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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
二章

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8話 膠着状態


 アカデミー後期初日。

 セルナはニーナと食堂の片隅で昼食を摂っていた。

 4人用のテーブルに2人は隣り合わせで座っている。対面が空いているが、誰もそこに座りに来ない。

 元々そこに座っていたアレシアもフレットもこの世にいないから。


「酷いですよ」ニーナが言う。「暗殺に怯える婚約者を置いてさっさと前線に戻るなんて。これだから軍国主義者は……」


 セルナは長期休暇中も何度かニーナとは会っている。なんなら一緒に孤児院で畑の作物を収穫した。

 その時に現状報告などもしているのだが、帝城での暗殺未遂事件のことを話して以降、ニーナは会う度にクヌートの悪口を言うようになった。


「軍人だからね、彼」とセルナ。


 クヌートとはあのお茶会以来会っていない。次に会えるのは婚約式の時だとベンジャミンを通して伝えてきた。

 セルナとクヌートはこれまでに手紙を一往復させたが、その手紙は当たり障りのない内容で何の意味もない。

 ただ、共鳴の指輪が一緒に送られてきたので、いつでも会話できる状態だ。手紙よりはマシである。

 セルナはその指輪を一応、左手の薬指にはめておいた。


「軍国主義者なんて剣と戦争のことしか頭にないんですよ。絶対に皇帝にしちゃけない人ですよ」

「それはそうだね」


 言いながら、セルナは周囲に気を配る。誰も聞き耳を立てていないし、そもそもセルナたちを気にしていない。


「心配しなくても利用し終わったら消すよ」


 セルナは小声で耳打ちするように言った。


「さすがです同志セルナ」ニーナが高揚した様子で言う。「私たちの理想にそぐわない人物は消えるべきです」


「まぁだけど、今は私の味方だからね」

「メリッサ第一皇女を消すまで、ですね……」


 セルナはSIUの主要メンバーにはメリッサの正体を共有している。

 ジャックやカルラは「SIUに皇族を暗殺する力があれば……」と拳を握っていた。

 今のSIUにはメリッサを始末する能力はなく、セルナにもない。頼みの綱であったアンシェル一家には法外な額を吹っ掛けられて、依頼を断念。

 今のところメリッサに対して何もできていない。

 セルナは最悪、自らのギフトを明かしてクヌートにメリッサが犯人だと教えることも視野に入れていた。


「思ったのですが」ニーナが言う。「軍国主義者なんかに頼らなくても、犯罪組織をいくつか潰して1億稼ぐのはどうですか?」


「それは私も考えた。今ジャックたちが帝都の犯罪組織の概要を調べているところさ」


 カルラという大きな武力もあるので、犯罪組織を潰すこと自体はそれほど難しくはない。問題は、潰しすぎて治安維持隊や中央情報局、竜絶に目を付けられること。


「その結果待ちですか」ニーナが言う。「じゃあ私はその間にメリッサを陥れる方法を考えてみます」


「いや、メリッサを直接狙うのはリスクが大きい」


 僅かでも勘付かれたら終わりだ。あの元竜絶のバルドメロは容赦なくセルナを殺すだろう。

 ルビィの部屋でバルドメロに会ったあと、セルナは彼のギフトについて調べた。

 バルドメロのギフトは【希薄な存在】というもので、ギフト発動中は誰からも認識されなくなるという優れもの。


「しかし同志セルナを殺そうとした相手です。私も何かしたいです」


 ニーナは本気で怒っていた。

 ニーナにとってセルナは未来の指導者や理想の道しるべである前に、友人なのだ。


「それはとてもありがたいことだがね」セルナが言う。「とはいえ、向こうも動いていないし、今は膠着状態なんだよね。下手に動くのは避けたい」


 そう、メリッサからのアクションも特にないのだ。

 大規模な暗殺を一度防いでいるのが大きく影響しているのだろう、とセルナは推測している。

 相手はほぼ間違いなく烈火だとセルナは思っているが、多くの人員を失った烈火も簡単に次の手を打てないでいるということ。

 もちろんそれだけではなく、暗殺未遂事件の真相を探ろうと色々な機関が動いているのも一因だ。


