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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
二章

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12話 張り込みに必要なのは忍耐


 ヴォルフは一人でセルナを監視していた。

 朝、セルナはアカデミーに向かうために馬車に乗る。馬車に一緒に乗っているのは護衛騎士2人とメイドが1人。

 メイドはずいぶんと幼く、本来なら公爵令嬢の専属になれるとは思えない。

 メイドの素性なども調べたいが、1人では限界がある。やはり上に報告してチームを組んだ方が効率的だ。もっとも、クヌートの婚約者を監視する任務の許可が下りるとも思えないが。


 街中を走る馬車の速度はそれほど速くないので、ヴォルフは走ってセルナの馬車を追う。

 馬車は寄り道せずにアカデミーに到着。セルナが降りて、アカデミーの敷地内に入ると馬車は引き返す。

 アカデミー内でのセルナの動向は同期のステイシーに観察を頼んでいるので、ここからヴォルフは自由になる。


 ステイシーには共鳴の指輪を渡しているので、何かあればすぐ連絡がくる。

 ヴォルフはまず、いつもの酒場に行って仮眠をとった。それから食事などを済ませて、その他の雑用も済ませる。いい時間になったらもう一度アカデミーへ。

 アカデミーが終わると、セルナはまた馬車に乗って邸宅へと帰る。寄り道はなし。そのまま外出することもなく翌日へ。その繰り返し。


 何も得られない。普通の人間ならここで「セルナは白なのでは?」と考え始める。だが諜報員は違う。

 張り込みが長丁場になるのは当然のことだ。尻尾を出すまで100日でも200日でも張り込むのだ。そういうものなのだ。


 とはいえ、1人ではそのうち限界を迎える。交代要員が必要だ。メイドのことも調べたい。あの幼いメイドは不自然だ。何かある。どちらにしても交代が必要だ。

 セルナが家を出る可能性があるので、席を外すわけにはいかない。

 交代要員は金を握らせて孤児にでも頼もうかと思考し始めた頃、セルナが孤児院へと向かった。アカデミーが休みの日のこと。


 セルナは帝都に4つある孤児院のうち、2つを支援している。どうして2つだけなのか? その2つはどのように選んだのか? それらも調べたいとヴォルフは思った。

 孤児院に到着すると、セルナはメイドだけを連れて中に入った。出迎えに院長と子供たちの代表らしい少女。

 セルナの護衛2人は馬車の外で談笑をしながらセルナを待っている。


「騎士を連れて入らないのはなぜだ?」


 暗殺にさらされた令嬢が、護衛を自分から離す理由が知りたい。知りたいことだらけだ。

 ヴォルフは近くのオープンカフェでコーヒーを注文して、少しゆっくりしながら孤児院を監視。

 孤児院には壁がなく、柵だけなので庭が良く見える。

 セルナが中に入ってから、誰も庭に出ていない。全員を中に集めているということ。


「何をしているのか? 何を話しているのか?」


 セルナもメイドも荷物を持っていたので、お菓子か玩具を配っているのだろうと推測はできる。それを確認したいと思ったが、セルナに顔を見られたくないとヴォルフは待つことにした。

 それなりの時間が経過して、セルナとメイドが戻ってくる。2人は馬車に乗り、馬車が移動を開始。

 ヴォルフは金を払ってからカフェを出て、馬車は追わずに孤児院へと向かった。


「もう1人いれば、馬車を追ってもらうのだが……」


 今は仕方ない。それにセルナの行動パターンだと、真っ直ぐ家に帰る可能性が高い。それなら孤児院を軽く探っておきたい。

 ヴォルフが孤児院の敷地に足を踏み入れる前に、何人かの子供たちが孤児院の外に出た。


(令嬢の支援金で夕飯でも買いに行くのか?)


