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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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5話 宿敵となりえる少女


 銀髪の少女は寒気がするほど美しかった。

 煌めく銀髪は腰の辺りまで伸びていて、赤い瞳は全てを焼き尽くしそうなほど鋭く輝いている。

 色恋や性欲に大きな興味のないセルナでさえ、息を呑んだ。

 時間が止まったような錯覚があって、セルナの思考が消える。


「ほう、貴様、アルカサル公爵家の関係者か?」


 少女はセルナの容姿を上から下まで観察しつつ言った。

 少女の年齢はセルナより少し上、といったところだが、まるで歴戦の兵士のような威厳がある。


 ちなみに、セルナは現在13歳だ。

 この帝国には誕生日という概念はなく、新年を迎えるとともに全員が歳を取る。シンプルでいいシステムだとセルナは思っている。


「だがそれにしては粗末な服装だ」

「……普通の服のはずだがね」


 可もなく不可もなく、高価でもなく安物でもない。


「ああ、平民に扮しているのか」少女が言う。「何のために? わたくしを尾行していた理由は?」


「自意識過剰かね?」セルナは溜息混じりに言った。「私は殺人鬼を追い回すほど暇ではないよ。君がいたのは偶然だ」


 事実そうなのだ。

 セルナはスラム街を散策していたに過ぎない。


「殺人鬼?」


 少女が目を見開いた。


「そう見えたが?」

「くくっ、だとしたら貴様はもっと怯えるべきだ。泣きながら小便でも漏らせば、哀れに思って助けてやるかもしれんぞ?」


 少女はどこまでも傲慢で、どこまでも上から目線。

 セルナの嫌いなタイプを煮詰めたような相手だった。

 セルナは自分より上を許さない。

 殺人鬼などという何の生産性もない人的資源の浪費家を許さない。


「たかだか数人殺した程度でよくもまぁ、そこまで偉そうに振舞えるものだ。私など書類にペンを走らせただけで百万人以上を殺したというのに」


 セルナが淡々と言って、少女が腹を抱えて笑った。


「そうか! 貴様、イカレているんだな!? 公爵家を放逐されたか!? 直系ではないな? 直系ならわたくしが知らないはずがない!」


 少女が延々と笑うものだから、セルナは小さく溜息を吐いて首を振った。

 それにしても、と思う。

 私ってそんなにアルカサルっぽいのか、と。


「イカレているのは君の方だ。白昼堂々と殺したのだから」


「殺す? その前提が間違っている!」少女がバッと両手を広げる。「ここにいるのは! 名も持たず、税も治めず、働きもしない者たちだ! そもそも存在しない者たちだ! どうやって殺すと!? わたくしはただ! 善意で掃除をしているだけなのだ!」


 やはり関わってはいけないタイプの人間だな、とセルナは改めて思った。

 どうにかこの場から去りたいが、下手に動くと斬られる可能性がある。

 スラムの人間などは少しも怖くないが、アカデミー騎士科の殺人鬼は別だ。

 アカデミーは通っている学科によって制服の紋章が違う。

 騎士科は胸に剣の紋章がある。


「貴様、名は?」と少女。


「セルナ。ただのセルナ。そっちは?」


「わたくしはアレシア・ボニージャ。ボニージャ伯爵家の者だ。ああ、通報しても無駄だぞ。さっきも言った通り、ここの連中は存在していない」

「今は存在していないとしても、いつかは書類に記される」

「そうなったら魔物狩りか山賊狩りでもするさ」


 アレシアが肩を竦めた。

 なるほど、とセルナは思う。

 アレシアは一応、自分が捕まらないように立ち回っているのだ。

 これからも殺し続けるために。


(私の人民をこいつの遊びで消費されるのは実に腹立たしい。早めに存在を消したいところだが……)


「別に今から魔物や山賊を狩ってもいいだろう?」


 魔物と山賊は死んでもいい。セルナはそう思っている。


「遠いから移動が面倒だ」


 アレシアは酷く普通の言葉を吐いた。

 確かにそうだけど、とセルナは苦笑い。

 魔物も山賊も、出会うためには帝都から出なくてはいけない。

 そして、帝都は広い。

 なんせ100万人が住んでいる大都会なのだ。

 そして、そんな広い帝都を出たからといって、すぐ近くに魔物や山賊がいるわけでもなく。


「セルナ、貴様は私の部下にしてやろう」

「はい?」

「貴様は度胸がある。あるいは感情がほとんどないのか?」

「感情はある」


 なんせ、現在進行形でアレシアが嫌いなのだから。


「それに」


 アレシアが両手でセルナの両頬を挟む。


「その美しさはわたくしの隣に並ぶに相応しい」


 ずいっとアレシアが顔を寄せ、セルナの額にキスをした。

 柔らかい唇の感触に、セルナは少し焦った。


(なぜキスを?)