「それって望ましい状態ではないですよね?」

「そうだね。でもメリッサを狙うのはナシ。メリッサの護衛が反則過ぎるんだよ……」


 バルドメロさえいなければ、メリッサの周囲の人間を少しずつこちらに引き込んで操るという手が使える。

 しかし、それをバルドメロに見られたら終わりだ。バルドメロは自身の認識を消せる。セルナたちが脅している場面をコッソリ見ているかもしれないのだ。


「バルドメロでしたっけ? 今、ここにいるなんてことは……」


 ニーナが急にキョロキョロする。


「それはないよ。あの様子だとメリッサから遠く離れることはない。でも常にメリッサの隣にいるのかと問われると分からない」


 メリッサのために周囲の人間たちに目を光らせている可能性は十分にある。セルナならそうする。故に、メリッサの周囲を切り崩すのが難しいのだ。

 バルドメロはメリッサの側を離れないかもしれない。だけどもし、万が一、区庁舎内や帝城内を見回っていたら?

 メリッサと関わる人物を定期的に観察していたら?


「うぅ……私にできること、ありませんか?」


「この件では特にないよ」セルナが言う。「それより、君は人当たりもいいし、アカデミーで同志を増やすことに専念して欲しい」


「でも……」

「ニーナ、同志を増やすのは何よりも大切な仕事だよ?」


 セルナは真面目な雰囲気で言った。

 ニーナは少しだけ考えるような仕草を見せたが、やがて強く頷いた。


「……確かにそうですね。未来のため、一人でも多くの同志を獲得してみせます」


◇


「それでジャック、犯罪組織についてはどの程度調べた?」


 セルナは自室のソファに座って共鳴の指輪に向けて言った。

 セルナの背後では、メイド服のカルラがセルナの髪に櫛を通している。


「群雄割拠って感じだな」ジャックの声が指輪から聞こえる。「組織の数が多いから当然シノギも小規模。どこもこの前俺らが潰したカノー地区の組織と大差ない」


「そうか。そうなると1億稼ぐために複数の組織を潰さなきゃいけないね」


「それはリスクが高い」ジャックが言う。「治安隊や情報局が騒ぎ出すぜ?」


「分かってる。だから別の案を考えよう」


「あの、お姉様」カルラが櫛を入れるのを止めて言う。「資本主義の豚どもが蓄えた金を奪えばいいのでは?」


「ほう。続けて」とセルナ。


「はい。そもそも資本主義の豚どもはお姉様と自分たちが目指す理想の社会には不要ですよね?」

「その通り。資本主義の本質は搾取だ。理想郷に相応しくない」

「であるならば、連中の資金を奪っては? たとえば銀行や商会などから」

「なるほど。資金調達と同時に連中に打撃を与え、『未来への投資』にもなるわけか」


「今のブラックジョークか?」とジャック。

「そうだよ。面白かっただろう?」とセルナ。


「ん? ああ……そうかも?」


 ジャックは曖昧に言った。

 セルナはコホンと咳払い。


「悪くない案だねカルラ。ジャックはモニカと協力して悪どい商会や銀行家を探してくれ」


 モニカはカルラの後継者で、孤児院の一つを仕切っている。


「悪どい?」

「うむ。豚の中の豚から吊るす」


 それに悪どい連中の方が大量の金を保有しているに違いないから。


「分かった。けどどうやって金を掠め盗るんだ?」


「カノー地区の犯罪組織と同じです。自分が武力で制圧して」カルラが自信満々に言った。「SIUのメンバーがさっさと漁る」


「同じ手口だと結局、治安隊や情報局に注視されるんじゃね?」


 ジャックの言うことは実に的を射ている。


「あと一回ぐらいは大丈夫ですよ」カルラが言う。「だからその一回でなるべく多くの金を奪うんです」


「とはいえよぉ」ジャックが言う。「商会なら現金のほとんどは銀行に預けてるんじゃねーの?」


「それはそうかもです」カルラが言う。「しかし現物や商品だけでもそれなりの額になるのでは?」


「どうであれ」セルナが言う。「まずは対象を決める必要がある。計画を立てるにしてもそのあとだね」


 とはいえ、セルナは自分の得意な方法を使おうとぼんやり考えてはいる。

 いつも通りだ。何も変わらない。規模が少し大きくなるだけ。

 要するに、不正をネタに脅迫するのだ。


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