 子供たちは籠やカバンを持っていたし、たぶんそういうことなのだろうとヴォルフは思った。

 孤児たちだけでお金を持って移動するのは危険な気もするが、彼らを襲うというのはセルナ・アルカサルを敵に回すのと同義。よほどの間抜けでない限り彼らを襲ったりしない。


 なんせ、セルナはアレシアに襲われた時でさえも、治安隊に孤児院を守るよう言ったと報告書に記されていた。それほど孤児院を大切に思っている。

 ちなみに情報局は治安隊より上位の組織なので、治安隊の報告書は好きに読める。

 ヴォルフが孤児院の敷地に足を踏み入れると、ちょうどブラザーと子供たちが畑に水やりをしていた。

 ブラザーがヴォルフに気付き、近寄ってくる。


「こんにちは」ヴォルフが先に声をかける。「私は帝都新聞のササーキと申します」


「新聞記者さんですか?」ブラザーが笑顔で言う。「どのようなご用件で?」


「こちらの孤児院はアルカサル令嬢の支援を受けているとか」

「はい。そうですね。セルナ様にはいつもお世話になっております」

「そのことを記事にしたいと思いまして、子供たちにアルカサル令嬢のことを聞いて回っても?」


 ヴォルフが言うと、ブラザーは少し考えるような素振りを見せた。


「この孤児院で一番セルナ様と親しいのはモニカですので、モニカを呼んできます。他の子たちはそれぞれ作業などもありますので……」


 ブラザーは暗にモニカ以外の子には話しかけるなと言っている。ヴォルフはそう感じたが、とりあえず「ではお願いします」と軽く頭を下げた。

 ブラザーが10歳ぐらいの子供にモニカを呼んでくるよう言って、その子は急いで孤児院の中に入った。

 ブラザーと子供たちが水やりを再開。みんなどこか楽しそうだった。


(普通の孤児院より表情が明るいように思う)


 だがそれも特に問題にはならない。貴族が大々的に支援しているのだから、他の孤児院よりいい暮らしをしているはず。であるならば、表情が明るいのも当然だ。

 しばらく待っているとモニカと10歳ぐらいの子が揃って出てきた。10歳ぐらいの子がヴォルフを指さしたあと、ブラザーの方へ。

 モニカはヴォルフの方へと移動。


「こんにちは記者さん」とモニカが笑顔で言った。


「こんにちは、モニカさんですか?」

「はい。私がモニカです。なんでもセルナ様のことを知りたいとか?」

「ええ。アルカサル令嬢の印象をまず教えてください」


「パッと見は少し冷たそうな感じですが、全然そんなことはなくて」モニカが言う。「とっても優しいお嬢様です」


「なるほど、では~」


 ヴォルフは当たり障りない質問を多く投げかけた。モニカの返答も全て当たり障りないものだった。


「なぜこの孤児院が選ばれたのだと思いますか?」とヴォルフ。


「さぁ。それはセルナ様に聞いてください」モニカが言う。「ただ、お嬢様も貴族の事情で孤児として過ごしたことがあるらしく、だから私たちに優しいのだと思います」


「そうですか。ありがとうございました。質問は以上です」


 これといって真新しい情報は得られなかった。少なくとも、セルナは孤児院では優しいお嬢様で通っている。

 本当にただ支援しているだけ、ということ。かつて自分も孤児だったから、孤児を支援したいと思うのはおかしくない。

 問題は、なぜ4つ全部ではなく2つの孤児院だけなのか、ということ。単純に金銭の問題なら、どういう理由で2つを選んだのか。

 深い意味などないかもしれないが、それでも知りたいと願うのが諜報員だ。


◇


「同志セルナ」モニカは共鳴の指輪に魔力を通す。「情報局のヴォルフが同志のことを聞きに来ました」


 ジャックはすでにヴォルフのことを突き止めていて、人相書きをSIUに共有していた。もちろんセルナも知っている。

 ちなみにセルナを見張っているのは他にディープアイズと新聞記者がいた。そしてその拠点もSIUは暴いている。もちろんヴォルフが普段から利用している酒場も。


「そうか。何か気になる質問をしたかい?」

「いいえ。普通の質問ばかりでした。やはり同志の推測通り、重要な任務ではないのでしょう」


 セルナはヴォルフを放置している。理由は単純、彼が1人だからだ。情報局ほどの組織なら普通はチームを作って監視する。それなのに1人。

 ということは、極めて重要度の低い任務か、個人的な興味による監視といったところだ。


「そっちが監視されることはないだろうけど」セルナが言う。「例の商会の件は慎重にね」


「はい同志」


 セルナはバテリアン商会の追加調査を命令している。特に商会長の孫とその周辺は重点的に調べるように言ってある。


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