうかい?」

「ああ。みんな疲れているし、早く帰りたいだろ?」

「それもそうか」


 セルナが御者席を降りる。そうするとカルラがうんうんと頷いて小窓を閉めた。

 セルナが馬車に乗ると、右隣りにカルラ、左隣にニーナが座ったので対面の席が完全に遊んでいる。

 馬車がゆっくりと動き始める。


「疲れたかい?」とセルナ。

「そこそこです」とカルラ。


「私はまだまだ粛清できます!」


 ニーナは元気よく言った。

 セルナたちは理想の世界について話し、帝国主義者がいかに害悪かを話し、そうこうしている間にニーナの家の近くに到着した。


 セルナたちが馬車を降りると、ジャックはそのまま馬車を走らせた。貸し馬車を返してから孤児院に戻るのだ。

 セルナとカルラは、今日はニーナの家に泊まる予定だ。そして朝、セルナはニーナと一緒にアカデミーに向かって、カルラは公爵邸に帰る。

 セルナたちは出た時と同じく裏から入った。


◇


 翌日。


「大変です店長」


 執務室に事務員の女が駆け込んだ。

 ここはバテリアン商会本店、店長の執務室。


「何事だ?」


 店長は執務机に座って書類を見ながら葉巻を吹かしていた。


「それが、この小切手なのですが……」


 事務員は震える声で小切手をカバンから取り出した。


「小切手がどうした?」


 店長は葉巻を灰皿に置いた。

 事務員が小さく呼吸をしてから執務机の真ん前まで移動する。


「残高不足で不渡りです」

「ちっ、どこのバカだ?」


 店長は舌打ちしながら言った。こういうことは稀にある。だが多くはそれほど大きな問題にならない。

 不渡りだった客の家に人をやって残高不足だったことを告げれば、すぐに口座に金を入れに行く。

 ごくごくたまにだが、すでに逃亡している場合もある。もちろんそんなのは本当に滅多にない。


 どうであれ、基本的にはすぐ解決可能だ。

 バテリアン商会の裏の事業で買い物をした客は、バテリアン商会が犯罪組織と繋がっていることを知っている。更に言うと、多くの貴族も客であることを知っている。

 支払を拒否するような間抜けは基本的にいないのだ。


「それが、セルナ・アルカサルです」


 事務員の告げた名前に、店長はぽかんと数秒間アホ面を晒した。それから小さく頭を振って正気に戻る。


「あ、うん? ワシの聞き間違いだな? 誰だって?」

「セルナ・アルカサルです」

「……そのセルナ・アルカサルは、史上最高額のエルフを購入した公爵令嬢のセルナ・アルカサルか?」

「そのセルナ・アルカサルです」


 事務員が言うと、店長はいきなり両手の拳を握って小指側を執務机に叩きつけた。激しい音が響く。

 店長は長く息を吸って、そして長く吐いた。


「あのクソ小娘がぁぁぁぁぁ」店長は体中を掻きむしりたいような不快感を抑えながら言う。「あれだけ偉そうに言っておいて、ワシを脅してまで当日に持って帰っておいて、残高不足だぁぁぁぁぁ?」


 あのクソアマは信じられないほどイカレている、と店長は思った。


「……きっとエルフと楽しみすぎて、入金を忘れたのだと思います……」

「ああ! そうだろうとも! あのエルフは本当に芸術品のようだったからな! クソ! アルカサル邸にジェイソンを派遣しろ!」


 下っ端では門前払いされる可能性がある。よって、部長であるジェイソンを行かせることにしたのだ。


「いえ、それが、部長の姿が見えないんです」

「なんだと?」

「ですから店長のところに報告に来ました……」

「ああ、そうか、そういうことか」


 店長が頭を掻いた。

 この事務員は特務部に所属しているので、直接の上司はジェイソンだ。よって、本来なら報告はジェイソンに行き、ジェイソンが処理したのちに店長に報告が来る。

 そういう本来の流れすら忘れるほどに、店長は頭に血が上っていたのだ。


「たぶんですが、昨日はその、部長のお楽しみの日でしたので……」


 事務員が言うと、店長は急に力が抜けるような錯覚に陥った。


「あの変態息子……男のガキと夜通し遊んだのか……」


 ジェイソンが少年を買って民家に囲っていることを特務部の者たちは知っているし、父親である店長も知っていた。


「あの出来損ないが……」


 店長は小さく首を振った。


「どうしましょうか?」と事務員。


「ジェイソンがガキを囲っている家に人をやってくれ。無断欠勤など言語道断。減給か降格も考えなくては……」

「分かりました。アルカサル邸はどうします?」

「……仕方あるまい。ワシとお前で行くぞ」

「はい。では馬車を手配します。20分後に馬車置き場で」

「ああ。よろしく頼む」


 事務員が執務室を出て、店長は再び葉巻を吸った。しばらく煙をくゆらせてから、葉巻を灰皿に押し付けて消す。

 灰皿を壁に投げつけたい衝動に駆られたが、店長はなんとか我慢した。


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