14話 ニーナもすっかり過激派です
「奴隷はどうやって調達しているんだい?」
セルナは鉄格子越しに奴隷たちを見ながら言った。
奴隷たちは10歳ぐらいから40歳ぐらいまでの男女で、老人は一人もいなかった。全員、栄養状態は悪くないように見えた。売り物なので当然と言えば当然だが。
鉄格子の向こうの部屋は一応トイレが付属しているが、仕切りも何もない。床や壁はそれなりに綺麗に掃除されていて、奴隷一人一人に毛布が支給されていた。
「我々に売りに来る者たちがいるのです」と店長。
「ふぅん。君たちが直接選んで拉致するわけじゃないんだ?」
「ええ。そんなリスクの高いことはしません」店長が少し自慢っぽく言う。「我々が直接購入するのは辺境の村の口減らしの子ぐらいで、基本的には『買って運んで売る』だけです」
「そうか。まぁ帝国法に違反しているし、リスクは低い方がいいか」
「その通りです。それで、気に入る商品はありましたか?」
「……うーん。私は美しい商品が欲しいんだけども」
言いながら、セルナはカルラを見た。
店長もカルラに視線を移し、納得したように頷く。
「このメイドのようなレベルはなかなか……」
当然だ、とセルナは思う。孤児院でもカルラは特に見栄えが良かったのだ。その上で能力も高いのだから文句のつけようがない。
もちろんセルナは見た目で人を選んだりしないが、綺麗な見た目が役に立つことも理解している。
「期待したほどじゃなかった」セルナは分かり易く落ち込んで見せた。「もういいよ。今日は帰る」
「お、お待ちくださいご令嬢」店長が慌てた様子で言う。「実は、レベルの高い商品はオークションとなっておりまして……」
「ほう。次の開催はいつだい?」
セルナは目を輝かせて言った。当然演技だが、店長は気付かない。
「4日後でございます。参加するなら会員証を作りますが?」
「参加してみよう」
「では後日、会員証を届ける際に開催場所と時間もお知らせします」
「よろしく頼むよ」
それからセルナ達は談話室に戻って護衛騎士2人と合流。1階のフロアでお菓子を買って帰った。
◇
バテリアン商会特務部に所属するサムは、20代の男性だ。
サムは地下秘密倉庫での勤務を終えて本店をあとにした。
辺りはすっかり暗くなっていて、サムは大きく背伸びしてから自宅へと向かう。
サムの家は二階建ての集合住宅で、部屋数は8。現在は全て埋まっており、全部で8世帯が住んでいる。
部屋はワンルームだが、トイレとキッチンが完備されている。職場からも近く、悪くない家だ。
サムは家の鍵を開けて、小さな玄関に入る。
そして。
ドアを閉めるより先に誰かに蹴っ飛ばされる。
「いてぇ! 何しやがる!」
サムは特務部という性質上、それなりに腕に覚えがあるし気も強い。
「黙らないと殺します。抵抗しても殺します」
仮面を被った人物が2人、狭い玄関に立っていた。その異様な姿にサムは恐怖を感じた。
仮面には模様があって、1つはNという形。もう1つはJだ。体つきからNが女でJが男。
「……俺が誰か分かって……ぐぇ」
言葉の途中で、Jの仮面がサムの腹部を殴った。
「次は殺します。分かったら頷いてください」
Nの仮面が冷徹な声で言った。あまりにも冷えた声で、サムはブルっと震えた。
「死にますか?」
Nの仮面は掌をサムに向け、サムの目の前に【マナアロー】を創造した。
サムはプルプルと首を横に振った。
「ひとまず部屋まで移動しましょう。ここは狭いので」
Nが言うと、Jが土足のままサムの部屋に入った。
Nがサムを促し、サムも部屋へと移動。最後にNが部屋に入る。【マナアロー】はもう消えている。
サムの部屋は若い男の一人暮らしなので、適度に散らかっている。
「あなたが扱っている商品の帳簿と顧客名簿はどこに?」
Nが言って、サムは目を丸くした。
サムは仮面の2人が何者なのか酷く気になった。治安維持隊ではない。連中はこんなやり方をしない。これは犯罪組織のやり口だ。
「だ、誰なんだあんたたち……なんで知って……ぐはっ」
Nがサムの玉を蹴り上げて、サムはその場に蹲って涙を流した。
Jが少し引いた様子だったが、Nは気にしていない。
「我々はSIU」とJ。
「ちくしょう……潰れた……ちくしょう……」
「それで帳簿と名簿は誰が保管しているのですか?」