「最初に見たその瞬間から」アレシアが両手を離す。「貴様が欲しいと思ったのだ」


 どうやら、殺人鬼に好かれてしまったらしいぞ、とセルナは思った。


「わたしはタッカー・プレイスの弟子だ。君の部下にはならない」


「ほう! ますます興味深い!」アレシアが嬉しそうに言う。「あの偏屈魔法士が弟子を取ったという話は噂で聞いていたが! まさか貴様がそうだとは!」


 タッカーは実はかなり有名な魔法士だったりする。なんせ、アカデミーの魔法科を主席で卒業しているのだから。

 竜絶や宮廷魔法士、何にでもなれたのに小さな街で領主をやっている変人。


「よろしい! 師弟ともに我が家に招待しよう!」

「いや、私たちはホテルに宿泊している。不満はない」


「わたくしの招待を断るなら」アレシアが剣を抜いてセルナの服を斬った。「この場で凌辱した上、指ぐらいは持って帰ろうか」


 セルナの服が地面に落ちて、上半身肌着の状態に。


「その指を毎日嘗め回して貴様を想おう」


 シンプルに気色悪いな、とセルナは思った。


「わたしは存在している者だぞ? タッカーとアルカサルが黙っていると思うか?」


「それならそれで構わんさ! 戦争になるなら合法的に人を殺せる! わたくしとしては望むところだ! 魔法士だろうが公爵家だろうが! やり合うならとことん付き合おうじゃないか!」


 アレシアの瞳は熱を帯びていた。

 それはもう、心から戦争を心待ちにしているイカレ女なのだとハッキリ分かるほどに。

 その戦争で自分の家族が死ぬことさえ、アレシアにとっては楽しみの一つなのかもしれない、とセルナは思った。

 要するに、最初に考えた通り、関わってはいけないタイプなのだ。

 もう遅いけれども。


「やっと怯えの色を見せたなセルナ! その表情も素敵だ! どうする!? 我が家に来るか、指と貞操を奪われるか! 選べ!」

「招待を受けよう」


 指も貞操も別に惜しくはない。

 関わってはいけない人間に好かれてしまった以上、上手く立ち回る必要がある。

 いつか存在そのものを消し去るその日まで。


「よろしい。我が家の場所は分かるな? 今日の夕飯までに来い」


 アレシアが剣を仕舞う。

 セルナが頷くと、アレシアが踵を返した。

 アレシアの姿が見えなくなるまで、セルナはその場に立っていた。


「……【記録詠み】を使い忘れた……」


 まぁ使わなくても明らかに殺人を犯していたわけだが。

 それに、不正で脅してどうにかなるタイプでもない。


「精々、利用させてもらうさ」


 こうなった以上、アレシアも伯爵家も徹底的に利用する。

 セルナは切り落とされた服を拾ってから、当初の予定通りにスラム街を散策し、2回絡まれたが軽く撃退した。


 2星魔法使いであるセルナが、スラムの人間に負けるなんてことはあり得ない。

 とりあえず今日は3人ほど使えそうな人間を見つけたので、カルラのいる孤児院に行くよう伝えた。

 ちなみに孤児院の定員はすでに一杯のようだが、そこはまぁ、ねじ込めばいい。

 アレシアと違って普通の人間は不正をバラされたくないのだから。


◇


 ホテルに戻ってタッカーにアレシアのことを伝えた。


「……あのイカレ令嬢に目を付けられるとか……」


 タッカーは泣きそうな表情で首を左右に振った。


「僕は無事に領地に帰れるのかな?」


 ちなみにセルナは、アカデミー入学後は寮で生活する予定だ。


「とにかく、一緒に夕食に行こう。命は惜しいだろう?」

「当然惜しいとも……ああ、面倒くさい……」

「私だってそうさ」

「君の服も新調しないとね……」


 というわけで、セルナとタッカーはまず服屋へと向かった。


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