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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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3話 純粋なる赤い星


 領主の館、応接室。

 座り心地のいい高価なソファに、セルナとクラーラは座っていた。

 テーブルを挟んだ対面にはまだ誰もおらず、治安維持隊の隊長は2人の隣に立っている。

 セルナはサッと室内を確認したけれど、まぁ普通の応接室だ。過度に飾り立てているわけでもなく、かといって安っぽくもない。


 メイドたちが毎日ちゃんと掃除をしているのだろう、埃や汚れは見えない。

 クラーラは落ち着かない様子だったが、セルナはリラックスしていた。

 しばらく座って待っていると、領主のタッカーが執事を連れて入室。

 クラーラとセルナが立ち上がる。


「隊長、今日は人を紹介したいということだったけど、それって本当に僕の時間を削る価値があるのかなぁ?」


 言いながら、タッカーは早足でセルナの対面のソファに向かい、そのままドカッと座った。

 執事はタッカーの斜め後方に待機。


「はっ! 必ず会っていただかなくてはいけませんでした!」


 隊長がハキハキした声で言った。

 治安維持隊は税金で働く公務員である。なので当然、領主は直属の上司となる。


「シスターと子供?」


 この時になってやっと、タッカーはセルナたちに目を向けた。

 セルナはすぐに【記録詠み】を使用。

 以前、タッカーが外を視察している時にも使ったのだが、その時と変化はない。つまり、行っている不正は脱税だけということ。


 ちなみにだが、【記録詠み】の表示する『不正行為』は所属する国の法律に依存する。

 そして『裏切り行為』というのは、セルナに対して、あるいはセルナの組織に対しての裏切り行為しか表示されない。

 だからそもそもセルナと関わりのない人間は、裏切りの項目が表示されないのだ。


「初めまして領主様」クラーラが言う。「あたしは孤児院のシスター、クラーラです」


「君は聖女候補か何かかい?」とタッカー。


 タッカーは細身の優男で、茶色の髪には寝ぐせが付いている。年齢は30歳ちょうど。


「いえ、違いますが?」

「そう……それじゃあ、教会の階級の中で下から二番目の君が、僕に何の用? 珍しい魔導書でも持ってるの?」


 タッカーはあまり興味なさそうな様子で言った。

 情報通りの性格か、とセルナは思った。

 タッカーは魔法以外には強い興味を示さない。


「もっといいものを持っています」クラーラが言う。「しかしそれを話す前に、隊長は退室してください。できるなら執事さんも」


「分かった。廊下に待機しておく」


 隊長はすぐに回れ右をして、応接室を出た。その従順な様子に、タッカーは「ほう」と目を細める。


「いかがいたしましょう?」と執事。


「……いいよ。退室して。シスターが何を持ってきたのか気になる」


 タッカーが言うと、執事は一礼してから退室。


「で?」タッカーが鋭い視線でクラーラを射抜く。「つまらないモノなら……覚悟はできているよね?」


「あ……え……」


 クラーラは魔法士の視線に怯え、ちゃんと言葉を紡げない。

 はぁ、とセルナが溜息を吐く。

 クラーラはやはり小物だ。いつまでも偽のボスを演じさせるのは厳しい。


「タッカー・プレイス」セルナが淡々と言う。「君は『竜絶』を知っているだろう?」


「もちろん」タッカーが頷く。「皇帝直属の特務騎士団で、皇帝のためなら何でもする野蛮な連中だね。それが何か?」


「彼らは帝国全土で自由に捜査を行い、そして自由に処罰することができる」

「知っている……というか、君、いくら孤児でももう少し礼儀を弁えた方がいい。シスターは教えないのかな?」


 タッカーが再びクラーラを睨み、クラーラがビクッと身を竦めた。


「クラーラ、あとは私がやる」


 セルナが立ち上がり、タッカーが身構える。


「安心したまえ、君を殺すつもりならもうやっている」


「君は……ただの孤児ではないね?」タッカーが言う。「アサシンか?」


「冗談だろう? 私みたいな可愛いアサシンがいてたまるか」セルナが淡々と言う。「回りくどいのは苦手だから単刀直入に言う」