「言ったら俺は……」
「今死ぬか?」
Jがナイフを出したのを見て、サムは話すことにした。この2人は人殺しをなんとも思っていない。それだけはサムにも理解できた。
「部長だ……」
「というと、会長の孫で店長の息子。合っていますか?」
Nの質問にサムが頷く。
「部長について知っていることを全て話してください」
サムは言われた通りにした。自分の知る全ての情報を吐いた。
「……これで全部だ……なぁ、助けてくれるんだよな?」
サムは生まれたての仔羊みたいに震えていた。
「私たちの目指す理想の社会では、人類は平等なのです。分かりますか? 平等なのです。ところであなたの商品は何ですか?」
「待ってくれ、要求には全部応えた! 俺は……」
言葉の途中で、Jがナイフでサムの首を切った。
「残念ですが、未来にあなたの席はないのです」
◇
「同志セルナ、人身売買をするような連中は全員粛清するべきです」
共鳴の指輪から、ニーナの憤った声が響いた。
ここはセルナの自宅、セルナの部屋。
ベッドに寝転がったセルナに、カルラが膝枕をしているという状態。
「あ、ああ。そうだね、私もそう思うよ。だけど今はそれよりも……」
セルナはニーナの勢いに少し驚きながら言った。
ニーナはすっかり過激派だ。
「死体の処理はちゃんとしたかい? 痕跡は消した?」
「心配いりません。ジャックも一緒でしたから!」
「そう。問題はなかったということだね」
「ええ。問題があるとしたら、全員を粛清したいという私の気持ちぐらいです!」
「ですが」カルラが淡々と言う。「今の主目的はお金です。メリッサを殺さないといけないので」
「それは分かっています。帳簿と名簿を入手して、それをネタに強請る。分かっています」ニーナが言う。「しかし、ある程度のお金が入手できたら粛清するべきです」
「もちろんそのつもりだよ」セルナが言う。「ただ、私たちが手を下すのはリスクが高すぎる。よって、帳簿と名簿の複製をクヌートに渡せば十分さ。彼はきっと手柄を立てるためにバテリアン商会を徹底的に潰すだろう」
逆にクヌート以外は当てにならない。貴族や第二皇子が絡んでいるので、治安維持隊では対処できない可能性が高い。
「気持ちとしては」ニーナが言う。「特務部の連中を1人ずつ葬っていきたいぐらいです」
「気持ちは分かるよ。でもダメだ」セルナは淡々と言う。「ニーナはジャックと帳簿の入手を優先して。方法は任せる」
「アクセプト」
会話が終わって、セルナは共鳴の指輪が複数連なった首飾りを服の中に戻す。
「憂鬱だ」
セルナはサイドテーブルの赤い封筒を見て呟いた。
その封筒の中身はメリッサ第一皇女のお茶会の誘いだった。あまり行きたくないが、未来の姉の誘いを断るほどの理由はない。
アルカサル公爵ベンジャミンに聞いてみたところ、よほどのことがないと断るのは不敬だと言われた。
「お姉様を憂鬱な気分にするなんて、もう自分が正面から殺しましょうか?」
「ダメだよカルラ。成功しないと思う」
メリッサの護衛であるバルドメロはそう簡単に倒せない。
「仮に成功してもあとが大変だ」
カルラだけが死刑になって済む話ではない。もちろん、カルラが死刑になることもセルナは許容できないが。
「分かっています。言っただけです」
カルラはセルナの頭をナデナデしながら微笑んだ。
「現状では烈火も派手に動けないだろうし」セルナが言う。「またお茶会で暗殺されるってことはないと思うけど……不安だ」
しかも今回は色々な令嬢が誘われている普通のお茶会だ。
(お姉様の普段は偉そうだけど、いざという時には弱々メンタルになるのちゅき)
カルラはまたセルナの頭を撫でた。
「まぁ、メリッサはお姉様を殺したいと思っているわけですしね?」
「そうなんだよねぇ」セルナが憂鬱そうに言う。「まぁ、理由は自分が皇太子になりたいから、だろうけどね」
クヌートがアルカサルの支援を受けることを阻止したかった、ということ。なんなら今もセルナを殺して阻止したいと考えているはずだ、とセルナは思った。
「自分も一緒に入れたら守れるのですが……」
「行ってみないと分からないね、そればっかりは」セルナが言う。「とはいえ、それより先にオークションだ。何も買う気はないけど、客の情報を得られる」