「そうしてくれ。僕も無駄な時間は嫌いなんでね」


 タッカーが肩を竦めた。


「人頭税をちょろまかしているね?」


 セルナが言うと、タッカーは目を丸くした。


「脱税は重罪だ。おっと、私が死んだら証拠が竜絶に渡るよ?」


 タッカーが魔力を動かしたので、セルナがそう牽制した。

 タッカーが動きを止める。


「帝国のためならドラゴンさえ絶滅させる、だからこそ竜絶。彼らは帝国の最高戦力であり、反逆を絶対に許さない」


 そう、脱税とは帝室に対する反逆行為なのだ。

 故に重罪。もっとも軽い罰でも、爵位と領地を没収したのち島流し。


「……僕は脱税なんてしていない」

「そうかい? 竜絶の調査でもそう言えばいいさ」


 セルナはニヤリと笑う。

 それからゆっくりと歩いてタッカーの背後に回る。

 タッカーは動かなかった。


「分かるだろう?」セルナがタッカーの肩に手を置く。「君自身が一番よく分かっているはずだよ? 島流しになったら、大好きな魔法の研鑽もできなくなる」


「……3つ質問をしても?」

「いいとも」


 セルナはタッカーの耳元で囁いた。

 タッカーが少しだけビクッとなった。

 セルナがタッカーの耳元から顔を離す。


「何者だ?」

「私はセルナ。SIUのセルナ」


 セルナは言いながら歩き始める。


「……エスアイユー? 聞いたこともないな。何かの組織か?」

「情報ギルドだよ」


 セルナは元々座っていたソファに戻り、腰を下ろす。


「……なるほど、情報ギルドか……」タッカーが頭を掻く。「どうやって脱税を知ったんだい? 絶対にバレないと思ったのだけど……」


「それは秘密」


 セルナのギフト【記録詠み】がなければ、まず気付かない。タッカーは非常に巧妙に脱税を行っていたから。


「まぁそうか」タッカーが肩の力を抜いて天井を仰ぐ。「魔法を更に極めるためには、お金も必要だったんだよ……」


「うん、脱税で得た金の使い道も知っているとも」


 半分は嘘だ。セルナは全ての金の流れを把握しているわけではない。でも、全部知っていると思わせた方が都合がいい。


「派手には使っていない……はずなんだけどねぇ」


「派手に使ってくれたら楽だったけどね」セルナが肩を竦めた。「それで3つ目は?」

「僕に何をさせたい?」


「話が早くて助かるよ」セルナが足を組んでニコッと笑う。「要求は2つ。まず、私を君の弟子にすること」


「……は?」

「私は帝都アカデミーの魔法科に進学する予定なんだけど……」

「今の星の数は?」

「1つだよ」


 星の数というのは、魔法士の優劣を測るもので、数が多いほど魔法士として優れている。

 魔力を星の形にして自分の周囲に何個浮かべられるか、で見ることができる。

 セルナは左手の平を上にして、そこに赤い星を浮かべた。


「純粋な赤……? 珍しいね……」


 タッカーが呟いた。

 魔力の星の色は、人それぞれだ。得意な属性なんかに左右される。水属性が得意なら水色、炎属性ならオレンジ、みたいな。


「……なるほど、得意属性は何だろう? 血を操る? それとも熱? あるいはもっと抽象的? 攻撃支援とか?」

「おい、話を続けても?」


 セルナは星を消した。


「ああ、えっと、君を弟子にするんだっけ?」

「そう。ただの孤児のセルナではなく、実力のある魔法士の弟子のセルナとしてアカデミーに行きたい」


 その方が貴族の子供たちに近づくのが容易だから、という理由。


「関連して、金銭の支援と入学試験の対策も頼みたい」


「SIUの金を使えよ……」とタッカー。


「それは正論だけど、こっちにも事情がある」


 実はそんなに儲かっていないのだ!

 もちろんそんなことは言わないが。


「……僕にも利益が欲しい」

「いいだろう。私がアカデミーに潜入する目的は、貴族のガキどもの秘密を握るためだ。必要なら君のために何か探ろう」


「……ふむ。何を調査してもらうかは追々、考える」タッカーが言う。「次の要求は?」


「なぁに、領地の運営に少しだけ、本当に少しだけ、関与させてくれればいい」


 理想の監視社会を作るために。


次は明日の18時に更新します!

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